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Q.E.F.4-2:赤ペン先生、殺人者に点数付け

前回のあらすじ


木蓮「スバルー」

スバル「何ですか……?研究で忙しいのですが……」

木蓮「そうか、話をしたかったんだが別にいいや……」

スバル「話ですか?大丈夫だ、問題ない」

木蓮「いやいやそのネタ大丈夫かよ!」

スバル「ああ、これですか?買ったものなので」(もきゅもきゅ)

木蓮「寿司のネタじゃないしそもそもどっから寿司持ってきた!つか、どっから調達してきた!?あと寿司のネタも話のネタも鮮度大事だろ!!」

スバル「いやー……でも茶会以降何も食べないっていうのも……」

「さすがにあれだけの仕事をして一睡もせず徹夜とは……ふあぁ」


 ベッドから起きようとるや否や聞き捨てならない言葉を聞いた俺は即座にベッドに寝かせようとして飛び起き、その拍子にベッドから落ちるという超エキサイティンな行動をしてしまった。


「ふあぁ~あっ……やっと意識を取り戻しましたか……」


 その物音で気づいたスバルは欠伸をしながら俺の方を見やった。


「スバ、いたたたた……」


 落ちた衝撃で傷口が痛む。


「おはようございます、木蓮さん……と言ってももう昼過ぎですが……」


「俺は、いつ倒れたんだ……」


 というより、あの後一体どうなったんだ。斬られた後の記憶がほとんどない。


「まあ、しかたありませんよ。動脈を切られて失血性ショック状態でしたから……」


 そういうと、スバルはえらく神妙に事の顛末を語った。



「そうだったのか……シリウスは……」


 あの後何が起こったかと言うと、スバルがシリウスの位置を追跡した直後に、位置情報がロストした、とのこと。


 スバルは自殺もしくは襲撃者による他殺と考察、いずれにしろ生きてはいないと予想した。


 が、それを信じない俺は奴を追いかけようと立ち上がろうとし、大臣たちが揃ってそれを止めた。


 特にスバルは「今の木蓮さんは瀕死にもほどがある重体です」と言った後に「全く……自覚してください」とため息をついた程だそうで。


 結局俺は途中までスバルと同じ場所へ行ったものの、結局身体が持たず魔法による集中治療が行われた。


 で、スバルはそのまま位置情報がロストしたところで検証を続けていた、と。


「シリウス様は亡くなりました、正確にいえば殺されたというのが正しいですが」


 薄々感付いてはいたがやはりそうか……。


 魔王を倒し切れなかった裏切り者の大臣、ときたら確かに殺されてもおかしくない。寧ろ俺の代わりに殺してくれた人間がいたようでひとまず安堵はした。


 まあ欲を言えば、俺が殺したかったとだけ付け加えたい。そう思ってしまうのは昔についた癖なのだろうか。


「しかし……あんな幼い魔王が裏切られるとはな……」


「それが……幼そう、ではなく実際に13しか年を取っていないのだそうです」


 スバルは顎が落ちてしまうような事実を俺に告げてきた。


 僅か13……だと!?いまどきアイドルでも若いって言われて、8時以降には強制自宅送りになるような今のご時世、弱冠13歳で魔王を務めている!?


「どういうことだよ一体……」


「今迄の行動にいろいろヒントはありましたよ、茶会の時とか」


 冷静に考えれば、ベイクドチーズケーキという好物に対しての反応といいスバルに対する反応といい、確かに子供っぽい部分はあった。


「まさか、木蓮さん気づいてなかったんですか?」


「ああ、不覚ながら」


 にしてもスバルは何処で年齢を特定できたんだ、という疑問はあっさりスバルが答えた。


「まあ、確認のため木蓮さんが倒れている間アルフレッドさんに聞きましたが。ここまで幼いとは、僕も少し想定外でした」


「それはそうとスバル」


 魔王の問題で危うく忘れかけたが、交渉会議の時のスバルの態度も気に入らない。そこは部長として問責する必要がありそうだ。


「お前な……あの交渉会議での行動は一体どういうつもりだったんだ!!危うく俺の首まで飛びかねないような事態になったじゃねーか!!」


「申し訳ありませんでした。どうやら説明不足だったようですね……」


 深々と頭を下げ詫びるスバル。そうだぞ説明不足だぞ……説明?


