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宙の蛇食鷲

作者: 耀雪メイカ

果て無き闇が広がる深淵の宇宙空間。

母なる地球から遠く離れ、煌めく星々溢れる宙域で一際力強く輝く光。


それは果てしないこの宇宙を逞しく飛翔する白い人型の機動兵器・セクレタリー。

だがその形体は人でありながらも、蛇食鷲ヘビクイワシの印象を色濃く残す異彩な姿。


若干灰色を帯びたホワイトを基調に、大腿部と翼端だけはヘビクイワシ同様にブラック。

尖った指先は宇宙での視認性を高める為にイエローに染められ、その両手には重厚且つ長大なガンメタルのライフルが握られている。


白い機体の右肩に燦然と輝くは、地球統括政府公認の賞金稼ぎの証・バウンティハンター章エンブレム。

左肩には無数の手配書を踏み躙り、嘴に万年筆を咥えてシニカルに笑む蛇食鷲のエンブレムが刻まれていた。


肩甲骨と肩を繋ぐようにして存在する巨大な翼を模したブースターは、オレンジ色の莫大な量の炎を吐きながら強烈極まる推力を発生。

爆発的な加速を支える堅牢かつ強靭なフレームが、その推力を受け止め機体を前へと推し進める。


顔は精悍且つシャープなデザインのマスクが特徴で、側頭部には近接防御火器を収めたガンメタルカラーのポッドを装備。

脇の部分にも同様の近接防御火器を収めたポッドを装備し、細いシルエットでありながら逞しい印象を抱かせる。


頭部に煌めくクリアオレンジバイザー奥の鋭いツインアイは獲物求めるかのように発光して、絶え間無く光学走査を続行。

ヘビクイワシの代名詞たる後頭部の黒い羽を模したセンサー群は、フル稼働しながら発信された信号を求めていた。


「緊急救難信号……やはり間違いない」

全高20メートルを誇る巨体の胸元深く、装甲群に守られた球状のコクピット内に佇む青年はそう呟く。


機体とお揃いの白い宇宙服に身を包む長身の彼は、この機体……セクレタリーの主である若きパイロット・高鷲翔。

海賊狩りの賞金稼ぎ(バウンティハンター)であり、その使命を果たすべく目標を探している最中だ。


コンソールに紅いシグナルが点灯し、激しく明滅を繰り返す。

それは救難信号を捉えた証。


彼は眼差しを鋭くさせ、淡いオレンジ色の立体式情報端末光球・コントロールオーブに手を伸ばす。

オーブに触れるとその表面に波紋が奔り、眉目秀麗なる翔の顔が映り込んだ。

その表情は凛々しく真剣そのもの。


センサーの感度を丁寧に調整し、微細な信号からその発信位置を割り出すべく彼はオーブを操作した。

ポイントマーカーを指で動かし受信周波数を変更しつつ、ノイズを慎重且つ丁寧に分離し重要な情報を削ぎ落とさぬよう細心の注意を払う。

すると遠く彼方から発せられるか細い信号が増幅され、徐々に鮮明になっていく。


この機体は量子力学とメタフォトニクスの申し子、電子戦に於いて他の追随を一切許さぬ世界最強のマシン。

ステルス性確保に貢献する高性能受動タイプでありながら、驚異的な探知・解析能を誇る複合センサー群。

更にこの機体にしか搭載されていないシステムの桁外れな処理速度、いずれも常軌を逸した規格外揃い。


同時に極めて高い汎用性を併せ持ち、卓越した電子戦能力に裏打ちされた戦闘力は既存のあらゆる兵器を凌駕している。

量産性や省コスト化を捨て去り、ただ絶対性能のみを追求した世界に二つと無いワンオフ機だからこそ実現出来た破格の性能。

例え宇宙艦艇の専用大型レーダーでさえ捕捉は至難な程微弱な音声信号の一部を遂に復元し、再生していく。


「……ーデー! ……こち……、……求む!」

辛うじて拾った音声と信号の欠片。

しかしノイズが余りにも激しく、辛うじて復元出来たのは一部分だけ。

完全復元までは至らず内容を聞き取るのは難しい。


だがその声色から辛うじて判断出来るのは、救助対象が一刻を争う程危機的状況に置かれているという事実のみ。

しかし大きく乱れた信号の為に、発信位置を特定する事さえ出来ない状態。

広大な宇宙に於いて肝心要の居場所が解らなくては救いの手も伸ばせない。


現在この宙域の気象は安定しており、本来ならこの機体でクリアに捉えられる筈の救難信号。

それがここまで乱れるという事は通常有り得ず、何より不自然なのはこの莫大な量のノイズの存在。


これは人為的に創出された強烈な妨害電波・ジャミングによる影響だろう。

受信周波数を変更しても執拗にノイズが乗っている所から見て、敵は満遍なく電波妨害を行う広帯域雑音妨害タイプを使用しているようだ。


こちらから探知波は一切照射していないものの、恐らく放てばその周波数に即座に反応し指向性強い電波で邪魔して来る複合妨害タイプである事にまず間違いない。


信号のみならず、機体が誇る極めて優秀な光学センサーでもその予定航路に目的の船影を捉えられなかった。

通常であれば長距離宙間航行は船体が傷つくリスクを極力避ける為、スペースデブリの無い安定した航路を行くもの。

なのにその姿がないという事は、目標が予定航路を大きく外れているという事を示唆している。


現状況から鑑みて最も考えられる可能性は一つ、宇宙海賊の仕業であると彼は睨んだ。


人類が悲願であった宇宙進出を果たして幾星霜。

豊富な宇宙資源の安定した供給により文明は加速度的な発展を遂げ、人類社会はかつてない黄金時代を迎えていた。

しかし光あれば影有り、余りにも広がり過ぎた活動領域は賊に付け入る隙を与えてしまう。


地球では採取出来ない貴重な鉱石や、水や食料等輸送物資を狙い警備の手薄になった宇宙航路で略奪を繰り返す。

地球統括政府の目を巧みに逃れながら旅客宇宙船や資源輸送船を度々襲い、自らを『宇宙海賊』と名乗り航路を荒らし回っていたのだ。


彼らの勢いは宇宙開拓により齎された繁栄と比例するように増加の一途を辿り、今や嘗ての大航海時代の再来のように地球統括政府と海賊の果てしない戦いは続いている。


そしてこの宙域近傍には、昔廃棄された小惑星資源採掘フロンティアの周回軌道がある。

居住区画を持つ資源採掘施設であるフロンティア周辺は、廃棄後の宇宙ゴミ……スペースデブリが放置されたまま。


そんなデブリ帯は大抵大型である宇宙警備艇にとってかなりの危険地帯で、統括政府の監視の目が届き辛い。

監視艇や乗員の安全確保の為、当局も及び腰にならざるを得ないのだ。

正に海賊が根城にし易い場所であり、同時に彼らの得意フィールドでもある。


襲撃の際に自律型ジャマーを広範囲に渡って多数バラ巻き、ジャマーから放射する強烈な妨害電波で救助の者の目を撹乱。

その隙に襲撃を手早く終えて、警備艇が来る前に迅速に撤退する。

これは宇宙海賊がその襲撃位置を悟られぬよう隠れ蓑として好んで使う手だった。


恐らくターゲットの船を足の早い高速宇宙艇で襲撃し、威嚇砲撃を以って海賊の得意フィールドたるスペースデブリ帯に船を追い込んだに違いない。

デブリによる船体の破損を恐れて船の足が鈍れば、後はもう楽々と接収出来るという寸法だ。


宇宙船を荷物や乗客丸ごと頂くこの手口で、年間かなりの被害が出ている現状。

それを打ち砕く為に海賊狩り専門のバウンティハンターは結成された。


その一員として使命を果たすべく、翔は更にオーブを操作しノイズ除去を試みようとした瞬間。

セクレタリーの遠く遥か後方に位置するハンター仲間の船から音声通信が入った。


これは量子暗号で護られ傍受される恐れの無い、光を用いたピンポイント式秘匿レーザー通信。

光を用いる為に通信対象と同軸上に居なければならない縛りがあるものの、こうした追跡行動中に重宝する通信法だ。


「翔、聞こえる? 目標の船見つかった?」

コクピットに優しく響くのは少女の澄んだ声、次いでこの声の主の姿が立体投影される。

映し出されたのは十代半ばの可憐な少女。


長い金色の髪をツインテールにし、月面のように白い肌に輝くは澄んだブルーの瞳。

理知的な美貌を彩るは、星の髪飾りと年不相応に恵まれた抜群のスタイル。

青い花柄のワンピースを身に纏いオペレーターを務める彼女は、真摯な表情で回答を待つ。


「いや、信号の欠片を捉えたもののこちらではまだ位置を特定出来ない。だが辛うじて復元した通信の様相から察するに、既に襲撃されててもう余裕は無さそうだ。マリネイア、奥の手を使うからこの通信以降無線封鎖に入る」

