Q.E.F.2-3:言いくるめも科学的に遂行してみました。
前回のあらすじ
木蓮「スバルー」
スバル「何でしょうか?」
木蓮「いや、フラッシュペーパーの描写シーンあるだろ?」
スバル「ありますねー」
木蓮「あのバカ筆者は最初その描写シーンに「火柱が上がる」ってつかったそうで」
スバル「いやいやそれ大惨事になりますから!」
木蓮「おやつの時間?」
スバル「そっちの3時じゃないですー!」
スバル、お前は一体どこまで考えている……?
「こほん、さて……本題に参りましょう。この召喚魔法の暴走に関しての僕たち異世界人としての見解は次の通りです」
スバルは俺に「説明をせよ」と目で訴えている。どうやら悠長に考えている暇もないようだ。
「我々の行っていた実験の実験装置と召喚魔法が干渉し、本来の転送可能な量よりも多い量の物体が転送されたのではないかという仮説です」
「その実験とは一体……?」
とルーファが首を傾げながらスバルに問を投げかけた。
「異世界、異次元に物体を転送するという実験でそのための装置の試作品を作っていたのです」
「なんと……」
「魔法を一切使わずに……か?」
ルーファと魔王、どちらも元ある世界の概念を覆され、驚きを隠せないようだ。
「はい、そもそも僕たちは元の世界にいたときには魔法は使えませんでしたから……」
俺達にとって、それは今迄語り継がれてきた御伽噺としてのものにすぎなかった。
「魔法のあるこの世界に来てからその状態が継続しているかどうかはわかりませんが」
スバルが言った通り、現に俺の外見が元の世界にいたときと変わっているという現象も発生しているから今更驚愕することはないが。というよりは、し尽したと言った方が正しい。
「ふむ……魔法でないとしたら一体どうやって異世界へ移動すると?」
「先ほどお見せしました、科学の技術を利用して転送するという仕掛けです。理論のほうはスバル君に聞いていただきたいです、なにぶん複雑ですので……」
後はその理論をスバルが説明してくれれば問題はない、のだが。
「その理論についてここで説明する必要はないものと考えます」
スバルは俺の予想を悪い意味で裏切ったようだ。俺を含む全員が懐疑の念でスバルを注視する。
「それは……」
ルーファの懐疑をものともせず、かき消すようにスバルが淡々と要点を述べた。
「必要なのは、僕たちの実験で用いた装置に何らかの干渉があったという事実をどう理解するかです」
「つまり、召喚魔法とお前たちの実験装置との干渉で召喚魔法が暴走し、お前たちの実験装置も誤作動を引き起こしたということか」
「だとしたら一体どのようにして召喚魔法に干渉したのですか!?わたくしの知る限りその様な事はありえません!!」
「僕たち異世界の人間は逆にこちらの世界での魔法がどのようなものかまだはっきりとは把握していません。この世界における魔法能力の有無もそうですし、召喚魔法の暴走もそうです。更に言えば僕たちの実験装置との干渉の原因も分かっていません」
どちらかと言えば、今暴走しているのはスバルの方だが。
「……故に協力して解決する必要があると……お前はそう言いたいのだな?」
まずい、このままではスバルの首と一緒に俺の首も飛びかねない。この状況を打破せんと、俺は今まで閉じていた口を開いた。
「そうですね。困ったことに、元の世界に戻る方法ですが、皆目見当がつかない状況でして……元の世界に戻る手段が確立できない今、その時まで我々はこの世界で生き延びなければならないのです」
まずは俺らが置かれている現状を伝える。
「……うむ。従って、少なくとも何らかの形でその手段が完成するまではこの世界にいる以外選択肢がない、か……」
会話の内容から瞬時にこれを推測できる人物であることは確認済みだ、ここまでは予定通り。次に、魔王サイドが置かれている現状を推測。
幸い、割と初めの部分に状況を把握できたためこの推測は簡単だ。
「はい、今迄の内容から察しますと召喚魔法を使用したのには、我々異世界人にしか成し遂げることができない特殊な理由があるからだと思います」
「……ああ、その通りだ。しかし何故分かったのだ?」
「現にそうでなければ国賓待遇する準備が整っているのは些か不自然だと思いまして…」
まぁ、原因は分からないがなぜか2人飛ばされてきてしまったというイレギュラーが発生してしまったので整っているとは言い切れない部分もあるが。
