Ⅱ
はああぁぁ…涼さんマジ可愛い。
現在、俺のケータイ待ち受けは涼さんだ。画像になっても可愛いなんて、あの人はどこまで俺を夢中にすれば気が済むんだろう。
「お前…それって盗撮?やめろよ、さすがに幼馴染が犯罪者とか…キモチワルイ。」
失礼な!これは待ち合わせ場所に彼女が先にいるのが見えたから、つい情熱が溢れ出しただけだ。しかも見ろ!この天使のような微笑を!俺のこと考えてくれてるんだったら…いいな、すごくいい。
「だからその緩んだ顔と言動と存在そのものをどうにかしろ。マジでウザイ。…でもまあ、うまく行ってるみたいで良かったな。」
「そうなんだよ!もともと涼さん可愛いんだけどさ、最近さらにやばいんだよね。なんか、俺と会うとき女の子らしい格好するようになったって言うか…俺のこと意識してる?好きなのかな?って、つい期待しちゃうんだよ!あー可愛い。ほんと食べちゃいたい。特にあの口元のホクロが色っぽくて、毎回欲望との戦いでさー。やっぱり3カ月経つの待つべき?いやそれよりも、早く俺のこと好きって言わせてした方がいい?ああ迷う!」
「…盛り上がってるところ悪いけど、ここ部室だから。お前の欲望ダダ漏れだから。そろそろ誰かキレるからやめろ。あと、脳内テンションだけ異常に高いくせに、実際手も握れないヘタレの妄想も聞き飽きた。」
くうっ、痛いところをぐっさり突かれた。そうだよヘタレだよ悪いか!だって仕方ないだろ!可愛い涼さんの顔を見たら、緊張しまくってそれどころじゃないんだから!俺だって手を絡ませてラブラブデートしたいんだよ。でも彼女の顔を見たら、またしても胸一杯で夢見心地で幸せ満開なんだもん…。ぐすっ。
そして最近俺を悩ませる存在がもう一人。「おーい、哲哉にお客さーん!」…来た。
正直うんざりしながら部室棟の入り口へ行くと、近頃見慣れた後輩の姿があった。
「あのっ、先輩部活お疲れ様です!これ調理部からの差し入れです、皆さんでどうぞ。あっ、迷惑だったら全然捨ててもらっていいんですけど…!」
名前は…何だっけ?確か前に聞いた気もするけど、正直涼さんで埋め尽くしたい脳内メモリーには残っていない。たぶん一般的に男受けするであろう容姿と健気そうな態度。でも自然に見せようとしている上目遣いや、さりげないボディタッチは勘弁して欲しい。必要以上に俺に触れていいのは涼さんだけだ。それに、食べ物を差し入れしておいて「捨ててもいい」とか…そんなもったいないことできないのがわかっててやってるんだろうな。実際俺は一口も食べたことないけど。しかしわざわざ持ってきてくれたのを冷たく追い返す訳にもいかず、「ありがとう」なんて心にもないことを言ってしまう俺。涼さんにもこれくらい冷静な対応ができればいいのに。
もらった差し入れをぶら下げて部室に戻れば、「色男!」だの「浮気なんてひどい!」だの、完全に面白がったヤジが飛んでくる。俺が好きになってほしいのは涼さんだけなのに。
いつものように中央のテーブルに置き、「差し入れだって」と声を掛ければ、あっという間に群がった部員たちによって空になっていた。
「それにしても彼女もよくやるよね。こんなヘタレがいいなんて、世の中おかしいんじゃないの。」
主将の特権なのか、カップケーキを3つも手にした駿が本気で不思議そうな顔をしている。
「だよな。哲哉のくせに。」
「ヘタレ大王。」
「罰ゲームでやっと告ったのにな。」
「純情ピュアピュアボーイ。」
「惚気うぜー。」
ここぞとばかりに便乗する部員たちにイラっとするが、大半は自覚があることだったので言い返せもせず。俺ってなんでこんなに弱気なんだろ…。
しかし、この「罰ゲームで告白」発言が防音効果ゼロの部室から発信されてしまったことで、まるで伝言ゲームのように若干の歪みをもって生徒たちの間に広まるとは、この時思ってもみなかった。