そんな彼女へ翔はそう手短に答えた。

彼女……マリネイア・ヴェセリーは翔と行動を共にするハンター仲間。

親しい仲間であると同時に、希少金属を掘り当て一代で成功を収めた小惑星採掘トレジャーハンターを父に持つチェコ生まれのお嬢様。


マリネイアの父はその生業上、採掘時のみならず探索時に於いても海賊と遭遇するリスクと隣合わせ。

だからこそ安全確保の為バウンティハンター……特に翔に対して多額の出資をする、云わば大口スポンサーの娘でもあった。


翔の愛機・セクレタリーを創り上げる事が出来たのは、ロボットをこよなく愛する者達による共同出資クラウドファンディングのみならずこうしたスポンサー達の力も大きい。


冒険人生を邁進する父の元で育ったが為にその好奇心も人一倍旺盛。

彼女は宇宙を飛び回り資源小惑星というお宝を探す父に倣い、通信教育を受けながら翔と一緒に居る事を熱望した。


マリネイアの夢は父や翔同様にこの広大な宇宙を飛び回る事。

その願いは叶えられ、スポンサー先であり信頼する翔の元でこうしてオペレーターとして行動を共にしている。


「判ったわ、貴方の機体の嗅覚って今まで外れた事が無いし今度も間違い無さそうね。警備機構に連絡入れておくから、存分に暴れてらっしゃいな」

力強い翔の宣言を聞いたマリネイアはそう言って優しい表情で頷く。

危地に赴く者へ送る言葉にしては余りに素っ気ない物、けれどこれは彼女が翔を全面的に信じているからこそ。

バウンティハンターとして共に行動して来て、何時も交わして来た遣り取りだ。


「了解した、俺は先行し奴等を制圧する。バックアップは任せた、宜しく頼む」

何時もの彼女の言葉に安堵した翔は、手短に述べた言葉を発信し無線封鎖モードに入る。

この言葉を受け取ったマリネイアはきっと当局に連絡し、捕えた海賊を連行する為の大型警備艇を連れて来てくれるだろう。


憂いを断った今、後は救助に向かうだけ。

だが目標座標へと一刻も早く到達する為には僅かな角度のズレも許されない。

この過酷で広大な宇宙に於いて、勘任せに適当に進む事は命取り。

水も酸素も有限である以上迂闊な行動は厳禁だ。


だからこそ迅速に正確な位置を割り出す必要がある。

そう考えた翔は素早く手を動かして、機体の全ブースターを一旦切りつつコントロールオーブから一つの機能を呼び出す。

この機体・セクレタリーの真の力を引き出し、海賊に一切気取られる事無く襲撃されている船を的確に探す奥の手を使う為に。


「広域ジャミングで目眩ましのつもりだろうが、生憎俺の愛機は誤魔化せないな」

翔はオーブを操作しつつ不敵な笑みでそう呟くと、機体の中枢を司る制御系光量子コンピューター・QQ―DEMSへとアクセスする。

すると機体に張り巡らされ神経を模した光ファイバーが反応し、フォトニック結晶を極限集積され形成された光回路が活性化。


そしてヘルメットの部材に仕込まれた非侵襲式の超高精度脳波センサーを通じ、翔の意識が機体へとスムーズに接続。

肉体より抽出されゆく彼の意識場に融合するようにしてシステムに更なる光が奔っていく。

同時に機体を構成するモーフィング・メタマテリアル装甲……通称M3多機能装甲がセンサーモードで起動した。


翔の思考が格段に明瞭になると同時に時間感覚が圧縮され、意識が加速していく。

その速さたるや凄まじく、決して人が知覚出来ない一瞬にさえ満たぬ僅かな時間をも永遠だと錯覚する程だ。


これは光速で駆動するシステムとの同調効果で、翔の思考速度が飛躍的に高められた影響によるもの。

人の肉体では耐えられない膨大な処理も、システムと融合した今ならば実現出来る。


更に光神経を通して、まるで機体装甲が彼の感覚器になったかのようにその知覚野が一気に増大。

自らの意識も無意識も客観視し、この宇宙を鋭く俯瞰する……そんな有り得ない程の洞察力を宿す。


翔は静かに瞳を閉じて、そのまま電光石火のように研ぎ澄まされていく五感を機体と同調開始。

すると慣性飛行のままに宇宙を揺蕩う感覚がその脳裏に鮮明に浮上した。


感じるのはまるで自らが宇宙の一部になって溶け落ちたかのような高揚感と、人を束縛する柵の全てから開放されたかのような途方も無い開放感と全能感。

ただ僅かに流れ行く星々の光だけが確かな時間の経過を教えてくれる。


視覚や感覚が機体とリンクし、今や翔の身体は自らが乗る巨大なロボット・セクレタリーそのものとなった。

パイロットにネガティブな要因を齎す痛覚は遮断・無効化されながらも、その全ての感覚は研ぎ澄まされヒトや生物の比ではない精度を持つ。


肌と化した装甲のみならず、システムと融合した彼自身の意識をもセンサーと化し信号の源を探る。

この果て無き宙域の何処かで助けを求める声に応える為に。


製造の手間とコスト……維持管理とありとあらゆる面で非効率的だと思われ、翔以外運用する者など居ない搭乗タイプの人型ロボット。

だがそこには世に知られていないある利点が存在した。

それは人の形であるが故に、搭乗者の意識とシステムとの同調率を稼げるという事。


セクレタリーの基幹部制作に携わった博士が極秘裏に開発した、イメージのままに機体を動かせる思念制御システム・シンクリンク。

これは『ヒトの意識と機体のシステムとを融合させ、人機完全一体化を実現する』という禁断のコンセプトで制作された代物。


機体に張り巡らされた光神経系を通して、量子脳理論に基づき設計されたQQ―DEMSとの完全同調を果たす。

この革命的な機構の存在が彼の機体を世界唯一の物として特別たらしめていた。


豊かな創造性と優れた臨機応変さを併せ持つものの、集中力の持続性や正確さに限界を抱える人間。

一方で正確さと破格の演算力を持つものの、柔軟さを欠き折角の計算能をスポイルしてしまうフレーム問題を抱える機械の限界。

それらを共に打ち破り未知なる超知性を生み出す為に、倫理無視を承知の上で実現した革新的なシステム。


正に技術的特異点を超えた先に辿り着いた究極の科学の産物。

その恩恵は未曾有の力となって発現する、全ての機械を支配し掌握する電子の神へと至る事で。


だがシンクリンクを発動する為には必ずクリアせねばならない条件が有り、容易く使える物では無い。

それは極めて高い同調率が必要で、余分なノイズ発生源は禁物。

故に操縦者は一人に限られる。


更に五指を持ち人を象る形体である事に加え、光神経網がなければ同調率が稼げず起動しない。

例えばもし仮にヒトの意識だけを抽出し蝶に移植したとしても、身体の機能の差異による違和感で思うように飛べないように。


人と機械……生まれたその瞬間から課せられた限界。

シンクリンクはそれを超えた先にある遥かな高みへ至る為の希望、その力を翔はただ自ら信じた正義の為だけに使う。

彼が夢見て憧れ続けて来たヒーロー達のように。


機体を司るシステムへと高度に同調した翔の意識。

彼は一心に救うべき人を探す、静寂なる宇宙の闇へと向き合いながら。

探知範囲をより拡大し、微細な違和感がないかどうかを根気強く丹念に。


すると、知覚器と化した装甲越しに機械には存在しない人知を超えた直感が囁く。

そこに優しく溶けこむようにして、QQ―DEMSが目標候補を瞬く間に絞り込んだ。

まるで数式の過程を飛ばして結果だけを導き出すかのように。


同時に放射されるジャミング周波数パターンからデータベースを参照し、敵がバラ撒いたジャマーの正体も判明。

周波数違いの新旧・大小合わせて数千の独立作動型ジャマーが撒かれ、行く手を遮るかのように満遍なく散布されていたのだ。


それらが生じるは強烈極まる妨害電波による不協和音の大熱唱。

並の賞金稼ぎならばこの状況にすっかり音を上げている頃合だろう。


だが人機一体を実現した今ならば違う。

その信号を傍受・解析し、妨害信号の放射点や波長パターンと共に使用される通信暗号鍵等のギミックを綿密に把握していく。


するとどうやらジャマーはただ悪戯にバラ撒かれた訳ではなく、相互フォローする位置取りで配置された物と判明。

加えて巧妙に撹乱用周波数がズラされている個体もあるという事が解った。


これは電波妨害を行いつつも、未確認機接近の際にはその周波数の差異を感知し鳴子としても機能する面倒なタイプだ。

低コストでシンプルな造りが故に、こうして数の中に密かに紛れ込ませると効果的でありその厄介さが際立つ。

幸いにも単機能型で純粋にジャミングと鳴子として特化したタイプ、それ以上の脅威は無い。


ここまでの手を使うという事は、敵は恐らくそれなり以上に名の知れた海賊。

間違い無く相当の規模を持つ戦力と当たらねばならないだろう。

だがバウンティハンターの使命を果たし、救援する為には戦わねばならない。


そう考えた瞬間解析が遂に終わり目標を割り出す。

ピックアップされた候補に彼の経験と直感が付与され、捉えた違和感の源……求めていた行くべき道を鮮明に指し示した。

強烈な妨害電波を発する領域を前に、人も機械さえも知覚出来ない程の短時間で海賊に気取られる事無く目標を見つける事など通常は不可能。


人が誇るファジーさと無限のイマジネーションに、コンピューターが誇る正確無比且つ膨大な演算能力。

それらが光で直結され融合した事により生み出される相乗効果は、あらゆる欺瞞も策も容易く打ち破る。

世界でも翔とその愛機の協調動作だけが成し得る看破力は、遂にジャミングの形成する濃厚な妨害膜の彼方にある目標を捉えた。


妨害電波の発生領域を指し示す無数の黒い円が続々と弾け飛び、その向こう側に青い一つの点とそれを追う三つの赤い点を察知。

青は救助対象、赤は海賊の船である事を示唆していた。


「……見つけた!」

翔は両目を開くと同時に叫ぶ、そして思い描いたイメージのままに機体に備わる全ブースターを一気に解き放った。

黒い翼端ブースターが稼動すると同時に閃き、強大な推力伴う炎が深遠なる闇を照らす。

凍えた宇宙を焦がさんとする力……それが生み出す暴力的な加速は、星達の瞬きをも置き去りにする程だ。


機体中枢部のQPTツインヘリカルエンジンがその身に余る程の莫大なエネルギーを創り、セクレタリーは威圧感を湛えたままに目標へと真っ直ぐに飛ぶ。

流麗極まる人と鷲の折衷のようなその姿は、厳かでありながらも雄々しく気高く美しい。