「……いったい何がしたかったんだ?!」


「交渉会議を進める上での配役と役作りです」


 さっきの申し訳ないという表情はどこへやら。「今泣いたカラスがもう笑う」なんて諺の通り、次の瞬間にはケロッとした顔で状況を説明した。


「配役と役作り……そんなことのために命を懸けさせたのか……」


 はっきり言わせてもらおう。いくらなんでも異常すぎる、と。


「待ってください木蓮さん!その役作りによってどういうことになるのかを説明させてください!」


 まあ、スバルが考えなしに作戦を実行することはまずないだろうが。


「今回の配役は、好かれ役と嫌われ役です」


 成程、俺が好かれ役、スバルが嫌われ役か……。


「嫌われ役が詮索したり、攻撃を仕掛けて……?」


「好かれ役が相手の傷をいやしながら交渉条件を提示する?」


「その交渉条件は、表面上は相手に有利な条件を提示するが?」


「結果として、こっちが有利になるような条件にする?」


 ……そういえば俺は言いくるめと称してフォローを行っていたな。って逆だった、フォローと称して言いくるめを行っていた、が正しいか。


「今回の交渉会議のお陰で役回りと役はしっかりと固まったので、後は作戦を立案してその通りに進めれば?」


 やり方の一つとしてはスマートではないが、これはこれで……。


「こっちの思うように闇国を動かすことができると、じゃああれか、交渉会議で原理を説明しなかったのも?」


「確かに嫌われるための工作です」


 如何にも企んだ顔をしているように見えるがそれただの悪人じゃないのか。


「が、話したところで理解できるかどうかわからなかったからという理由の方が大きいですね」


 あ、途端に無表情になった。まあ、そこに関しては今話すべきではないと思ったのだろう、正直俺もそこは同意する。だが……。


「ダージリンの最高グレードを飲んだ時に大袈裟なことをいったのも」


「あれは美味しかったじゃないですか!」


 きらきらモードで反論するスバル。茶会の最中でも確かに美味しかったがもう一個気になることが。


「その癖にそのダージリンと合わない筈のガトーショコラを食べたのも」


「単に好物だったからですが?」


 照れるな。その前の発言も相まってこの茶会の時間魔王がどれだけ機嫌悪かったと思っている。というか理由がくだらないのだが。


「……勧めた酒をわざわざ断ったのも」


「アルコールは本当に苦手なんです!」


 あー、悪かった悪かった。ちみっこいきゃらで怒る一芸なぞ見せなくてもよいわ。そういいながら何故ワインテイスティングの知識があるのか尚更気になる。と言うより


「……ワインにかこつけて異世界じゃ分からない様な方程式を話したのも」


「ルーファさんが興味を示して下さるのではないかと思いまして……」


 スバルの恋した少女のような潤んだ瞳を見て俺は悟った。


「お前本当は俺を後ろ盾にして好き勝手やりたいだけだろ!」


 この状況まで怒らなかった俺を誰か褒めてくれないか。一般人だったら確実に大爆発していたぞ。


「まあ今回はいいとして、元の世界にいたころもどう考えても俺を後ろ盾にしてばっかりいたよな!別にほかの奴でもいいじゃねえかよ!ユウとかユウとかユウとか……!!」


「ユウしか出ていない点は置いておきますが、ユウではだめなのですよ。あんな命懸けのカードは木蓮さんじゃなければ絶対に切りませんし切れませんでしたからね」


 ……はい?


「この配役を確立するのは命懸けだったと……それに、木蓮さんのおかげで思ったより早く事が運びそうなんです」


 ……は?一体どういうことだ?


「後ろ盾にする、という考えは正解です。配役は確立できましたからね」


 確かに配役は確立できたが、それと事が運ぶのが早いって言うのに合点が行かない。


「つまり!」


 スバルが一拍おき、その隙にソファーの背を挟んで背後に回り込んだかと思うと。


「僕がいろいろ攻撃を仕掛けて、耐久度の高い、使い減りのしない立派な盾として木蓮さんを使うわけです」


 ……ってナイフやら弓矢やらいろいろ危険なものがこっちに向かって飛んできてるじゃね~か!!


 幸い動かなくても当たらないようにはなっていたが心臓、あと傷がついたばかりの身体に悪い!


