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Q.E.F.1:ある晴れた日のこと、突然。

「ったく、割といつものことといい朝からいきなり呼び出しやがって……一体何があったんだ」


 なんてぼやきながら廊下を急ぎ足で駆け抜ける。


「自由な校風と豊かな成長」をスローガンにしているからか、生徒が休まる土曜日といえど体育文化問わず部活にいそしんでいる人間は少なくはない。


 現に上階からは微かにフルートやトランペットの軽快な音色が聞こえる。


 時々すれ違う生徒にも軽く会釈しながら、理科実験室と書かれたプレートを目でとらえ、引き戸を思い切り開けた。


「どうしたっ!」


 がらり、とドアが古ぼけた音を大きく響かせる。


 軽く息を整え実験室に目を見やれば


「木蓮さん、先程連絡した通り例の装置が完成しました!!」


 先程の電話相手、遠藤スバルが意気揚々として問いに応じた。


 他称から天才なり、歩く図書館なりと呼ばれている彼は、この部活に入ってから幾つもの実験、研究をこなしてきている。


 故に、例の件と言われてもどの件を指すかが分からないことがしょっちゅうだ。


「というか……スバル君、一体どの件だ?君は常にいくつも研究しているからどの研究だかわからないのだが?」


「ああ、そうでした……。もちろん、御依頼のあったオーパーツの研究についてです、さあさあこちらへ」


 成程、俺が持ちかけた研究か。遂に完成したのか、そう思うと思わず頬が緩むものだ。


 そんな表情も知らずにスバルは意気揚々と会議室に向かう。


 その会議室の奥には、何やら複雑で奇妙なメカがおいてある。おおよそ横幅と高さが2mほど。


「よいしょっと……スバル、これで最後ね?」


 その近辺では、何やら小物が入った箱を両手で持ちあるく女性の姿が見える。


 荷物を降ろしながらうふふと微笑んでいる女性は鐙千夏(あぶみちなつ)、この部活で唯一の3年生だ。


 何を考えているか分からないふわふわとした印象と、それによってもたらされるフワフワした不可解さ。


 科学研究部のメンバーは皆一つの心配に近いかたちで千夏さんと呼んでいるが、俺は少々の事情から敬称を込めて「セルミィ」と呼んでいる。


「千夏先輩大丈夫ですかー?」


 後ろではそれを心配そうに見つめている男性は臨城勇右(りんじょうゆうすけ)。この部活でのハードウェア関係は彼が担当している。


「大丈夫よ~?そんなに重くないし~」


 彼とセルミィに関しては恋人関係とか許嫁ではないだろうかと思うのだが、勇右はあくまでも幼馴染だと言いはる。


「重さは関係ないから俺に運ばせてくれ……。なんというか男の沽券に関わるというか……そうだよな、スバル!」


 それと、スバルの数少ない親友でもある。


「僕に言わないでください、ただでさえ最終調整で忙しいというのに」


 最もスバルはクライアントと親友しか交友しない上に実験を優先させるような変人でもあるのだが。


「それよりー、早く実験やりましょうよ~」


 後ろでは科学部一の元気っ子こと、東雲秋葉(しののめあきは)が催促する。この子は俺が一年の頃のクラスメイトだ。


「木蓮さん……早く実験やりたいです……」


 続々と部室のメンバーが長机に集合していく中、秋葉の隣で俺を見つめてくる少女。


 彼女の名前は東雲海音(しののめうみね)、彼女も一年の頃のクラスメイトである。


 苗字を見れば大体の察しはつくと思うが、秋葉と海音は一卵性双生児、つまりは双子である。


「秋葉~?実験始める前に、爆発とか破片が飛んだりする可能性もあるから一応安全メガネかけとけよ?」


 だが、どう頑張っても性格は似て似つかないものである。この注意も普段色々とやらかしている秋葉にしか言わないことだ。


 海音を始め他のメンバーは既に安全メガネをつけて活動しているというのに。


 はーい、と気の抜けた返事をしながらいそいそと安全メガネをつける秋葉。


 さてと―――


「スバルー、そろそろ実験を始めてくれないか?」


「そうですね、それではお待ちかねの実験タイムと参りましょう!!!」




「まずこちらに、真っ赤な林檎を用意します!次に装置にセット……!」


 不思議な機械の近くで何かのプログラムを組んだり、昔ながらのコンピュータのごとくスイッチを切り替えたりと忙しく動き回っているスバル。