闇を斬り裂きながら飛ぶヘビクイワシは更なる力を顕現する、鳴子の巣窟を突破する為に。


「煩い鳴子共はそのまま呑気に囀っていて貰う、マルチプルフェーズステルス起動」

強気に翔はそう言い放つと、QQ―DEMSが反応し光神経を通じM3多機能装甲へ新たな指令が下された。

装甲材が指令に従いその物性を変化させ屈折率を偏向、敵の放つ探知波を巧みに回折し出す。


すると妨害を兼ねる探知波がどんなに飛来しても、セクレタリーの装甲表面で迂回し反対側に突き抜けてしまう。

例えるならば今のセクレタリーはカメレオンの擬態のようなもの、但しこれは光学的ではなく電波的な擬態。


こうなったら機体表面装甲からの反響が一切発生しない為、鳴子は通過するセクレタリーの姿を全く捕捉出来ない。

故に自らの存在を完全に秘匿したまま敵の目を欺く事が可能。


信頼する機体の力を支えるのは、最先端の素材技術。

電波のみならず光でも熱でも自在に偏向出来る新世代の動的メタマテリアルならでは。

加えて散逸構造生成により作られた為、自己組織化による簡易再生さえ可能とする正に夢の超装甲。


その製法はセクレタリー建造に関与した博士のみが知り、一切公にはされていない秘中の秘の技術。

それを全ての装甲に採用した為、この機体はあらゆる探知手段に対して究極のステルス性能を誇る。


まるで蜘蛛の巣をすり抜けるかのようにセクレタリーはジャマー跋扈する妨害領域を突破。

これも探知波をリアルタイム演算し精密に回折し続けた成果だ。

鳴子ジャマーは突破を許した事にさえ気が付かず、呑気に妨害電波の大合唱を続けていた。


その様を一瞥して翔は口元に余裕の笑みを浮かべる。

狙い通り鳴子をやり過ごした上に、ジャマー間を行き交う秘匿通信を密かに傍受したからだ。

機体を通過する情報を一切損なう事無く反対側へと回折、同時にその情報を読み取り海賊が通信機器間で使う暗号鍵を入手。


「暗号鍵取得完了、数揃えに安物を使うとはまだまだ海賊も詰めが甘いな」

強気に翔はそう言い放った。

海賊達の使う鳴子兼ジャマーは製造年代も価格帯も違う新旧入り乱れた状態で運用されている。

異なる物同士での通信レスポンスを確保する為、どうしても古い方に合わせた暗号鍵を使わざるを得ない。


だがその分を補うべく、軍用に匹敵するレベルの物を数種類組み合わせてその暗号強度を高めてあった。

解読するのであれば多くの大規模スーパーコンピューターを並列接続し、フル稼働させて尚112兆年もの月日を要する程だ。


通常であれば解くのは不可能……しかしそんな暗号も人機一体と化した今ならば解くのは一瞬。

光と化した翔の意識に膨大な数式が迸り、瞬く間にその解へと収束していく。

まるで紬糸のように。


人と機械を超越した今ならば、豊富な計算能と高い創造性を併せ持ち如何なる計算にも対応可能。

従来のコンピューターでは不可能である事も、人の意識と融合すれば可能性が拓ける。

云わばQQ―DEMSは科学的に奇跡を呼び起こすシステムなのだから。


通信の出本を証す暗号鍵を解析完了した事で、無事次なる手への布石も完了。

翔はその意識を真っ直ぐ目的地点へと向けた。


妨害電波の嵐を抜けて暫く飛ぶと、遠く彼方に星の瞬きとは違う煌めきを捉える。

ツインカメラアイによる光学ズームで目標地点を走査すると、そこには白く巨大な旅客宇宙船を猛追しつつ砲撃で追い込む3隻の歪な海賊船の姿。


海賊船は仰々しい装飾過多で、示威的な佇まいは何処かガレオン船のようでもあった。

懐古主義の海賊らしい何とも特徴的な船だ。


まるで白鳥のように美しい旅客宇宙船を掠めるようにして花開くは、無数の火線。

海賊船の主砲が続々と放たれ、旅客船を追い詰めていく。


流星群めいた光に照らされるようにして、救助対象の旅客船は回避機動を取りながら懸命に航行していた。

その操縦桿を握る機長の声と共に、緊急信号がコクピットに飛び込む。


「メーデー、メーデー! ……こちらコスモラインSA12580便、当機は現在宇宙海賊の襲撃を受けている! 至急救援求む!」

機長が発する救い求める叫び、回避に徹する旅客宇宙船から発せられるは懸命なるSOSのサイン。

全方位にオープンチャンネルで放たれる機長のその声は焦りに満ち溢れていた。

それも無理は無い、予定航路を外れ遅れるばかりか宇宙海賊に捕まる可能性さえある状況だからだ。


だが幸いにも旅客宇宙船に航行に支障が出る程の派手な損傷は見受けられない。

しかし海賊の攻撃が続けば被弾する恐れがある、翔は万一の事態を阻止すべく機体を急がせた。


その加速の最中にも敵を分析。

海賊達は襲撃に夢中である事に加え、互いに距離がかなり開いていてセクレタリーには全く気がついていない。


あらゆる探知波を回折させ破格のステルス性を誇る機体が故に、レーダーで捉える事など不可能。

加えてこの機体は装甲の屈折率を変化させ、熱・光学面の完璧な欺瞞さえ出来る。


その為彼等の眼前に躍り出ない限り、気付かれる事は決してないだろう。

そして敵に感付かれていないという事はアウトレンジから電子戦を仕掛ける絶好のチャンス。


あの船の中には沢山の乗客が居る、大型の長距離航行便だからその人数は優に五千人以上乗っているに違いない。

彼等を救うべくセクレタリーと翔は秘めたる真の力を解き放つ。

人も機械もその知覚を一切許さぬ、微細な時という名の聖域で。


「テリトリースタンバイ、ペネトレーション開始」

そう言って翔はその意識を3隻の海賊船へと鋭く向けた、敵目標へと電子戦を敢行する為に。

機体と融合した彼の意識に迸るは、多種多様で余りにも膨大な情報。


それは機体の光メモリ内データベースから呼び出された、攻略の鍵となる情報群。

海賊が使う船型と、その予想製造年から搭載されているであろうシステムの関連データ。


そしてそのデータを分析して明確に導き出された、敵機の防御機構が抱える脆弱性の一覧。

修正済みと想定される項目を逐次除外し、敵システムの仕様から推測されるまだ見ぬ脆弱性の予想をピックアップ。


そう……余りに広大な宙域を航行する宇宙船は航行にせよ艦内環境維持にせよやる事が余りにも多岐に渡り、完全な人力だけで動かす事は実質的に不可能。

故に必ず人をサポートするコンピューターが搭載されており、それが船の制御を司っている。


だからこそそれを手中に収めれば海賊船の制御を支配し、そのまま敵を無力化する事さえ可能だ。

システムを掌握し海賊の足を止めればSOSを発信する旅客船を無事守れて、予定されていた航路へと戻せるだろう。


呼び出したデータに従い敵電脳中枢を陥落すべく、システムの脆弱性を貫くプログラム・エクスプロイトコードが続々と練り磨かれ新たに生成されていく。

翔の明確な攻撃意志が創造性を刺激し、それに応えるようにしてQQ―DEMSが莫大な演算能力を提供。

人機一体となって得られる光速の協調動作で、瞬く間も要らず文言を織り込む。


狙うは権限昇格攻撃による敵システムの完全掌握ただ一つ。

云わば敵の頭脳を乗っ取って手綱を握り、完全に意のままにしてしまおうという手だ。


加えて完全新種のコードであるが故に、敵免疫系を容易くすり抜ける事が出来る。

海賊の想定を超え防御不可能なゼロデイ攻撃。


古今東西あらゆるウィルスデータベースに登録されていないそれは、一度放てば必ず仕留められる必殺の一撃。

敵に一切抵抗を許さぬまま陥落させる為だけに用意された脆弱性を巧みに突く電子の刃。


リアルタイムで生成される、この世界に初めて芽生えた多彩なコード……それらが一気に収斂していく。

敵に攻撃さえも悟られぬまま制圧する電子浸透制圧攻撃を敢行する為に。


遣り過ごした鳴子より抽出した敵が使用している通信用暗号鍵。

それを用いて仲間からであると巧妙に偽装した通信に乗せ、エクスプロイトコードを解き放った。


すると機体を構成するM3多機能装甲の物性が一斉に変化し、セクレタリーの外観はそのままに機体そのものが巨大なアンテナと化す。

エクスプロイトコードは強烈な指向性を持つ通信電波として照射され、襲撃に興じる三隻の海賊船を貫いた。

仲間からの通信という形に見せかけて。


解読した暗号鍵を付与する事により、この通信が完全に鳴子からの定期通信だと認識した敵システムはコードを拒む事無く受信。

その瞬間始まるのは、余りにも一方的な電子的蹂躙。


敵中枢システムを護る一次電子防壁が、エクスプロイトコードによりその脆弱性を突かれ機能停止。

その壁をすり抜けるようにして二の矢三の矢たるコードが次なる防壁へ続々と殺到していく。

地球圏の生態さえも超える豊富な多様性を以って、十重二十重に重ねられた防壁群の死角たる脆弱性を突き侵食。


侵入して尚全く悟られぬまま防壁を破り続け、次に立ちはだかる防護殻壁にもその免疫系を巧みに欺き揚々と突破。

敵に一切知覚されない攻撃の連鎖が続いていく、まるでドミノ倒しのように軽快に。


加えて新種が故に敵に対処の手立ては全く存在しない。

結果敵の機械も搭乗者達も異変に気付く事さえままならず成されるがまま。

これも電子戦最強を誇るセクレタリーと人機一体となった翔だからこそ出来る技。


人と機械の融合により、それらを超えた超知性へと昇華する。

人でも機械でもない未知なる超知性だからこそ、機械を惑わす電子対抗手段も人を惑わすあらゆる手も全く通用しない。


多数のターゲットに対処不可能な攻撃を同時敢行しながら、自らに対しては如何なる電子戦手段も通用せず一方的なワンサイドゲームを実現する。

全ての機械を従える戦域電子支配、この戦場で翔とセクレタリーはそのコンセプトを遺憾無く発揮していた。


敵が想定した防御能を容易く凌駕するだけの獰猛な攻撃性と多様性持つエクスプロイトコードが、敵システムを呑み込み我が物としていく。

一瞬にさえも満たない極々僅かな時間で敵の守りを瓦解させる様は、正しく魔法そのもの。


遂に海賊船の中枢部たる最終非常電子防壁をも貫通し、管理者権限を掌握。

敵に侵攻さえも悟られぬまま電子浸透制圧は成功する。


一切抵抗許さぬままファーストコンタクトでカタが付き、システムの管理者として振る舞える……それは即ち海賊船を三隻丸毎その手中に収め脅威を無力化した事を意味していた。