「それで万が一その盾が信用ならなくなったらどうするつも……ッテテ!」


 取り敢えず背後にいるスバルに一本背負いでもお見舞いしようと動いた。が、案の定と言うべきか傷口の痛みは少し動いただけでかなり響く。


 この調子では当分歩くことも難しいのではないのか、と頭を抱える俺にスバルが微笑みかけながら


「いえ、その心配も木蓮さんがお嬢様を助けてくれたおかげでなくなりました。まあ、ゼロとは言いませんが」


 ……ああ、とりあえず魔王は助かったのか。ひとまず、俺は安堵の表情をスバルに向けることにした。これまで陰でサポートした功績は俺が認めよう。


「……まったく、お前ときたらまったく……」


 だが、頼むからそういう重要なことは予め言ってくれ。何も俺が全てわかるというわけでもないんだ。


「言ったじゃないですか。木蓮さん、あなたは……」


 そう言いかけた時、丁度ノックの音が響く。


「おっと……この件は後日改めて」


 それと同時にすぐさま真面目な顔つきの仕事モード切り替わるスバル。まぁ、闇国側の人間の前でこんな重要な話はできないからな。


「私だ、入るぞ……」


「失礼いたします」


 入ってきたのは魔王とアルフレッド。


「おかげんいかがでしょうか……?」


 あぁ、瀕死じゃなくなったもののまだまだダメージは蓄積している。全く、重大事件が発生してるというのに、いつ治るのやら……。


「大丈夫です、なんとか……」


「すまなかったな……我々の問題に巻き込んでしまって……」


 弱冠13歳の魔王、その威厳こそ保っているものの年相応の申し訳ないという表情。


「いえいえとんでもない……お嬢様こそお怪我は……?」


 そんな表情は見たくなかった。


「うむ、お前が護ってくれたおかげで傷一つない」


 俺の好感度が上がったと聞いたときに少々危惧するものがあるのだが、まさかそんなことは……いや、あったとしてもこればかりはどうしようもできない。


「それは何よりです……」


「さて、それでは報告会を……と言っても木蓮さんは絶対安静ですがね……」


 さて、スバルがいつも会議に参加するとなると常に御供として甘味を用意するものだが、まさかそんなこと――


「すみません、紅茶とお茶菓子を人数分頂けませんか?」


「かしこまりました、ただいま……」


 そういうメイドの声にかぶさるように俺は抗議を行った。


「やっぱりお前はそういう人間か!」


「えぇ!そういう人間ですよ!!」


 まさかスバルがこの会議の場でふてくされながら俺をじっと見ているとは思わなかったが、これに関しては真面目な場に茶菓子を持ち出したスバルも悪い。


「……だ、駄目なんですか~?」


「あのなぁ……」


「ふぇぇ……」


 そうやって、軽く泣きかけているスバルに、俺は頭を抱えたくなった。


 そして一連のやり取りに魔王は思いっきり引き、アルフレッドもやれやれと両手を広げている。既にメイドはお茶と茶菓子を取りに行ったのだろう、いなくなっていた。


「で……では本題に戻りましょう」


 が、そこからのスバルの変わりようは半端なかった。


「現場検証の結果、他殺それも暗殺者などの殺しの専門家の仕業であると考えられます。この国の、まして王城に気づかれずに侵入するというなかなか腕の良い暗殺者のようです」


 引いている一同を尻目にスバルはその知識を使い、状況の説明を行う。


「しかし、殺しの点数は70点しかあげられない」


 しかし厳しい採点を行うスバルにしては比較的高得点だな。


「殺しの点数……」


 冷酷無慈悲な殺人者のごとく、どこか遠くに冷たい目線を送るスバル。まったく……お前は殺人者も採点するのか、相変わらずすごいやつだよ……。


「因みに殺しの点数は死体の美しさや証拠の量、その質、犯行時間、犯行場所などの情報から犯人の人格を予測し犯人の殺し方と、僕が同じレベルの犯人だった場合での殺し方を比較しそのズレの分を減点するという方法で採点しています。この犯人は相当腕の良い暗殺者です……ですが」