「それでスバル君~?これってどんな装置なのかな?私まだよくわかってないのだけれど……」


 その近くで何をやっているのかてんで分からない、といった表情で質問をしているセルミィ。


「説明するのは非常に難しいのですが……」


「この装置はですね、この空間を表わしている"実数"という数字を別の数字で書き換えるという操作を行うことによって別の時空間に転送するという代物でして」


「その本質は情報を改変する事で……」


 スバル、お前という奴は相変わらず説明が難しくなっているぞ。お陰でわけがわからないというような表情をした四人がこちらを見つめている。


「つまり、この空間の物を別次元にワープさせる装置というわけだな?」


「イグザクトリィ!!さすが木蓮さんです!!調整も終わりましたし、ここで実行する前にもう一度この装置の理論を説明しましょう!!」


「この装置はこの空間を表わしている"実数"という数字を別の数字で書き換えるという操作を行うことによって別の時空間に転送するという代物で……」


 そして、俺の説明にキラキラ状態になった挙句に更に説明に入るスバル。全く、スバルのスイッチが入るときは必ず面倒なことになる。


「実験、始めるか……」


「という事で、スイッチオン!!」


 STARTと書かれた文字の上にあるボタンを勇右が押すとモータ音のような音が室内に響く。


「って!!勇右君!何勝手に装置を作動させてるんですか!!!」


 その音に気付いたのかスバルが慌てて勇右に説明を始める。


「この研究は他のどの研究者も到達していない最先端研究の域を超えているのですから何が起こっても不思議ではないんです!!爆発したり空間が曲がったり……」


「最悪SFの世界ではありますが過去や未来、並行世界に飛ばされる可能性だって……」


 と、セルミィが疑問に思ったのか、スバルの服を引っ張り首を傾げながら問う。


「スバル君~?、スイッチを入れたものの林檎が一向に消えないけど……一体どうしたのかしら~?」


 消えない?デバッグの時には問題なく作動していたのにか?


「おかしいですね……理論的にはこれで間違いはないはずなのですが……」


 スバルが訝しげにリンゴを見つめた後、ホワイトボードで数式を書き検証を始める。


 ぱちり。


 耳で聞こえる程度にスパーク音が鳴る。


「うわっ!?」


 ユウがスパーク音に驚いたのか後ろに跳ね退く。その最中に足元のコードが絡んだのか、倒れそうなユウに慌ててセルミィが駆け寄り、転ぶ寸前のところでそっと抱きとめた。


「あらユウちゃん大丈夫?」


「大丈夫……じゃないですセルミィさん胸あたってる胸!」


「あら?別に私はあててないわよ?うふふ」


 いつものことながらハプニング多すぎるなこの二人。


「あー!また二人でいちゃついてるー!」


 その様子を見ていた秋葉が二人を見つめながら囃し立てる。まあ、こいつらはいつものことだから放っておくとして、スバルの様子は一体どうなっているのか。


「スバル、どうした?」


 俺が話しかけても返事をせず、怪しげにリンゴと装置を交互に見ている。


「なぁ、スバルはどう思う?なぜ林檎は消えなかった?」


「理論の間違い……計算ミス……それとも、装置の故障……?」


「そうですね……理論的には間違いはなかったので、恐らくは装置の問題かと……それに一瞬ショートした気が……」


 やはりあのスパーク音、スバルは聞こえていたか。


「俺も聞こえた……というよりは確実にスパークしていたな。やっぱり装置の故障じゃないのか?」


「……私も聞こえた。分解メンテナンス……した方がいい?」


 スバルのみならず勇右や海音も聞こえた、それのみならず勇右に至っては実際にスパークしていたと言っている。だとしたら、早いところ原因を究明した方がいいな。


「スバル、一旦分解しよう」


「分かりました。ということで勇右君?そこのESBボタンを押してください」


 ここでいうESBは、Emergency Stop Button、つまり非常停止用のボタンだ。近くにいたユウがESBボタンを押すと、それを皮切りに周辺電子機器に一瞬紫色の閃光が発生した。


「ん?今一瞬ノイズが走った気がしたが……」


「やはりおかしいですね……。スパークといっても紫色でしたし…普通なら黄色か白色なのですが……」


 スバルの言うとおりスパークにしてはどうもおかしい。第一、閃光が紫色であることなんてあり得るのか?


