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サヴァン症候群

この娘は、大統領を暗殺したのがゴルドー、つまりは副大統領だと疑っているようだ。

何かしらの根拠があってのことなのか、それとも当てずっぽうで言っているのか……


すこしだけ考えて、私は考えるのを止めた。どうでもいいことだからだ。

大統領を殺した犯人のことなど私には知ったことではなかった。


犯人が副大統領だというのであれば、好きに身内で殺しあえばいい。


私はこの部屋から出れればそれでいいのだ。

私が疑われていないのであれば、SPさえ追い払えれば簡単にここから抜け出すことができるだろう。



「ゴルドーでもなければ、この状況に説明がつかないのよね。

 お父様の部屋の付近にSPが1人もいないなんてありえないわ」



……どうやらSPを追い払う方法を考える必要もなかったようだ。


私はさっさとこの部屋から出て行くことにした。



『Missメシア。私は副大統領の使いではありません。ただのしがないホテルの従業員です。お疑いであれば副大統領にご確認下さい』



「…………」



『私はこのことをホテルの総支配人に報告してまいります。そしてこのフロアに一般のお客様、従業員が決して入らぬように封鎖するように伝えてまいりますので……それでは失礼致します』



そう言って、私はドアへと向かった……しかし。



「待ちなさい。ディズニー。あなたにはまだ聞きたいことがあるわ」



呼び止められてしまった。面倒な女だ。



『なにか?』


「あなた、本当にゴルドーの手下じゃないのね?」


『勿論です』


「じゃあ何者?」


『先ほどから幾度も申し上げているように、しがないホテルの従業員です』


「それは嘘でしょう? 本当のことを言いなさい」


『本当です。何故お疑いになるのですか?』


「だって、あなた私に嘘を吐いたじゃない?」


『は?』


「あなた、私とは初対面でしょう?

 なのに、あたかも私と面識があるように振舞ったわね」


『……それは誤解です。

 このホテルに入館された際に、1度ご挨拶をさせて頂いております』


「そうね。たしかに入館の際に数十人の従業員と顔合わせをしたわ」


『はい。思い出して頂けたでしょうか』


「ええ、ハッキリと覚えているわ。あなたはそこにいなかった」


『失礼を承知で申し上げますが、お忘れになっているだけです。

 しかし、それも致し方ないことかと』


「…………やっぱりゴルドーの部下じゃないのね。

 ゴルドーの手の者なら知らないはずがないもの」


『何がでしょうか?』


「あのね。Mrディズニー。"サヴァン症候群"ってご存知?」


『…………』


この時、私はミスを犯していたことに気が付いた。

思えば、この娘は私を怪しんでいたにもかかわらず、初対面の際、まるで疑う素振りを見せなかった。


それはなぜか。


それは、この娘が疑う心を隠し、私の嘘に合わせていたからに他ならない。

この娘は最初から私の嘘に気付いていたのだ。


私の演技を見破ったのではない。初めから気付いていたのである。

なにか明確な確信を持って私が嘘を吐いていると看破していたのだ。

この娘に確信を与えたもの……おそらくそれは……


『サヴァン症候群……存じております。

 たしか知的障害や発達障害などのある者のうち、

 ごく稀に、特定の分野に限って天才的な能力を持つ症例のことであったかと』


「博識ね。なら、私が何を言いたいか。もう気付いているわよね?」


『…………』


「私は生まれてから1度も"忘れる"ということを体験したことがないわ。

 つまりね……私はこれまで会った全員の顔をハッキリと覚えているの」


『ふむ』


「このホテルの従業員の名前も全て覚えているわ。

 "ウォルト・ディズニー"なんてふざけた名前はなかったわね。

 フフッ!これは普通の人でも気付けそうね」


(名前は偽名なのだが、そこは信じているのか)



この娘……私の想定どおり、世間知らずで且つ、自分を賢いと勘違いしている娘のようだ。しかも、オプションで物事を忘れることができないという不便な頭もついているらしい。哀れな娘だ。



だが、この娘に私の嘘を看破されてしまったのは事実。

嘘を吐いた理由を別の嘘で釈明しなければならなくなった。

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