表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/14

Ex.1:鑑識スバルの現場検証

前回のあらすじ


木蓮さんを刺したシリウスという軍部の重臣を追跡していたものの、途中でその反応が途絶し、行方不明となってしまった。


そこで僕は、無理やりついてくると言った木蓮さんと魔王一行を引き連れ、信号が途絶した廊下へとやってきました。


だがそこにあったのは、見るも無残に原形を留めないほど破壊された死体があったのでした――

「こ……これは一体…………」


「なにがあったのだ……」


「いったいどうやって……」


「だ、誰がこんな殺し方を……?」


 あまりにも無残な死体を目前にしながら、一同その現場の異常さに愕然とするのであった。


 今までに何度も司法解剖の手順や実際に動物の解剖をやってきたが、正直近くに居るのもつらいほど悲惨な状況だ。


 だが、このままにしておくわけにもいかないし、犯人が残した証拠をみすみす見逃すつもりはない。


 なにより、重要な尋問対象を殺してくれたんだ。しっかり報復、それ相応の拷問を受けさせて、そして最後には……想像するだけでも笑みが止まりません。


 が、それは後の楽しみとして。まずは現場検証をしなくてはなりません。う~む!腕が鳴りますねぇ~!!!


 そうして期待してしまうのは、優秀な知能犯と真っ向から対決できる機会ができたからに他ならない。木蓮さんと最初に出会ったときも……


 さて、お仕事お仕事……っと!


「とりあえず、現場検証をすることにしましょう」


 まずは現場保存を優先。[KEEP OUT]のテープをはらなくては。範囲は死体を挟んで3~4mの幅としようかな。


「全員離れていてください、くれぐれもテープより内側には入らないでください」


 まずは、今の発言で犯人はどう動いてくるか……


「宜しいですね?」


 全員の顔を観察して……って、誰も動かないじゃないですか。そんなに迂闊な犯人じゃないか、それとももしやこの場に居ないのでは?


 まぁ、それはそれとして。始めるとしますか……


「ファサッ!」


 そうして、白衣を纏った僕は仕事モードに切り替わる。


 まずは、服装をきっちりしなくてはならない。帽子にマスク、靴裏にビニールカバーに手術用のゴム手袋……っと。


「パチンッ!」


 これで良し、お待ちかねの推理タイムと行きましょう。


「死体は原形をとどめていませんが、遺留品と今の状況を鑑みるとシリウス様と予想されます、このような死体の状態になるためには……体内の圧力を高くする事が出来れば……」


 いや、厳密にいえば体内の圧力が高くなるだけでは破裂しないのだが……


 現に、高い山に登った時も体内の圧力は上がっているが、もしもそれで人体が破裂したりしたら……日本百名山があっちもこっちも血みどろになってしまいますし……


 ……というわけで、人体を破裂させるには急速に圧力変化を起こす必要がある訳だが。まったく……それにしても些か猟奇的な殺し方だな。


「……まるで昔の劇場型殺人のようだ」


「劇場型殺人……とは?」


「劇場型殺人、見せつけるような殺し方です」


「例えば……町中に死体を吊るすなどの殺人です。連続通り魔もどちらかと言うと劇場型に分類されます」


 それにしたってここまで証拠を残さない殺し方、しかも死体を原形をとどめないまで破壊するとなると、怨恨の線が……?




 おっと!そう言えば重傷の木蓮さんの事をすっかり忘れていました……。


「ところで、木蓮さんの容体は……?」


「大丈夫だ……」


 あぁ……ふらふらしてるなぁ~、やっぱり案の定失血性ショックを引き起こしていますね。


「すみません……木蓮さんを自室に連れて行ってあげてください……」


 まぁ、腹部の大動脈が切れかけてましたから、元の世界だったら緊急手術ものですからね……、そして術後にICU送りが妥当でしょうかねぇ……。


「やはり、いくら木蓮さんといえど重傷を負っていますからね……」


 異世界だからとりあえず回復魔法のような医学的処置に相当する処置を受けさせるとして……。これについては、こちらの人たちに任せましょう。最悪、僕が緊急処置をすればいいか。


 くれぐれも死なないでくださいよ?木蓮さん。


「出来れば監視役と医療関係者をそれぞれ一人ずつ部屋に待機させておいてください。僕も現場検証が終わり次第、そちらに向かいます。何かあったらすぐに連絡してください……」


「かしこまりました」


 さて、検証に戻るとしましょう……ここまで徹底して死体を破壊するとなると、怨恨か……もしくは優秀な殺人者か……殺すことが目的の殺人鬼(シリアルキラー)か?