「一応分解して再度安全を確保してから実験する事にしましょう」


 一同が了解、と言いながら工具を持ち運ぶ。


「えぇ~とりあえずやってみようよ~」


 そんな最中でも相変わらず秋葉は駄々っ子を貫いているようだ。


「しかし危ないかと……」


 スバルの心配の声に合わせ海音も秋葉を静止する。


「私も同意見です。秋葉?実験は安全を確保してから……ね?」


「うぅ~」


 海音の注意でようやく止まったようだが、果たしてこの先どうなるのやら。




「設計図を確認してAからGユニットまでの範囲を分解し再度確認。役割分担はホワイトボードに書いてあるから確認してくれ」


 メンバー一同がホワイトボードに書いたユニットの解体作業を進める。その間にも俺とスバルはホワイトボードの前で検証を始めた。スバルが素早く原因の特定と上段に書き込む。


「スバル、とりあえずソフトの面では異常はないよな?」


「勿論です、原理等にも間違はありませんでした」


 とスバルは自分の研究ノートの計算式を見ながら自信に満ちた口調でそう断言した。


 取り敢えずここに関しては事前に何回かデバッグとテストを繰り返しているから問題は無い。


 スバルがホワイトボードに『理論並びにプログラム共に異常なし』と記述すると同時に勇右が俺に尋ねてきた。


「つまり問題は装置自体にある、というわけかな?」


「恐らくはそうだろうな」


 現に装置の動作不良やスパーク音、周辺機器のノイズと、装置自体の問題であろう異常が確認されている。


 ホワイトボードに『装置自体の問題?』と表記したのちにスバルは設計資料と装置を交互ににらめっこし始める。


 解体作業が一通り終わり、全員が椅子に座った頃を見計らって、俺は分解を担当した全員に尋ねてみる。


「それでどうだ、分解した結果の原因は判明したか?」


 代表してセルミィがその問いに答えた。


「いえ、機械自体に損傷はないということは判明しました、それ以外はわかりませんね……」


「僕もいろいろと検証してみたものの原因は不明です……」


 まあいくつかは考えられる事象はある。デバッグで気がつかなかった計算ミス、物理的な損傷……。


 あるいは希ガスによるプラズマ?


 いや。そもそも紫色のスパークが発生する状況は減圧キセノンを使用する以外あり得ない、おまけにそんな現象は高圧電源にかけない限り起こらない。


 後残る可能性は……。実を言うとちょっとした不安要素は存在していたりもする。


「秋葉……何か装置に液体とかかけてないよね?まさかとは思うけど作ってるときに食べ物食べてないよね?」


 一応『実験室は基本飲食禁止』の約束は徹底的に叩き込んだが、秋葉なら会議室だからと言いながらやりかねないことだ。


「してないよー?製作中にお菓子なんて食べてないよ?」


 全員が疑う目で秋葉を見つめ、その様子を見ながら秋葉が涙目で「本当だってばー!」と反論する。


「まあ、菓子クズは見当たらなかったし、その線は無いんじゃないのか?」


 ユウの言う通りだ、もっと秋葉を信用してみたらどうだか。


 それはさておき、装置自体に損傷等は無し、か。


 考察中のスバルに代わり俺が記述し、残りのメンバーで再構築を命令する。


 これで実験の理論が抜けていないと仮定するならば、残り存在する不安定要素は何がある……?


「この近辺でこの装置に干渉できるような設備はあるのかしら?」


 携帯の電波では干渉されないことはすでに確認済みだが、他に干渉するような装置があるというのか?