 今迄のように淡々と説明していくかと思いきや、ここでスバルは一拍置いて意地の悪い笑みを浮かべた。


「相当腕の良い暗殺者ということ自体がむしろ強力な証拠となってしまうのです」


「つまり証拠が残らないことが証拠になる……」


 成程、それで大幅減点ってわけか。勘が鋭いアルフレッドは直ぐに分かったのか、そう呟きながらスバルを真面目に見つめ、感心した表情でこう問いを投げた。


「スバル様……一体あなたは何者なのですか……?」


 まあ、実はスバルが何者かなんて騒動は今に始まったことではない。少なくとも俺が出会った時もそうだ、その前も誰もが考えたことがあるだろう。


「わたくしは唯の"異世界人"ですよ?」


 歩く図書館、アンドロイド、未来人、稀代の天才……。普通の人間ならつかない筈の二つ名をこれだけ有し、しかも列挙すればきりがないほどに考えられるが、いつもスバルは「唯の」と強調してはぐらかす。


 一方、魔王の頭の上にはクエスチョンマークが浮かび上がり、次にはそのスバルに対して怪訝な表情をした。


 成程な、魔法に関する技術と、13歳と言う子供の直感だけ鋭い魔王。それに対し科学技術と様々な分野から学んだ理論を持ったスバル。


 当初俺はスバルも好かれ役になっていいのではとも思っていたが、どうもスバルと魔王の相性は水と油のようだ。


 だから、ぴりぴりした空気を察した進行役の俺(ハンドミキサー)は、再び本題に戻すことにした。


「相当腕の良い暗殺者ってことは分かったが、凶器は一体なんだ?」


「さまざまな環境条件を加味して分析すると、凶器は魔法であると断定できます。魔法の種類としては熱量操作を行うことができる魔法ですね。発動した魔法に対するカモフラージュが巧妙に成されていたため、プロの犯行であると結論付けます」


 なるほど……はっきり言おう、よくわからない。


「恐らく犯人は闇国の仮想敵国の一つ、魔法技術……、いや、魔法を含む技術全般が優れていて、なおかつ軍事に力を注いでいる、最近急速に発達してきている国家の暗殺者であると……」


 そこまで言ったところでアルフレッドがふむ、と神妙そうな表情をしている。スバルがその様子に気が付き、話しかけようとした所で乾いたノック音が響いた。


「失礼致します……紅茶とお茶菓子をお持ちしました」


 さっきスバルが言っていた紅茶とお茶菓子が届いたようだ。今日はワッフルにたっぷりのチョコレートソースと生クリームが付いている。俺も甘党だからこういう料理は好きなのだが……。


「うむ……今日はアッサムか……」


 魔王はそんなお茶菓子と紅茶を見つめると紅茶の品種を呟いている。なるほど、確かに焼き菓子と相性が良いからな。


「ありがとうございます」


 スバルは真面目切った顔とはいえどこか瞳にキラキラを残している。


 ずっと思っていたがここって砂糖やチョコレートなどの甘味は高級品じゃないのか、と思った俺は「ありがとうございます、わざわざすみません」と丁寧に礼をする。メイドはスバルの喜び具合に少々引き気味でドアを閉めようとしたが。


「すみません、少しの間席を外して頂けますか?くれぐれも部屋に誰も通さないようお願いします」


「は、はい。承知しました」


 全員が茶菓子の登場に浮き足立つ中、スバルだけは周りを異常に警戒し、さらにメイドに念入りに釘をさす。確かにこの後闇国の外交における超重要な核心に迫っていくとはいえ、ここまでしないといけないほどの重要な情報が飛び出すのか……。


 嫌な感じに空気が張り詰め、折角の茶菓子が喉に通らなくなってきた。


 こうして、メイドの足音が聞こえなくなるまでの数十秒の間に沈黙が訪れる。


「ではこちらからの質問を……」


 再び、スバルは真面目な表情でアルフレッドに投げかけた。ついに、闇国内部で俺らが巻き込まれたその経緯が、明かされるのか。


「さて、現時点での闇国の仮想敵国の中で先に述べた条件に一致する国はありますでしょうか?」


「光国、正式名称リュミア」


 闇と相反する属性、か。どうもテンプレ感がぬぐいきれない気もしないでもないが、この際そこは置いておこう。


 今最も敵対関係にあり、最近勢力を伸ばしている国。


 そして技術水準と軍事力が極めて高い。


「先程スバル様が仰った条件と完全に一致しています」


 それにしても、暗殺者が送り込まれるほど関係が悪化している背景は一体どのような状況になっているのか?どうも、理由は複雑に見えるが……。

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