<7>
「い、生き残ったぁ……」
「ホントですね、カナタさん」
「「はぁ……」」
思わずため息をつく二人。カナタとイリスである。
時刻は夕方。午後の訓練という名の死闘が終わり放課後となっている。
「それにしてもあんなわけわかんない訓練でよく無事だったなと我ながら思う」
「まったくです。さすがの私も2匹目が投入されたときは自分の目を疑いましたよ」
二人がものすごく疲れた様子で話すのは今日の午後の訓練に関して。話すというよりももはや愚痴であるが。
その二人が話す訓練であるが、自分の倍以上ある巨体の熊と素手でレスリング(という名のただのタイマン)をさせられたわけである。しかも逃げたらダメ。あくまで真正面から1対1でやれというのだ。正直この時点で意味が分からなかったがまだどうにか対処はできた。熊はカナタよりも体格もスピードも攻撃力も上回っている。そんな熊とカナタが真正面からぶつかろうとするならば熊の動きを常に予測し修正しまた予測しを繰り返し、熊の攻撃をいなしつつ隙をついてはダメージを与え続けるという戦い方になる。そんな感じで熊と戦闘(もはやレスリングとは言わない)をしていたわけであるのだが、その戦闘を見ていた教官であるアストリッドの一言によって状況が一変した。
『カナタ、お前余裕そうだな。ならもう1匹追加だな』
聞いた瞬間熊との戦闘中であったにもかかわらずカナタは一瞬思考が止まった。そして反論を口にしようとする前に実にあっさりと2匹目が投入された。あとから聞いた話であるがカナタ以外にも2匹目が投入された生徒は何人かいたらしい(イリス含む)。しかしあの時のカナタはもはやそんなことを気にしている場合ではなかった。ただでさえ1匹相手に結構ギリギリな戦闘をしていたというのにそこにきて2匹目である。『これムリだろ』。瞬時にカナタは悟った。それからのことはあまり覚えていない。もう生き残ることに必死すぎた。訓練の時間が終わった時など心から安堵したものだ。(訓練終了後、訓練場に残っていた熊たちをアストリッドがポンポン投げては檻に反していたのを見た時は教官はほんとにただの人間なのかと疑った)
「今日はもう何もしたくない」
「同じくです」
「「はぁ」」
再びため息をつく二人であった。
「はっはっは、今日も良い訓練であったな」
そんな愚痴を言い合っていた二人のもとにやってきたのは常時と変わらず無駄に元気なイリスの兄であるアレス。正直死闘の後だというのになんでこいつは平常時と変わらず元気なんだと割と本気で疑問に思うカナタとイリスの二人。
「兄さん、なんにでそんなに元気なんですか……」
「お前の体はどうなってるんだ」
「そんなもの、良い訓練をした後なのだ。元気なのは当然であろう」
はっはっはと笑いながらカナタの肩をばしばし叩きつつ答えになってるんだか答えになってないんだかよくわからない解答を返すアレス。こいつも正直意味が分からない。というより痛いから肩を叩くのをやめろと思うカナタ。
「兄さんのその意味不明な体力だけは素直にすごいと思います」
「まったくだ」
「うむ、カナタたちももっと鍛えるといい。そうすれば万事解決である」
相変わらず脳筋的回答をするアレス。カナタとイリスは三度ため息をつくのだった。
とある場所にて。
「城壁外より魔物を確認。数は3、このままですと検問所付近に侵入を許します」
そう上司に報告するのはまだ若い騎士の男。
「またか……。お前は教会までいって応援を要請して来い。俺は今から騎士たちの指揮をする」
「了解しました。ただちに向かいます」
そう言うと、若い男はすぐさま部屋を出る。部屋には上司の男一人が残った。
「最近妙に魔物の目撃情報が多いな……」
上司の男は一人何事か考える。しかし短い時間では当然結論は出せない。それよりも今は目先の脅威だ。そうして上司の男も部下の若い男に続いて部屋を出るのだった。
次回ヒロイン登場予定!やっとですよホント。