娘の名は Miss メシア
「ディズニー。あなたはここで何をしていたのかしら? ひょっとしてお父様の暗殺?」
『ご冗談をMiss。私も先ほど部屋に入室したばかりなのです。
状況を正しく把握できておりません』
「Missと呼ぶのは止めなさい。Msメシア と呼ぶように」
思わず吹き出しそうになってしまった。この娘、メシア (救世主)という名なのか。昨今、流行しているキラキラネームというやつは大統領官邸も例外ではないらしい。
『承知しました。Msメシア 』
「この部屋への立ち入りを禁止したのはあなたね? ディズニー」
『左様です。Missメシア 』
「……」
『Msメシア 』
「お父様を殺したのはあなた?」
『違います』
「まぁ、そうでしょうね」
『は?』
余りにあっさり信じたので思わず声を漏らしてしまった。しかし、思えばこれは失言だった。娘の誘導尋問の可能性があるのだから。しかし、今回はそうではなかったようだ。
「実行者がいつまでも残っているわけがないわ。
別の質問よ。なぜこの部屋を立ち入り禁止にしたの?」
『事態の重さを考慮し、悪戯に広めず、然るべき人にのみ、お伝えすべきことだと判断したからです』
「私には隠そうとしたわね?」
『はい。実のお父上のご不幸です。直接、現場をお見せするのは忍びないと思いました』
「ふぅん……なるほどね。
ゴルドーにそう言われたからじゃないの?」
『……』
ゴルドー? 誰だそれは。
『違います』
「間が空いたわね。ゴルドーに言われてきたのね?」
『違います』
「嘘ね。お父様を殺したのもゴルドーなんでしょう? 実行犯はあなたじゃないにしてもね」
しつこい女だ。そういえばこの女は父親が殺されることを予見していた。何かしらの理由から、ゴルドーとやらが殺すと確信していたのかもしれない。確かに、大統領を殺害した真犯人は別にいるはずだが、それがゴルドーなる人物なのだろうか。
しかし、私にはそんなことはどうでも良いことだった。より面倒な事態に巻き込まれる前に、目的のものを手に入れて、ここからトンズラできればそれで良かった。だから私はこう言った。
『Msメシア 。状況が状況です。まず信用できる人物にのみ、この事態を伝えましょう。SPが周囲に配置されているかと思いますが、一時的に人払いをした方が宜しいかと思います。今は万が一にも、この事態が一般市民に伝わることを防ぐべきです。SPも例外ではありません』
「……」
娘は沈黙した。その目は私を疑っているようであり、また思考を読もうとしているようでもあった。
「信用できる人物って?」
そんなのホテルの従業員の私が知るわけもないだろう。
『ホテルの一従業員の私には分かりません。しかし、副大統領などがそれにあたるのでは?』
「ゴルドーを信用しろって? 面白いことを言うわね。ディズニー」
『……』
どうやらゴルドーとは副大統領のことだったらしい。つまりこの娘は副大統領が大統領を殺害したと疑っているようだ。