「一応設計上はMRIやCTのように核磁気共鳴を用いて撮影する類の検査機器の強電磁場に対する防護も成されているので、恐らくありません」


 この防護を突破する例があるとすれば、例えば……。


「UFOとか!?」


「秋葉、漫画の読みすぎ」


 おいおい秋葉、いくら原因不明だからって全部超常現象で片付けるのも良くはないだろう。


「海音、可能性としては無くはないぞ?例えば……」


 そう言いながらスバルを見てみる。実際スバルならいくつか原因の目星はついていると思うが……


「例えば突発性電離層撹乱による通信障害……所謂デリンジャー現象?」


 スバル、またいきなり難しい現象を持っていきやがって……。


 それはともかく、デリンシャー現象が発生するためには太陽フレアやかなり強い放射線で電離層が撹乱される必要がある。


 確かにこれなら装置に影響を与える可能性は十分にあり得るが、そんな事が起これば今頃報道各社が大騒ぎになっているはずだ。


「それ以外、外部からの干渉自体は僕の知る限りありません。あったとしても干渉し得る事象の発生確率は極低確率ですが……」


 スバルが言うとおり、ホワイトボードには新たに『外部からの干渉もなし』と記述されている。


「まったく……原因不明か」


 と、ここでスバルが一呼吸置くと、ホワイトボードにさらっと『未知事象による干渉の可能性が極低確率で存在?』と記述した。


「未知事象による干渉の可能性があるならば科学上あり得ない紫色のスパークも説明できます」


 成程、未知事象も視野に入れるべき、か。だが、もしそうだとしたら一体何が、というよりはそもそもそんな事はあり得るのか……?


 結局スバルはホワイトボードに「Q.E.F:原因不明」と記述しアンダーラインを引いてホワイトボードから離れた。


「面白い……実に面白い!」


 一回目はつぶやくように、二回目は心から面白そうにスバルが生き生きとした表情で笑う。


「……それにしてもさっきから千夏さんときたらやたらと勇右君に絡んでますけど……大丈夫でしょうか?」


「……放っておこう」


 セルミィとユウに関してはいつものことだ。分解メンテナンスも終わってることだしそろそろ実験を再開してもいい気もするが。


「さて、原因は未だ特定されていませんが、試験的にやってみようかと思います。原因分からない以上平常時よりも危険度が高いので十分に気をつけてください。宜しいですね?」


「わ~い、やっと実験できる~」


 実験と聞いて上機嫌な秋葉がはしゃぎまわる。


「秋葉?あんまりはしゃぐと怪我するよ?」


 海音の忠告も聞かず勇右に引っかかって共々に転倒、秋葉なら時々やらかすパターンだ。


「ちょっ、うわあぁ~~!!」


「うわっ!!」


 そして二人は装置に激突した。その時、勢いを増しながら装置のいたるところから紫色のスパークが発生した。


「スバル、一体何が起こった!?」


 デバッグの時も、今迄もここまでひどく発光していなかったはずだ。


「皆さん!!早急に装置から離れてください!!!」


 おかしい。


 ノイズというよりは空間の歪みに近い何かであったことから気づくべきだった。


 確実におかしい。


 次々と発生するスパーク、それ自体はショートによる作用だとしても、果たしてその色が紫になるのか?通常だったら明らかにありえない代物の筈。


 どう考えても、これは緊急事態としか考えられない。


 いや、それどころじゃない。途轍もなく嫌な予感がする。


「海音さん!!秋葉さんを連れて、早く離れてください!!!」


「ユウ、今すぐ離れろ!!」


 呼びかけの相手が違うとはいえ、俺とスバルが考えていた事は同じだったようだ。


「こ、これは!?」


「いったい何が起こっているの!?」


 だが、普段は冷静なセルミィと海音でさえも未知の現象に対して驚くくらいだ。だが、もし緊急事態と判断し退去命令が出されたとしても……。


「緊急事態と判断します!全員直ちに部屋から逃げてください!!」


「はいっ!!」


「ちょっと待て、まだ動けないだろう秋葉とユウはどう……」


 現在の状況では、とてもじゃないがユウと秋葉が間に合わない。体重の軽いであろう秋葉ならすぐに抱きかかえて逃げることもできなくないのだが、どうすれば全員が助かるだろうか


 どちらにせよ、スバルが退去命令を出した時には既に遅かった――


 突如この実験室全体を覆うように魔方陣が展開され、次の瞬間には紫色の閃光に包まれていく――


 逃げる間もない、誰かをかばう余地すらない―――


 激しいスパーク音と眩しい光で、最後のぼやきもかき消された―――――


「くっ、間に合わな……」




 突然の閃光に目をそむけ、再び目を開けた時にはそこは何もないただなにもない真っ白な空間であった。


「あれ……?これは……」


 そのとき俺は自らがものすごいスピードに加速されている感覚と共に走馬燈のようなものを見ていた。


 そうか……


 俺たちは……


 装置の実験に失敗して……、


「死ぬ……」


 ……待て。


 そういや、スバルが言ってたな。


 最悪、過去や未来、並行世界に飛ばされる可能性もある、と……。


 全く、スバルのやつ……。


「まぁ……それならそれで面白い、それに……」


 ()()()()から逃げられるのなら、どこでもいいか――――

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