乗っている海賊達はその事実に気が付かないままに。

早速翔は敵システムを意のままに書き換え、船内より発せられるあらゆる命令を掌握・無力化しつつ自身の命令を最優先に設定。

これで敵は最早中枢システムを弄る事は出来ない。


同時にセクレタリーを中心に極めて広大な領域を電子的支配下に置き、その空間内で起こるあらゆる事象を極めて高度に予知可能なドミネイトテリトリーを形成。

これで翔の勝利は最早盤石の物となる。

その事実を確認した彼は、公共通信用周波数・オープンチャンネルを開き確かな誇りと共に言い放つ。


「SA12580便、こちらバウンティハンター・高鷲翔……救援要請に基づき援護する! 海賊は既に無力化した、一気に奴等を振り切って離脱してくれ!」

堂々たる宣誓と同時に、彼はその機体を猛然と加速させ海賊船の前に一気に踊り出させた。

白き宇宙船を庇う堂々たるその勇姿に、オープンチャンネルが賑やかに沸き立つ。


「おお、君はあの……! 有難い、助かった!」

SA12580便の機長がその姿に思わず感嘆の息を漏らした。

翔はその知名度のみならず、名実共にトップクラスの実力を持つバウンティハンター。

そんな男が救援に駆け付けたのだから機長が安堵するのも当然の反応だろう。


機長は翔の言葉に従い、スロットルを上げ推力を増した。

海賊は不測の乱入者に注意を引かれ攻撃の手が止まっている、現宙域を離脱するには絶好のチャンスだ。


「高鷲翔、あのロボット乗りの伊達男か!? ここまで接近させるなんざ、レーダー員は何をしていた! 鳴子は動いてた筈だろう?!」

そのオープンチャンネルに驚愕の声と共に割り込んだのは、宇宙海賊の男。

余りに唐突な賞金稼ぎの登場に動揺を隠せぬ様子だ。

威厳のある声さえも驚愕の色にすっかり染まってしまっていた。


「依然レーダーに機影無し! 鳴子は全基正常に動作中……船団長、こいつは間違い無くヤバい相手です!」

船団長と呼ばれた男の声に答えるようにしてレーダー係が狼狽えつつ叫ぶ。

一切接近に気が付かなかった所か、こうも堂々と眼前に居る相手をレーダーは全く探知出来ない。

その有り得ない事実を前にすれば当然の反応だ。


一連のやり取りで船団長と呼ばれた男の声に聞き覚えがあった翔は、光学走査で敵の船を注視すると目立つエンブレムを発見する。

由緒正しい黒字に白で描かれた髑髏に蛇が絡みつくエンブレム、それは伝統的な海賊旗の紋章形式。

あの紋章を誇示するという事は、宇宙にその名を轟かせ大手に名を連ねる宇宙海賊・ヴァイパーの物に間違いない。


リーダーらしき男の声紋を、過去の襲撃で得られた証言を元に地球統括政府の警備機構が丹念に調べていたデータベースに照合。

その結果、ヴァイパーを束ねるボスの側近であり重鎮の一人……ヘラルド・ガルベスの物だと判明。

賞金の掛かった手配書に付随する資料、その中の音声サンプルで翔は聞き覚えがあったのだ。


大海賊の重鎮であるヘラルドの関与した事件は多く、過去に27回もの物資船強奪を成功している。

水や食料のみならず宇宙で採集する希少鉱物を中心に狙う傾向にあり、被害総額を合わせると大企業でも傾く程。

その為ヘラルドの首には極めて高額の賞金が懸かっていた。


ヴァイパーの正に大物中の大物、戦力もそれなり以上に整っているだろう。

しかしもう既にその牙はセクレタリーにより抜かれてしまった、搭乗する彼等が気付かぬ内に。

不測の事態で浮足立つ敵に対し、翔は正対する海賊船へ向けライフルを構えて堂々と投降勧告を行う。


「宇宙海賊に告ぐ……既にそちらの中枢システムは当機・セクレタリーが完全に掌握した、海賊は直ちに抵抗を止め投降せよ。繰り返す、これ以上の抵抗は無意味だ」

賞金稼ぎが宇宙海賊に対して行う定例的な投降勧告、その言葉通り既に3隻の海賊船は中枢部をセクレタリーにより乗っ取られている。

余裕綽々と言った感じで事実を伝える翔に反発するように、ヘラルドは威勢良く啖呵を切った。

船団を率いる者としての誇りと意地を乗せて。


「構うな、奴の言葉はハッタリだ! 主砲用意……手動照準で奴を撃ち落とせ!」

海賊船3隻を束ねる船団長である彼は、怒号と共に部下達へ攻撃を命じた。

レーダーに映らずとも手動で狙い撃てと。


その命令に従い、部下達は手動照準で狙いを定める。

ターゲットとなるセクレタリー……一切避ける素振りの無い機体へと、海賊船に備わった大型連装主砲が一斉に向く。

大口径の砲口が躍動し狙いを付け、海賊がトリガーを握りいざ撃たんとした瞬間異変が起こった。


「味方機判定で撃てない!? 船団長、IFFがっ!」

砲手が有り得ない状況に思わず悲鳴を上げた。

海賊船の有する敵味方識別装置・IFFが、セクレタリーの姿を友軍と誤認し火器管制システムが攻撃を拒んでいるのだ。


「何だと、馬鹿なっ?!」

発砲せず沈黙したままの砲……そして砲手の叫びに、ヘラルドは思わず座席を立ち上がり驚愕の声を漏らす。

翔の宣言通り、抵抗は無駄と断じた意味とその通りの現実……船団長たるヘラルドは受け入れられぬまま戸惑っていた。


セクレタリーはその気になれば光学欺瞞で機体を透明化し、その姿を一切見えなくする事だって出来る。

だが敢えてそうしなかったのは、IFFを既に改竄していた為だ。

敵味方識別を欺瞞し、最早敵はセクレタリーに対して一切攻撃する事は不可能。

攻撃その物を既に封じていたから態々避ける必要は無い。


更に中枢システム経由で火器管制をも掌握したので、システム管理下の機械制御式兵器はそもそも決して発射には至らない。

既に敵の駆使する火砲もミサイルも全てはセクレタリーの支配下。

主力火器を封じられた敵は、最早烏合の衆以外の何物でもない。


戸惑う海賊に追い討ちを掛けるように、海賊船のレーダーコンソールが一斉に警告を発した。

それは敵船異常接近の警告と、近接防御の提言。

そう、友軍たる海賊船をシステムが敵だと認識しているのだ。


「友軍を敵判定?! マズイ、このままでは近接防御火器が勝手に!」

火器担当員が、必死にコマンド入力し友軍への攻撃を止めようとする。

万が一自動迎撃モードが起動すれば、味方同士の間に砲撃が飛び交い大惨事は免れないからだ。


最早敵味方識別も火器管制もセクレタリーの思うがまま、もう敵に止める術は無い。

その気になれば海賊の意志を無視し、勝手に同士討ちさせる事すら可能なのだから。


「全艦通信を遮断してシステムを一旦落とせっ! 奴の電子支配を断ち切るんだ!」

翔の言葉を事実と見たヘラルドは、断腸の思いで非常手段を命じた。

それは無線封鎖とシステムの再起動。

翔の電子支配からの脱出に一抹の望みを掛けて、一か八かの賭けに出たのだ。


「しかし船団長、それでは防備がガラ空きになります!」

その命令を聞いて、オペレーター担当の男が反論する。

彼の言う通り、脅威を眼前にしながらのシステム再起動は艦を無防備にする為自殺行為に等しい。


「いいからやるんだ! このまま何も出来ずに捕まりたいのか?!」

「りょ、了解です船団長」

その反論に対し、激昂しながらヘラルドは叫んだ。

オペレーターはその鬼気迫る様相に折れてシステム再起動の操作を開始。

彼に続くようにして3隻同時に再起動プロセスを始めた。


この状況下で一定時間無防備になる余りに多大なリスク伴う再起動。

だがそれは最早海賊に残された数少ない手。


艦の制御を乗っ取られたままでは、攻撃所か艦内環境を弄られて戦闘不能に陥る危険性すらあるからだ。

そうなれば攻めるも退くも叶わない、勝機の見えない博打にヘラルドは腹を括った。


緊迫する空気の中、必死に再起動コマンドを入力し続けるオペレーター。

懸命な作業にも関わらずその手が不意に止まる、その瞳に絶望の色を浮かべて。


「船団長、ダメです! コマンド一切受け付けず再起動出来ません、制御権を完全に握られています!」

「何だと!」

オペレーターの男が上げる悲痛な叫びに、ヘラルドは愕然としながら叫んだ。


システムを再起動させるコマンドが強制的にキャンセルされて、一切受け付けない。

海賊のオペレーターは複数の経路で何度トライしても、その都度弾かれていた。


既に翔が仕掛けていた術が花開き、もう海賊は翻弄されるがまま。

目に見えない電子戦、それが齎す恐ろしさはやがて絶望へと代わり海賊艦内に浸透。


この過酷な宇宙に於いて、艦内艦橋を整え活動を支える中枢システムは不可欠。

それを完全に奪われたという事は海賊にとって致命的だ。

修羅場と化した艦橋に佇むヘラルドは無力感を覚えながら顔面蒼白になっていく。


「船団長、手動もダメです! 制御室の隔壁が!」

ソフトウェアでダメならと中央制御室へ向かい手動による強制停止を試みた海賊から、トドメとなる悪い報告が届く。

制御室の分厚い非常隔壁が勝手に下ろされていて制御室へ入る事が出来ないと。

船内電源を無理やり落とし再起動を試みようにも、電源室も隔壁閉鎖されており侵入出来ない。


物理的な再起動のチャンスすら失い、海賊船はコントロールを回復する手段を完全に喪失。

オープンチャンネル越しに飛び交う海賊達の声が次第に悲鳴へと変わり、彼等の間に動揺が走った。


「言った筈だ、中枢システムはこちらが掌握していると。仮に再起動したとしても無駄だ、システムコアは既にこちらの管理下……起動した瞬間からコントロール権が譲渡されるよう仕組んである。即座に武装を解除し投降せよ!」

