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BLT!  作者: ちろ
8/10

おかしい…涼さんがそっけない。

手元のメール画面を凝視するも、やはり前より距離を感じる文面になっている。メールの回数も減ってしまったし、電話で話していてもなんとなく話を早く終わらせたいような感じがする。

…もしかして嫌われた?!


「というわけでどうしたらいいと思う?っていうか何が原因?!俺としては順調だったつもりなんだけど!」


本当は毎日会いたいけどデートは週一だし、電話もメールもなるべく涼さんの負担にならないように考えてたはずなのに!


「お前の妄想にどん引いた。それか頼りないとか気持ち悪いとか年下は嫌だとかいろいろ可能性はあるだろ。…ああ、他に好きな男ができたとか?」


な、なんだと…。俺以外に好きな奴?!そんなのダメだ!…いや、涼さんがそいつの方が好きだって言うなら、潔く身を引く…わけないだろう!絶対別れないからな!

でも万が一そうだったら俺はいったいどうすればいいんだ。涼さん、俺のこと好きになってるとか自惚れてた俺への罰ですか。わかりました、これは貴方からの愛の試練なんですね!俺の涼さんへの愛に不可能の文字はない!


「駿、俺は決めた。今度のデートで絶対に手を繋ぐ!そんでもって、チューできたら尚良しだ!」


そうだ、この際多少強引でもかまわない。涼さんに俺をもっと意識してもらわないと!

脱ヘタレ!愛を奪え!


***********


なーんて意気込んだものの、やっぱりそれからも涼さんの態度はそっけなくて。もしかして次のデートで別れを切り出されるんじゃないかと、内心びくびくしながら過ごす毎日だった。

そして運命の日。今日で涼さんとの関係が決まるはず、と朝から落ち着かず、キレた駿に「だったら早く行け!」と教室を追い出されてしまった。

でも仕方ないだろ。キスできるかできないかの瀬戸際なんだ。真剣にもなる。


静かに話せるようにと選んだ公園で、涼さんが来るのを待つ。月曜は4限までだから、まだまだ時間には早いけど、シュミレーションは大事だよな。


俺の隣に座る涼さん。そっとその手を握る。涼さんがちょっと顔を赤くして…うわぁすごくいい。きっと照れて俯いたり反対側向いたりするんだろうな。それで俺が「涼さん」って掛けた声にゆっくり視線が絡んで…それで……いや、これ以上はダメだ。この先はここでは言えない。俺の妄想を全部広げたら、とてもじゃないが全年齢では治まりきれん。


そんな緩んだ口元を隠しつつ、幸せな時間に浸っていた俺に水を差す声が。


「あのぅ、先輩?」


…またか。


俺と涼さんのラブラブタイム(妄想)に割り込むなんて、どういう了見だ。見上げるとやっぱり例の後輩が。涼さんが来る前に終わらせないとダメだろうな…。

腹を決めて後輩の前に立つと、もじもじしながら口を開いた。


「たぶん先輩も気付いてると思うんですけど、私、先輩が好きなんです。中学の時からずっと好きだったんです!先輩に彼女がいるって諦めようと思ったんですけど、やっぱりダメで。…罰ゲームで告白したって聞きました。だったら私でもいいですよね?私と付き合ってくれませんか。」


こんなに熱い思いを告白されているというのに、俺の心はこれっぽっちも動かなかった。やっぱり涼さんだけなんだ。


「ごめん。気持ちは嬉しいけど、君とは付き合えない。それに、彼女とは罰ゲームじゃなくても最初から好きだったから。俺が好きで付き合ってる。」


どうしよう…告白されたのなんて初めてだから、こんなことしか言えないけど、ちゃんと伝わった?

目の前の後輩を見ると、なんだか儚げな雰囲気を出しながら、こう言ってきた。


「わかりました。じゃあ…キスしてくれたら諦めます。ダメですか?」


ななななんだとう?!キス?!こっちは本命彼女とのキスもまだだっていうのに…!

しかしそんな考えを見透かされたのか、続けられた言葉に、悪魔の誘いに、俺は愚かにも乗ってしまったのだった。


「彼女さんとの練習だと思ってくれてかまいません…それでもダメですか?一回だけでいいんです。」


確かに俺は焦っていた。好きな相手と付き合えるようになって、デートも電話もメールもして。それだけでも幸せだけど、もっともっと上の喜びを知りたくて。そのくせ先に進む勇気もないのに。

だからって、他の人とするなんておかしな話だ。涼さんが大事なのに、彼女だけには誠実でなければならなかったのに…!

でもその時の俺にはそんな考えさえ頭になくて。ただ、今練習すれば本番で上手くいくかもしれないと、どこまでも自分本位な考えしかなかった。悪行はいずれ自分に返ってくるというのに。


そして後輩としたキスは、虚しさと後悔ばかりのものだった。やはり心のないキスなんて何の意味もない、というのが分かった。


「あの、ありがとうございました。…すっごく幸せです。」


目の前で幸せそうにほほ笑んでいるだろう後輩を直視することもできず、無言でベンチに座り直した。そのあとも話しかけてくる後輩を適当にあしらっていたら、いつの間にか俺一人になっていた。

ふと気付いて時間を確認すると、涼さんとの待ち合わせ時間を少し過ぎていた。…珍しいな、涼さんが遅刻なんて。


しかしそれからも涼さんが現れることはなく、でももしかしたら来るかもしれないと公園を離れるわけにもいかず、じれじれとした時間を過ごすこととなった。


本当に、この時の自分を殴ってやりたい。俺の身勝手な行動で、最愛の人をこれ以上ないほど傷つけ、泣かせていたなんて。



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