 いや、精神汚染が背景にあるサイコキラーやシリアルキラーの場合だと証拠をかなり残してしまうからこの線はないか……


 とすると怨恨又は優秀な殺人者となるわけだが。ここまで徹底して証拠を残さないよう抹消している点は努力が見られるので加点してもいいかな。


 恐らく、証拠を残さないように細心の注意を払えるだけの知能犯か、あるいはその手のプロの犯行か。


 が、これでは70点前後だな……殺し方が美しくない。


「スバル……お前は……」


「一体何者なんだ……」


「わたくしは唯の"異世界人"ですよ……?」


 "僕が何者か"なんて質問は日ごろから良くぶつけられる質問だから、いつもこの定型文で対応している。


 それもそれとして……少なくとも現段階での証拠を全て照らし合わせても肝心の凶器がわからないな。


「電子レンジ……」


「電子レンジ…とは……?」


 強いて言うならば電子レンジが近かったのだが、アルフレッドの反応を見るとこの世界ではそこまで高度な技術は未だ体現化されていないのだろう。


 ちなみに電子レンジを疑った理由は電子レンジの発するマイクロ波で人体を破裂させることが理論上可能であることが挙げられる。


 良い子は真似しないでほしいが、ゆで卵を電子レンジに入れてある程度加熱すると……ボン!!と爆発する。


 これと同じことを指向性のある高出力マイクロ波で再現することができるという事を中学生の時に実際に卵を爆発させて考えついた。


 こんな実験を小学生の頃からしてたら母に怒られ、以後実験教室に通ったりしてきたのだが……。


 それは置いといて。携行可能な電源で人体を破裂させるだけの高出力マイクロ波を発生させるのはほぼ不可能だということは経験的に分かっている。


 以上の事を踏まえると、凶器は魔法。しかも体内の水分を蒸発させることができる熱量操作を行う事が可能な魔法であると推測される……か。


「お嬢様、申し訳ありませんがこの場所で魔法が発動されたと考えられるのですが、残留魔力などを検出することは可能でしょうか……?」


「もちろん、その程度のこと私にとっては簡単だ」


 そして魔王の両目が黄色く光る。この魔法分析は、最初に応接室でフラッシュペーパーを見せた時に使っていたが未だによくわかっていない。


 魔法というものはなかなか奥が深いものだなぁ……、などと感銘を受けるのであった。


「どうやら熱量操作系の魔法が発動されたようだな……。それにしても、発動した魔法に対するカモフラージュが巧妙に成されている。実に巧妙だ」


 なっ、発動した魔法を偽装している……?


 怨恨ならば魔法を偽装するような行動は犯罪心理学的にとらないと言える。


 もし仮に偽装する技術を持っている人間が怨恨を理由にシリウスを殺し、証拠抹消を試みたのか?


 いや、怨恨の線でこの現場を見ると不自然な点があまりにも多すぎる。調べられるかどうかも分からない魔法に偽装工作をしている点は不自然にもほどがある。


 だとしたら……これは確実に、プロの犯行だ……!


「……暗殺者」


 まったく、あまりにもそれっぽい展開過ぎて面白くないじゃないか。誰だこんなところにまで"お約束は絶対に守りましょう"的な設定をもちこんだ阿呆は……


「暗殺者!?」


 ふと漏らした暗殺者というワードにアルフレッドが驚いた。


「暗殺者と明言はできませんが、その手のプロの犯行です」


「ここまで証拠が残らないとなると……相当魔法技術が発達している国ですね……」


 証拠を残さないためには二つ気をつけなければならない。


 一つは、犯行前の準備である。


 現場に証拠を残さないために、靴裏にビニールカバーをつけて足跡(げそこん)を残さないようにしたり。


 あとは、指紋を付けないようにゴム手袋をつけたり、毛髪を落とさないように帽子をかぶったり……。実は犯行前の準備で7割くらいの証拠を消すことができる。


 残りは犯行後の証拠隠滅又は証拠偽造である。


 誤った道しるべを作りだし、捜査を撹乱するのはリスクもあるがなかなか使える。所謂、ハイリスク-ハイリターンというやつだ。


 また殺す時に不意に証拠を残してしまう可能性や、被害者が何らかの証拠を残している可能性があることを考えなくてはならない。


 いざ殺す段になって被害者が抵抗し、爪の間に皮膚片が残ってしまってDNA鑑定で足がつく……なんてことは良くある話。他にも、焦って現場を離れた際に凶器を置き忘れ、そこから容疑者が特定されたりと、なかなか難しいのだ。