機神の力に戦慄する海賊達へ、翔はそう力強く言い放ち投降を促す。

彼の言う通り、最早システムは掌中にあり敵に奪還する術など無い。


海賊は人類共通の敵、故にその一時的な処断は賞金稼ぎに一任される。

危機的な戦闘状態の渦中であれば海賊側に死人が出る事もやむ無し。

その結果を賞金稼ぎは決して咎められない。


だが無用な殺生は断じて推奨されないし、翔自身のポリシーもそう。

それに生け捕りにすれば芋蔓式に海賊の情報を引き出せる可能性が有る為、報酬も大きく弾む。

ましてや今回の賞金首はあの宇宙海賊ヴァイパーの重鎮・ヘラルド。


彼から引き出せる情報は、警備機構としては喉から手が出る程欲しいに違いない。

上手く行けばヴァイパーのアジトを突き止め、壊滅させられる可能性も出て来る。

賞金稼ぎである翔にとっても、更に稼ぐ可能性がある正に千載一遇のチャンスだ。


「チッ! これだから機械は信用出来ねぇ、こうなれば手動でロケット砲を撃て! いいか、出し惜しみはするな……有りっ丈だ!」

冷静さを取り戻し、怒りの感情を顕にしながらヘラルドは乗組員に檄を飛ばす。

その言葉に従い、宇宙服を着た乗組員達は一斉に手動式のロケット砲座へと赴き狙いを付け始めた。


ロケット砲は手動で発射まで行う砲台の為、火器管制システムの制御外。

現状彼等に出来る唯一の攻撃手段だ。

海賊船甲板にフジツボのように無数に設置された砲台が、宇宙服のパワーアシスト機能により動かされ砲口が刻々とセクレタリーへと向いていく。


手動式ロケット砲など自動制御が当然の今の社会にとって、時代錯誤も甚だしい。

だがその古さが却って幸いした。


徹頭徹尾懐古主義であり、海賊らしさに拘るヴァイパーの趣向宿りし火器。

それが全ての機械に対し君臨する機神・セクレタリーに対し、せめて一矢報いんと火を噴く。

船体から無数のロケット弾が放たれ、宇宙の闇に発射炎が続々と花開いた。


白い煙を掻き分けて、機体目掛け数百発ものロケット弾が一斉に飛来。

その様を睥睨しながら翔は言い放つ。


「警告はした、尚も足掻くか海賊……ならば制圧行動に移る!」

大物首を前に高揚する翔は、飛来する危機に対し迎撃行動を開始した。


この敵の決死の悪足掻き、海賊全員の生け捕りを目論む翔にとってはむしろ好都合な物。

足掻くだけ足掻かせて、最後に残った奥の手を絶対的な力を以って圧し折る。

それが戦意を挫く最も効果的な方法だと熟知しているからだ。

同時に警備機構の艦艇による海賊確保をより安全にする為、敵の攻撃手段を完全に断ち切っておく狙いも含まれていた。


ブースターの有り余る推力を前方へ向けて、海賊船の傍から離脱しつつ殺到する弾頭を走査し分析。

どうやら手動で撃たれた弾頭は単純且つ古典的な着発信管タイプ。

精密機器を搭載していない以上、電子戦でどうこうする事は出来ない。


だがジャマー同様に弾頭も新旧入り乱れており、中でも特に古い個体は劣化により防備が甘くなっている事を看破する。

これを攻撃し誘爆させて一気に数を減らすチャンスだ。


「迂闊だな海賊、数頼みで質を疎かにするから!」

翔は叫んだ、そして機体の更なる力を開放。


飛来する劣化弾頭へと攻撃イメージを描き、それに沿ってターゲットカーソルが走り攻撃命令が生成。

その攻撃情報に基づきM3多機能装甲へ光神経越しに命令が下され、装甲の物性が大きく変化。


セクレタリーの有り余る余剰電力を変換し、全身の装甲から強烈な指向性エネルギーとして一斉放射。

巨大な人型機動兵器の装甲から閃光と共に迸る強大な力は、劣化弾頭を薙ぎ払い続々と誘爆させていく。


宙域に雄々しく咲く爆風が、近隣のロケット弾をも巻き込んで連鎖的に弾けた。

だがその誘爆の嵐を抜けて更なる弾頭が迫る。


セクレタリーの破格の機動性を以てすれば、誘導機能を欠片も持たぬロケット弾の回避など容易い。

だが敵の戦意を綺麗に圧し折るには、堂々とした正面突破が一番効く。

そう判断した翔は近接防御システムを起動し、続々と飛来するロケット弾をターゲットロックする。


「まだまだ畳み掛ける、ボレアリス・アスケラ起動! 偏向角最大、ファイア!」

翔の叫びに呼応し、両側頭部に搭載されたボレアリスと両脇下に設置されたアスケラ……ガンメタルの近接防御用レールガンが一斉に火を吹いた。

25ミリ口径・全4門の火器が、毎分2500発という速度で猛連射開始。


発射口より形成され、強烈な磁束により錬成された電流線……仮想砲身式給電レール。

それに沿って装填され、押し出された弾丸がローレンツ力により射出。

一気に弾けるように加速し、稲光を伴い飛んでいく。


莫大な電流により形成された実体持たぬ仮想砲身の長さは500メートルにも達する。

レールの損耗と発熱を気にせず撃てるからこそ実現出来た連射速度が、敵に残された最後の悪足掻きを丁寧に粉砕していく。


しかもその仮想砲身は上下左右25度もの偏向が可能で、一射事に自在に変更可能。

その相乗効果が生み出す驚異的な弾体速度と命中精度は、近接防御火器というカテゴリを逸脱していた。


圧巻の運動エネルギー載せた弾丸がロケット弾を続々と撃ち抜き、更なる爆風を咲かす。

QQ―DEMSの成す正確無比な火器管制は絶対必中、決して狙いを外さない。

セクレタリーから放射される弾幕はまるで流星群のような軌跡を描き、鮮やかに寄り来る脅威を粉砕していた。


「メディア起動、持続モード設定……発射!」

更に寄り来るロケット弾へと両手に持った超大出力VFレーザーライフル・メディアを向け発射。

セクレタリーが生み出す電力を強大なる熱線へと紬ぎ、銃口から生じた閃光がロケット弾を焼いていく。


これは射撃中にも位相変更可能な、独特の可変周波数タイプを採用した光学兵器。

その威力は軍用の艦艇さえ纏めて貫通する程の常軌を逸した破壊能を誇る。


これもレールガン同様射角の偏向が出来、尚且つ射撃に持続性を持たせる事も可能。

まるで宇宙に光のアートを描くかのように光条が迸り、その軌道上の弾頭を薙ぎ払う。

みるみる内に数を減らすロケット弾にダメ押しの一手を放つべく翔は叫んだ。


「アウストラリス用意、散弾装填……ファイア!」

その声に呼応して、ライフルの銃身下部に併設されたグレネードランチャー・アウストラリスを起動。

数ある弾頭の中から散弾が装填され、勢い良く発射した。


放たれたそれは白煙を曳きながら飛翔、弾幕と熱線を潜り抜けつつセクレタリー正面の宙域で炸裂。

同時に無数の子弾が広範囲にバラ撒かれて、ロケット弾を連鎖的に爆破させていく。


レールガンが撃ち抜きレーザーで薙ぎ払い散弾で蹴散らす、爆ぜたロケット弾の生み出す光が宇宙の闇を払い大量の煙が漂う。

蹂躙と呼ぶに相応しい、正に圧巻の光景が繰り広げられていた。


セクレタリーはロケット弾の攻勢に一切怯む事無く前進し、寄り来る物を迎撃。

更に装甲表面から放出するエネルギーで極めて強大な力場を形成し、爆風を掻き分けながら進む。


レーザー等の光学兵器は装甲で回折させて無効化、実体弾や爆風に対してはこの力場で対抗。

M3多機能装甲は極めて高次元の常時完全攻防一体を実現し、更にあらゆる射撃に対し比類無き防御能を誇っていた。


数百発放たれた弾頭も一連の攻撃により全て撃墜され、最早海賊に残された手はない。

爆炎を掻き分け悠然と出現する蛇食鷲・セクレタリーの姿、それは埋めようのない彼我の歴然とした力の差を物語っている。

その様をヘラルドはただ畏怖の眼差しで見つめていた。


「信じられん、あれだけの数をっ!」

船団長と呼ばれる男は、最後の悪足掻きが一切通用しなかったという事実に崩れ落ち膝を突く。

落胆したヘラルドの姿を見て、海賊達も心が折れてただ接近するセクレタリーの勇姿を見守る事しか出来ない。

オープンチャンネルの様子を聞き、それを察した翔は海賊達へと最後の投降勧告を言い渡す。


