如何に騙るか、それが問題だ
『…………これは終わったか』
不覚にも弱気になり、こぼれ落ちた己の失言を後悔した。
もし、今の失言が来訪者の耳に届いていたら、悪戯に自分を追い詰めるだけだ。
まだ十二分に生存の可能性は残っている。
ここで自棄になり、自己陶酔するほど私は弱者ではない。
(まだ何とでもなる)
私は確信をもってそう自分に言い聞かせた。
そして、来訪者が私の前に姿を現した。
「失礼します!どなたか、いらっしゃいませんか?」
来訪者は若い娘だった。
年齢は15~16といったところか? 身なりの良い服を着ている。
ブロンドの長髪はよほど丁寧に梳かれているのだろう。
これほど美しい髪は見たことがない。
多少は作られた感を受けるものの、ブルーの瞳も相まってかなり美しい娘だった。
如何にもファーストクラスのレディといった印象だ。
この娘の外見を頭に入れて、大統領との関係を推測する。
その上で、私は自身の身分を騙らなければならない。
歳の若さから、公務の関係者でないことは一目瞭然だ。
ある程度、可能性を絞ることができる。
そして、私は発言した。
『Ms……お静かに。聡明な貴女らしくもない。どうか、平静をお保ちください』
この状況で、消極的な対応は逆効果だ。無言はNG。弱気も駄目。逃げるのは論外。娘を殺すという選択も有効であったのかもしれないが、私は殺人鬼ではない。
私はさも当然のように"面識のある関係者"として接することにした。
私は娘と初対面であった。当然、娘は私の顔を知らない。
通常、警戒して然るべき状況だ。
……が、恐らくそれは平民の考えというものだろう。
一定以上の超富裕層では、必ずしもそれは当てはまらない。
「え? あ、貴方は……? いえ、失礼しましたMr。
お恥ずかしいところお見せしました」
娘は私を知らないことを自身の過失であると、自身が"私の顔を忘れたのだ"と誤認したようだ。
おそらく、この娘は相当な数の人物と日々、顔を合わせているのだろう。そして、この娘はその全てを把握できていない。覚えていないと私は読んだ。
結果は狙い通り、娘は騙された。
流石はファーストレディといったところか。我々、平民では理解できない安穏ぶりだ。相手が子供であることも幸いしたのだろう。
うまくすれば、この娘を利用することで状況を好転させることができるかもしれない。
私は油断せぬように自身を戒めながら娘に近づいた。