さて、ここからが勝負どころ、「如何にそちらに利点を見せるか」である。
自分自身に分かるようなものでないと証明はできても使い物にならないと切り捨てられる可能性がある、だがここでスバルが見せたフラッシュペーパー、もとい知識の披露が役に立つ。成程、通りでスバルが知識に固執していたわけだ。
「先程お見せした我々が使用している科学は実に様々な物に対して汎用性があります。先程見せたフラッシュペーパーをはじめとする魔法を使わない技術から、果ては簡単な未来予知まで」
「……そんなことまでできるのか!?」
勿論、嘘を言っているつもりは毛頭ない。
「例えば上空に石を投げ、それが落ちてくる時間を計算して予測する。特定の人物の今までの行動パターンから次に相手が何をするのかを予想する。勿論、あくまで予想ですから外れる可能性もあります。しかしこのようなことを特殊な能力を持たない人でもできるのです」
魔王とルーファの共通点があるとしたら、共に好奇心が旺盛だという部分。その方法に興味を持つことはポイントさえつかめば自らを売り込むことは容易。
「そこで、我々の知識や技術を駆使し、お嬢様がお抱えている問題を出来うる限り解決していきたいと思います。ですが、そのためにはお嬢様の元で我々はこの世界に関する知識を得る必要があります。それによってより良い解決法を導き出せるようになると信じています」
その上で後は要求すれば良いだけの話だが。
クラスメートを始め、年上、生徒会、果ては教師まで。スバルは有り余る知識とお得意のマシンガントークで相手を翻弄し、切羽詰まったところで論理的な矛盾を突くという攻撃的な姿勢をよくとる。
スバル、目上の人との交渉では追いつめてはならないということを肝に銘じておけ…
「いかがでしょうか?私たちとしては魔王をはじめとする闇国の方々と協力させていただきたいのですが……」
大前提はあくまでも魔王サイドの方が立場が上であることを忘れないこと。その上での最善手は、そちらの要求を全て飲んでいるように見せて実はこちらの方が有利になるように仕込んだ選択肢以外を選ばせないようにすることだ。
「……成程、わかった。お前らを正式に異世界の代表として闇国、イヴェルナに迎えよう」
はい、言いくるめ完了。まあ、特上の餌を吊るしておけばまず相手側はそれに食いつくのは自明の理だ。
「ルーファ、この者たちに全面的に協力しろ」
「お嬢様、この者たちを異世界人と決めつけるのには時期尚早では?」
とはいえ、さっきまでのスバルの攻撃的姿勢を鑑みればルーファが反発するのも無理はない。
「現に我らの知らない科学とやらを見せてくれたんだ。他に我らが知らないことを知っていても何ら不思議ではない、それだけで異世界人だという証拠になりえる」
「しかし……っ」
昂る感情を制するかのように、魔王はルーファの前に右手を出す。
「……分かりました、お嬢様の仰せの通りに」
不服そうにしていたが、魔王の決定に逆らおうとはしなかった。
丁度その時、ノック音と同時にさっきのメイドがこんなことを告げた。
「あの……失礼いたします、お茶会の準備が整いましたのでお迎えにあがりました」
その言葉とほぼ同時に、古時計の鐘の音が四回響く。
「そうだったな……もう16:00か……」
その横でちみっこく見えるスバルが俺の裾を引っ張り、
「……木蓮さん、甘いものが食べたいです……」
と言ってくる。
あのなぁ……お前のせいでどれだけ冷汗かいたかわかるか?というかお前、下手したら首が飛んでたんだぞ……。
「まあ、確かに小腹空いたな……」
言われてみれば、この時間あたりに大抵ティータイムを挟んでいたから甘いものが欲しいというのは分からない。
「ルーファ、行くぞ」
「あの、私がご一緒しても……?」
さっきまでの威厳はどこへやら、すっかり丸く見えた魔王が満面の笑みで微笑んだ。
「勿論」
「かしこまりました」
ルーファは忠誠心を示すためか手を自らの胸に当て、魔王の後ろについて行った。
「お前たちも早く来い、楽しい茶会の始まりだ」
スバルは茶会ということで浮き足立っているようだ。
「木蓮さん、行きますよ?」
「あ、あぁ……」
ひとまずの危機は去ったようだが、俺に募る苦悩は一向に減る気配を見せてくれないようだ。