「抵抗手段は最早尽きた、海賊は直ちに武装解除し投降せよ!」

「……断る!」

毅然とした態度で放った翔の言葉、だがヘラルドは固く拒絶した。

宇宙にその名轟く大海賊の一員たる意地とプライド、それが最後の芯として彼を衝き動かしたのだ。

彼の返答を聞いた翔は、その芯を折るべく叫んだ。


「ならば俺なりの流儀でその意地を圧し折るまで!」

気合に満ち溢れたその言葉に呼応して、セクレタリーは更に加速する。

この機体は絶対的な電子戦能力と卓越した火器システムを誇るが、何も武器はそれだけではない。


モデルとなった鳥同様に、近接格闘戦……特に蹴りを得意とする面を持つ。

堅牢無比な剛性を誇るフレームに、破格のパワーを生み出す強靭な人工筋繊維。


機械というより人工的な生物に近い構成故に、衝撃に対して極めて高い耐性を誇るのだ。

その相乗効果が生み出す破壊力は既存の兵器にはない独自のもの。


セクレタリーは猛加速しつつ敵艦橋目掛けて急降下、躍動する機体を通じ猛禽としての本性を顕にする。

勢いと質量の全てを載せた一撃を放つ為に。


「取って置きだ……この機体が蛇食鷲と呼ばれる所以、その身を以って思い知れ!」

そう叫びながら翔は闘気を漲らせ、真っ直ぐヘラルドの乗る艦の艦橋天板を目掛けて急降下。

ツートンカラーの翼から莫大な推力が生じて一段と加速する。


これまでの通信から発信元を特定し、彼の乗艦する船は把握済み。

敵の戦意を粉砕する為には、船団長たる彼の口から降伏の言葉を引き出す必要があると彼は判断したからだ。


既に敵船の構造は取得済み、ブリッジに衝撃をより伝える為強度の高い区画を狙う。

セクレタリーの洗練されたデザインの脚が、翔の闘気に従い蹴りのモーションを取った。

格闘戦の為強化された爪先と踵が、その質量と勢いを存分に乗せた一撃を目標へとお見舞いする。


「何! うおぉっ!?」

直後、艦橋に轟音が唸りセクレタリーの蹴りによる激しい衝撃がブリッジを襲った。

強靭なる機体の脚が黒い海賊船を捉えめり込み、激しい火花が宇宙空間に散っていく。

ただ轟音だけが艦橋を支配し、海賊達はその激しい余波で席から次々に投げ出される。


未だ経験した事の無い未曾有の事態に海賊達は恐れ慄いた。

彼等は警備機構と艦隊戦をする事はあれど、その交戦でさえ船そのものをここまで大きく揺るがす程の衝撃に見舞われる事は稀有。


人型機動兵器による蹴り、それが齎す激しさを海賊達はその身を以って知ったのだ。

だが翔はまだ満足しない、反動でふわりと浮いた機体の翼を広げて追撃に入る。

まるで蛇の頭を激しく蹴りつけ狩る習性を持つ蛇食鷲を体現するように。


「まだだ!」

翔の叫びに機体は応えて、猛加速し今度は逆の脚で蹴りを叩き込んだ。

再度叩き込まれた蹴りで天板は大きく拉げて、艦内を再び激しい衝撃が迸る。

艦橋はもうパニック状態に陥り、指揮系統の機能を喪失。

そこに追い討ちを掛けるように非常警報が鳴り響いた。


「艦内で気圧異常が発生しました、乗員は速やかに退避を……」

機械的な音声が響くと同時に、艦内照明が橙色の非常灯へと切り替わる。

更に隔壁が作動して、艦内の各セクションを分断。


「な、何事だ!」

「艦内で気圧差が……いや、これは数値が滅茶苦茶だ。火災と漏電同時発生、他の船も一緒の症状が? どれも表示がおかしい……まさか非常システム系統も外部から!?」

狼狽えるヘラルドの言葉に、オペレーターの男が戸惑いながら答える。

海賊船の状態を伝える立体表示モニターには、火災や漏電更に気圧異常の表示が目まぐるしく変化しつつ表示されていた。

蹴りを受けたヘラルドの船以外の海賊船にも似たような症状が一斉に起こっており、海賊達はその対応に忙殺。


どの数値も有り得ない状態で、正常化を図るコマンドは一切受け付けない。

海賊船の間の通信もそれに伴い悲観一色に染まっていく。


非常隔壁の作動で船内が分断された事に加えて、非常システムまで手玉に取られたという事実が一方的な戦闘で摩耗し切った彼等の心を圧し折った。

艦内の緊急時に対応する為の命綱たる非常システム。

それを意のままにされるという事は、即ち生殺与奪をセクレタリーに掌握されている事を意味するからだ。


部屋が分断され全てのシステムが乗っ取られている以上、最早詰みと言っていい。

もうどうにも出来ない末期的な現状が、彼等に残った最後の抵抗意志を摘み取る。


「わ、解った! 武装解除し投降する、もう追撃は止めてくれ!」

ヘラルドは翔に懇願するようにして投降を宣言した。

一連の戦闘で疲弊し、その声にはまるで力を感じられない。

それを確認した翔は攻撃を止め返事をする。


「了解、投降を受諾した。間もなく警備機構の船が来る、後の指示は彼等が出すだろう……それに素直に従う事だ」

彼はそう言うと戦闘態勢を維持したまま待機状態に移行。

敵システムの手綱を握ったまま、妙な素振りを見せないか警戒しながら。


程無くして警備機構が誇る大型の高速警備艇が五隻この宙域に到着した。

マリネイアが場所を連絡し連れて来たのだ。


高速警備艇は順次海賊船に取り付き、海賊達を検挙し連行していく。

戦意が砕けた海賊達にもう抵抗するだけの力は無い。

翔は海賊船の非常システムを正常化させ、確保がスムーズに運ぶよう助力した。

その甲斐あって、海賊にも警備機構にも怪我人出る事無く確保作業は無事完了する。


海賊船を曳航し宙域を去る警備艇の姿を見てほっと一息ついた時、SA12580便から連絡が入る。

再度感謝の言葉と共に、無事航路に戻り目的地へ二時間遅れで到達出来る見込みという知らせが入った。

これにて一件落着だ。


翔は戦闘態勢を解除し、この宙域に遅れて到着した仲間の待つ快速宇宙船・フラミンゴへと帰投する。

宇宙で目立つピンク色の船体が徐々に大きくなり、レーザー誘導のビーコンが出された。

光の道の先には、開いた隔壁と戻るべきガレージの姿。

それに従い機体を格納庫へとゆっくり滑り込ませていく、彼我の相対速度を慎重に合わせながら。


無事セーフゾーンに辿り着いたのを確認し、機体推進制御と着艦をオートに切り替え翔はフラミンゴを見つめた。

全長585メートルという長さに全幅95メートルの広さ、加えて全高75メートルとその大きさから齎される快適性は高級旅客船にも勝る。

地球の海をゆく船舶と比べればかなり巨大だが、無数に存在する宇宙船の中ではこのサイズでも小振りな方に入る。


だが翔は快適さを重んじるこの船がとても気に入っていた。

セクレタリーはその余りあるエネルギーと推力で単機で太陽系を自由に往来可能、単独大気圏離脱も突入も余裕でこなせる。

しかしどんなに機体が長く飛べたとしても、人間はそうも行かない。

この過酷な宇宙でその命を繋ぐ為に水と酸素と食料は決して欠かせないからだ。


その為翔は既にバウンティハンターの為の高速補給船として運用されていたフラミンゴに白羽の矢を立てた。

幸いにして知り合いが船長を務めていた為、快諾を取り付ける事が出来その一室と整備空間を貰う事が出来たのだ。

宇宙で活動する翔にとって正に願ったり叶ったり、出撃後の疲れも広い居住空間のお陰で癒やす事が出来る。


やがて着艦が自動で完了し、重厚な隔壁が閉鎖し機密が確保されていく。

翔は機体を歩かせ巨大な整備用ハンガーへと係留、駐機し機体に電源コネクタが接続された。

次のスクランブルに備える為、セクレタリーのエンジンは動かしたまま。

その間生じる余剰エネルギーを船に供給開始し、翔はオーブを操作して機体を待機モードに移行。


一連の作業中にも空調環境整備が進み、徐々に与圧されて空気が満ち溢れていく。

彼はコクピットを開きガレージ内の気圧が確保された事を確認すると、ヘルメットを脱いだ。

すると黒髪が緩やかに舞い上がり、新鮮な空気が翔の肺を満たす。


「お疲れ相棒、さぁメンテの時間だ」

翔は共に戦うセクレタリーへ優しくそう言うと、無重力の中シートを蹴って飛び立つ。