 犯罪心理学的にも犯行後の方が証拠を残しやすい点がある。だからこそ、完全犯罪や被疑者不明のような迷宮入りの犯罪は本当に難しいのである。


 そうですね……所謂三億円事件の犯人は90点以上の高得点をたたき出した優秀な犯罪者だ。一度でいいからあって話をしてみたいものだ……


 今回の犯人は証拠をあまりにも残していない。そして愚かなことに、それがむしろ証拠になることに気づいていない。だからこそ、70点前後の点数しかつけられない。


 さて。


「現状闇国の仮想敵国としてはいかなる国家が挙げられますか?」


 さぁ~て…クーデターを起こしたシリウスを殺しているということは闇国内部の人間か、それとも外部の人間か?う~む…わくわくさせてくれますねぇ~……。なんて思いながらそう言ってしまったからうっかりニヤリ……としてしまった。


 もし暗殺者が衆人にまぎれていると踏んだブラフで、少しでも不自然な行動をするものがいれば……たちまち僕の鷹の目に引っかかって容疑者リストに名前が載る。あとは証拠を集めるために地道に観察と調査を重ねて……


 だが実は、ここにはひとつ危険性があるのだが……。


「そうだな……今一番の脅威は……」


 お嬢様がスバル様の手際に感心して重大な機密を話そうとしておられる。スバル様、やはりそう来ると思いました。


 これだけ酷い状態にもかかわらず冷静に、異世界の知識を駆使して現場を分析して、今の闇国の重要な問題である外交問題に目をつけられるとは……


「さすがに今この場でお答えするには極めて重大な機密情報ですので……、お嬢様とわたくし、スバル様と木蓮様の4人で会談をする事に致しませんか?」


 ここでの危険性は、魔王がここで敵国を明言してしまうと先方にも感づかれ、より危険度の高い攻撃を仕掛けられる可能性があるというもの。


「さすがアルフレッド様ですね、周りを見ていらっしゃる」


 しかしここで仮想敵国の話をするのはあまりにも危険すぎるのでは?そのように考えてお嬢様を制止したアルフレッドさんはなかなか知能レベルも高く優秀な作戦参謀になりそうですね。できれば仲良くしていろいろな話をしたいものです。


「わかりました、ではそのようにいたしましょう」


「もうひとつ……」


 先の理由から魔王とアルフレッドにのみ聞こえるような小声で話す必要がある。まったく、神経のいる作業だなぁ~。


「この城の内部に仮想敵国の暗殺者がいるものと推測します。ただこの件についてはまだ仮説の段階なのでなんとも言えません。詳しくは後ほどの会談でお話する事にしましょう」


「うむ」


「そうですね……」


 と、御二方同意してくれたところで。この後も僕は一仕事をしなければ。


「すみません、2~3分ほど一人にしてください……」


 そうして、魔王一行やメイド、近衛兵や他の大臣たちは現場を離れた。唯一人を除いて……


「スバル様は一体どのようにして現場を調べられたのでしょうか……?」


 まったく。ルーファさんもルーファさんだ。いくら現場が気になるからって……


 こっちが気づいていないとでも思っているのでしょうか?まぁ、今度話をする機会があった時に話のタネにでもしましょうか。


 まぁそれはそれとして、鑑識さん~カメラお願いします!って……鑑識さんいないんだった。


 仕方ない。僕の魔法能力を試すのにもちょうどいいから魔法で現場の状態を記録しておきますか……。大分使い慣れてきた魔法式を展開。


 えぇ~っと、記録システムを構築……、プログラミングの原理でできて本当に楽だよなぁ。よし、次に記録範囲を指定……これも……。


 ん?こ、これは……!?


 ……やはり、この魔法には恐ろしい能力が秘められていたのか……。もしや、この能力を使ってこうやってシステムを組んで……。


 いや……まだこれは仮説の段階だ、近日中に検証しなくては……。


 それもそれとして、とりあえず情報記録は完了したから、後は会談の準備だなぁ。


 しかし本当に仕事量が多いなぁ~……ほとんどが自分で増やしてしまった仕事なんだけどなぁ~。


 元の世界に居たころ、木蓮さんにワーカーホリックって言われたからなぁ、仕事量減らさないとなぁ~……。


「それでは、規制を解除します。お手数かとは存じますが廊下の掃除をお願いします……」


 内心自分の働き過ぎにあきれ果てながらも、現場を分析し終えた鑑識さんのようにいたって冷静にそう言った。


 後、木蓮さん……くれぐれも死なないでくださいよ?何せあなたは……。


 そうして本物の鑑識と同じように現場検証をしながらも、木蓮さんの容態が気にかかって気にかかってしょうがないスバルなのであった――




 なんて思ったものの、木蓮さんの容態がどうであれやっぱり働いてないと落ち着かないんだよなぁ~、なんて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