機体の外に出て彼がふと振り返ると、セクレタリーに取り付くは無数のメンテナンスマシン。


バレーボール大の半球型マシンは機体装甲に取り付き光を照射、白く美しい機体が徐々に光で彩られていく。

光学走査により装甲表面に傷がないかの精密点検だ。

万が一あった場合は装甲の原料を吹き付け、誘導光で再組織化を促し再生する仕組みになっている。


メンテナンスは全自動化されており、セクレタリーの点検は全てマシンが担当。

メンテに並行して近接防御火器やグレネードの弾丸も補充されていく。


出撃完了の度に愛機を手入れしてくれる大事な機械達、彼等のお陰で愛機の運用に不安は無い。

そして生粋のロボット好きである翔にとって、こうして外から愛機を眺めるのも楽しみの一つだった。

これもセクレタリー制作に関与した博士が残してくれた物。

翔はその事実を感謝しつつも、一方で胸中に言い知れない心配が募る。


「博士……」

寂しさと不安を言葉にして翔は思わず吐露する。

何故なら博士が翔に機体を引き渡してから消息不明になってしまった為だ。


その期間は実に3ヶ月、自宅兼ラボに戻った様子は無く音信不通になったまま。

余りにも突然の失踪、翔は心配して捜索届けを出すも目撃報告さえ出てこない。


彼は卓越した科学者であるもののやや人嫌いの気があり、加えて親戚や友人・近所付き合いも無く独身故に帰りを待つ家族も居ない。

薄い人間関係と唐突な失踪の合わせ技で、捜査を極めて難しい物にしていた。


そんな博士と翔は何故か不思議と馬が合い、大目標を実現するという気概を以って意気投合。

共に情熱燃やして試行錯誤を繰り返し、前人未到たる人型ロボットを一緒に作り上げた仲。


一緒の夢を目指して邁進し、無事完成した日に分かち合った喜びは今も翔の胸中に息衝いている。

掛け替えのない恩人であり仲間である博士、一日千秋の思いで翔は今もその帰りを待ち望んでいた。


「やったな翔、大手柄だ」

機体を見上げて感傷に耽る翔へ、雄々しい声が呼び掛けた。

その方を向くと、黒肌・長身で逞しい体付きの若い男の姿。

黒い短髪にスーツ姿、恵まれた体格を持ちながら温和で知的なその表情から見る者に頼もしさを感じさせる。


彼の名はアレックス・ドミンゴ、この船の船長。

アフリカ西沖のカーボベルデ共和国出身で、バウンティハンター仲間として行動を共にする信頼出来る男だ。

恵まれた体格を持ちながら読書が趣味で、今も片手に読みかけの詩集を携えている。


「ああ、無事大物確保出来て良かった。所でアレックス、博士の行方は……」

そんな彼へと翔は素直に胸の内を明かした。

博士の行方に関する情報が届いていないか気掛かりなのだ。

だがそんな翔の淡い期待を打ち消すように、彼は無念の表情で首を降る。


「いや、警備機構からも情報屋からも何も届いていない。自宅に現れたという知らせもないようだ」

アレックスは沈んだ声でそう伝える。

彼もまた博士を知る人間の一人、何の前触れもない突如の失踪に心を痛めていた。


「そうか……」

「お帰りなさい翔、そんなに落ち込まないで」

落胆する翔の声に優しく言葉が掛けられる。

その主は、ガレージの無重力区をまるで泳ぐようにしてやって来たマリネイアの物。


彼女は落ち込む彼の腕を優しく抱き止める。

金色の髪とワンピースが無重力でふわりと揺らめき美しい。

マリネイアを心配させまいと、翔は何時もの言葉を口にした。


「ただいまマリネイア、報酬手続きは?」

「もう無事終わってるわ、大物確保に加えて全員生け捕り。おまけに海賊船もゲットだから報酬額凄い事になっているわよ」

気丈な彼の言葉に、マリネイアは嬉々としてそう答えた。

海賊の口から情報を聞き出すだけではなく、海賊船からも貴重なデータが引き出せる。

既に中枢システムの制御権は警備機構に引き渡した為、海賊船のシステムは口を噤む事は出来ない。


大海賊ヴァイパーの重鎮に加えて、海賊一団。

更に海賊船も丸毎確保出来たのだから倍々で報酬額が釣り上がったのだ。


警備機構から多額の成功報酬が既に支払われ、彼女の手にする端末から目を瞠る程莫大な報酬額の値が躍る。

この報酬は船長であるアレックスとオペレーターのマリネイアにも配分される為、二人はとても上機嫌。

早速何に使うかの算段を始めた。


「正に一攫千金だな、祝いに何か美味いものでも食いに行くか?」

満面の笑顔でアレックスは食事を提案。

しかし翔は首を降る。


「積みプラモを崩してからでいいさ、この周辺宙域に名物持ちの美味しい店も無いしまだまだ作り掛けがあるんだ」

そう言って翔はガレージの隣に併設された自室をガラス窓越しに眺めた。

いつでも愛機を見られるようにと彼が頼み込んで急遽作られた部屋。


その部屋の棚には、セクレタリーのプラモデルの箱が山積み。

中には先程の出撃前に組みかけの物も含まれている。


硝子棚には完成した物が飾られて、ポージングを決めた状態でライトアップされていた。

出来栄えは見事で丁寧な作業の跡が伺える。


プラモデルは機体の開発費調達の一環で、模型メーカーにライセンス供与して作られた商品。

翔自身それを作るのが趣味であった。


「もう、翔ったら一体何個セクレタリーのプラモ作ったら満足するの? 普段乗ってるのに作りたがるその気持ち、全く解らないわ」

「同じ物じゃなくてちゃんとスケールとバージョン違いさ、何とかレーザー彩色まではやっておきたいけれどまた出撃掛かるだろうなぁ……」

肩を竦めて呆れるマリネイアに翔はそう答える。

幾度と無く重ねて来た二人のやり取りを見守りながらアレックスは微笑んだ。


「好きな物に対する一途さ出会った頃から変わらんなぁ全く、まぁとりあえずお茶にでもするか翔? いい茶葉が入ってるんだ」

「有難く頂こうか、マリネイアも一緒にどうだい?」

「私も頂くわ、行きましょう」

アレックスの提案に翔とマリネイアは乗った。

三人は一緒にガレージから食堂へと向う。


無重力の空間を泳ぎつつ最後列に居た翔は、機密ロック扉に手を掛けながらふと振り返った。

その視線の先には共に戦う相棒の勇姿、けれどそれを作った博士は居ない。


今はメンテナンスだけで十分、しかし何時か重大な損傷を抱えた場合や不具合が出た場合はメンテマシンだけでは対処は難しいだろう。

その拭えぬ懸念に翔は何処か胸騒ぎを覚えてしまう。


「翔、早く〜!」

「解った、今行く」

憂う彼を急かすようにマリネイアは声を掛けた。

彼女に声に従い彼はガレージを後にする。


任務完了による大きな達成感と、一抹の不安を抱えながら。




―ー5日後・資源採掘フロンティア跡ー―



忘れ去られた無人の資源採掘フロンティア、暗く寂れた廃墟のガレージ。

そこに翔が探す博士……ウォーレス・ギランの姿があった。


白髭に長い白髪、50代にしてはややくたびれた外観を持つ男は白衣を纏い海賊達と正対する。

椅子に腰掛けたその身から並々ならぬ威圧感を漂わせながら。


「博士、探したぜ。アンタの力、否が応でも貸して貰う!」

黙したままの白衣の博士と黒衣の海賊達、まず口火を切ったのは海賊率いる頭領だ。

古いフリントロック風の装いをした拳銃を構え、ヴァイパーを統べる海賊の男は強気に言い放った。

懐古主義を体現する、古い海賊ファッションを身に纏い堂々とした態度で。


そんな彼に一切臆する事無く、ウォーレスは口を開いた。

余裕綽々の表情で。


「諸君、この世で最も有毒な物は何だと思うかね?」

銃口を向けられているにも関わらず、彼は動揺する事無く海賊に問う。

何が最も毒なのかと。


「サァな、コブラの毒か? サソリの毒か?」

「成程、蛇蝎か……だがいずれも違う。答えは『退屈』だよ、これこそが人とその可能性を腐敗させる元凶。それを砕く為ならば私は手段を選ばんよ、諸君とある意味で似た物同士という訳だ」

海賊の答えに、博士は淡々とそう告げた。

まるで講義をするかのように。


そしてウォーレスは静かに椅子から立ち上がり、その手にした指輪を暗いガレージへと翳した。

するとライトアップされ、無数に立ち並ぶ人型兵器を照らし出す。

それは海賊を意匠した、髑髏の顔と立派な鎧を持つ兵器達。


セクレタリーと同等の大きさ、更にその手にするは長大なサーベル。

圧巻の迫力湛えるフォルムに海賊達は思わず竦み上がる。


「な、何だ!」

「この数は一体……?!」

予想だにしない人型兵器の姿に不意を突かれ、困惑と共に部下は浮足立つ。

リーダーの男もまた同様であった。


「人型というシンボルを以って警備機構の……ひいては人々を護る象徴たるセクレタリーを打ち倒す、それが諸君の望みなのだろう?」

博士は彼等の核心を見透かすかのように囁く。

彼の言う通り、翔の活躍によりヘラルドのみならず既に幹部級が幾人も捕まっておりヴァイパーのリーダーは怒り心頭だったのだ。


捕まった仲間を警備機構から取り戻し、無敵を誇るセクレタリーを打ち破る。

その為の強大なる力を彼は渇望していた。

図星を突かれたリーダーは狼狽えながら銃口を博士に向け直す。


「アンタ何を考えてる? 俺は旨い話にゃ乗るタチだが、旨過ぎる話には乗らないタチなんだ……その先にあるのは火傷だからな。いや、火傷だけで済むならまだ可愛気があるか」

「既に私の目的は告げた筈だが、退屈を破壊する為だとな。絶対強者を打ち倒す姿を私は見たいのだよ」

リーダーの言葉に、博士はそう答えた。

二人の間に沈黙が走り、場に緊張が満ちていく。


海賊にとっては至れり尽くせりでこの上なく魅力的な提案、だが余りに旨過ぎる話。

加えて博士の思想は理解の範疇を超え危険極まる。

これは罠ではないかという恐れを抱いたのだ。


「アンタ自ら創り出した物を破壊するんだ、何故欠片も躊躇わない? この手際の良さ、何か企んでるな? 俺達を利用して何をするつもりだ!」

リーダーは思いの丈をぶつけ反応を伺う。

彼は疑っていた、目の前の博士が企てる何らかの遠大な計画……海賊達をそれの駒にするつもりではないのかと。

その言葉を聞いた博士は、視線を彼等から逸らして口を開く。


「要らぬというなら他に回すまで、どの道セクレタリーを倒すには普通の兵器では役立たず……人型兵器を以って倒すより他はないのだからな。選択権は君等にある、受けるも良し受けぬも良し……」

博士は魅力的な条件を他者に渡すという選択を提示し、海賊達に判断を迫る。

リーダーは思巡した末に、決断を下した。


「俺達は海賊であって慈善屋じゃない、何時もならそう言って蹴ってるだろうが……幹部が捕まった以上そうも言ってられん。受けはする、だが妙な真似だけはしてくれるな……いいな!」

彼はそう言って博士を威圧する。

止むに止まれぬ事情を抱えたが故の苦渋の決断。

受諾の意志を聞いた博士は、そのプレッシャーを受け流しながら微笑んだ。


「契約成立じゃな。何、使い方は難しくない。ただイメージのままに動けばいいのだからな、パイレーツシリーズ上手く使い給えよ」

底知れぬ博士の言動、リーダーは腑に落ちない物を感じつつも頷いた。

その様子を見て、部下達は恐る恐る近づいていく。


強大な力を持つ兵器へと。




ーーー――



海賊達が去って2時間後、博士は別の資源採掘フロンティアへと向かう宇宙船の中に居た。

人型機動兵器・パイレーツシリーズを海賊に引き渡し終えた彼は、偽装処理施した船で次なる目的地へと向かっているのだ。

自ら描いた計画を遂行する為に。


一人になった部屋で博士は窓の外に広がる遠大な宇宙を見つめ独白する。

お気に入りのウィスキーを片手に持ちながら。


「翔、かつて冷めかけた私の科学に対する情熱。それを蘇らせたのは君の憧れに対する愚直なまでの情熱と直向きさだ……。君と夢中になってセクレタリーを作る途中私は意図せずして見つけてしまった、人と機械のその先にある領域を」

博士は回想する、QQ―DEMSを作った日の事を。

人の意識と機械の融合、そしてその先にある途方もない可能性の片鱗を博士は垣間見た。


制作していた博士でさえ全く予想だにしない信じ難い発見、それを契機に彼の苦悩は始まる。

その力の余りの大きさに事実を誰にも告げられぬまま。


「可能性の輝きは余りに眩ゆい物だった……これならば不可視の揺り籠に囚われたかのような人々を開放し、人類が繰り返して来た過ちと犠牲を克服出来るかも知れない。私はそう確信した、だが……使い方を誤れば取り返しのつかない事になるのもまた事実」

博士はそう語りながらウィスキーに手を付ける。

昂ぶる感情を抑えるように。


「悲しいかな、人はその言動を己の意志で偽る事が出来る生き物だ。そして時と共にその本質も移ろい変わっていく、どんなに信じた人間も金に名声……そんな物に目が眩み愚かな欲で歪んでいく」

熱を帯びた口調で博士は記憶を反芻する。

栄光と挫折の漣の中で紡がれて来た人生の道程、忠告に耳を貸さず信じた人間が欲に溺れ凋落していく様を見て来た痛みを。

そしていつだって理不尽を止められずにいた無力感を。


「人は自ら進んで貧乏籤を引く事が出来ない生物でもある、面倒事は後回し。誰かが引く瞬間が訪れるまでずっと続く、その結果に犠牲を伴いながら。だからこそ確かめなくてはならない、傾いた世界をたった一人で変え得るだけの力……それを君に託すに値するのか」

静かに瞼を閉じながら、博士は翔と共にセクレタリー開発に没頭していた頃を思い出す。

人生で最も熱量があった日々を。


「これから始まるのは、有史以来初となる人と機械を超越したもの同士の戦いだ。加えて強大な電子の聖域により、決して通常兵器の立ち入れない人型同士の戦い。翔、私は法を超えてでもこの疑問に解を出すまで躊躇わない……君の覚悟とその芯を海賊戦争の最中で確かめる為敢えて私は貧乏籤を引く。全ては人が抱える過ちと決別し、更なる可能性を開花させる為に」

内に抱く熱い決意を博士は吐露した。


電子支配により、通常兵器の介在出来ない領域で人型機動兵器同士で雌雄を決する戦い。

博士は敢えて自ら敵になってでも、その果てに翔が真に資格者足りえるか見極めようというのだ。

世界の有り様を変えられるだけの力を、本当に彼に委ねられるかどうか。


上手く行くかどうか勝算の見えない賭け、されど彼は願わずにいられなかった。

夢を共にした翔が、来たるべき困難に打ち勝ちその資格を証す事を。


博士は再び瞼を開き、信じた大義を成す為向かう。

繋がれる事を良しとしない、賞金稼ぎと海賊……その両方と組みしない者の元へ。




ー―ー同時刻・フラミンゴー――



ヘラルド確保から5日、翔は順調に戦果を上げていた。

小物であったものの海賊を3度投降させ、報酬を稼ぎ民間船を救出。


賞金稼ぎとして順調な日々の一方、急な出撃により好きなプラモ作りは停滞気味。

それを無念に思う暇もなくまた出撃を迎えた。


定期パトロールの為、フラミンゴを飛び立つ時間が訪れたからだ。

出撃用意に入る翔へマリネイアは何時ものように声を掛けた。


「翔、定期パトロール頑張って。何かあったらすぐにサポートするから」

画面に映る鮮明な彼女の姿、そんなマリネイアに向けて翔は何時もの返事をする。


「ああ、頼んだ。……セクレタリー、出撃する!」

その声と共に、翔は推力制御開始。

ガレージからゆっくりと飛び立ち、セーフゾーン外へと羽ばたく。


ピンク色の船体を横目にしながら緩やかに加速を続け、フラミンゴに影響が及ばない最大加速安全圏に到達を確認すると同時に一気にブーストを掛けた。

眼前に広がる闇を斬り裂くようにセクレタリーは邁進する、狩るべき獲物を探して。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです!!! 電子戦……迎撃されるミサイル群……仮想砲身……魅力的なイメージの連続でした。(科学考証については良くわかりませんが) 特に仮想砲身式のレールガンは、そんなのアリなんだ…
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