Ⅰ
哲君視点です。こちらも5話程度を予定しています。
ちなみに、彼女視点ではあまり出てきませんでしたが、彼はヘタレです。そしてちょっと変態です。
それでも大丈夫!という方は、どうぞお楽しみください☆
―今日も会えた。
学校近くの行きつけのパン屋で、度々見かける彼女が気になるようになったのは最近のことだ。夏休みに入って部活漬けの毎日の中、彼女に会えるのが唯一の楽しみになったのも。
今までは他の店にも買い出しに行っていたのに、彼女と会えるかもしれないと思うと、なんだかんだ理由をつけてまたパン屋へ足が向かってしまう。
なのに臆病な俺は彼女を見るだけで胸が一杯で、声を掛けるなんてできるはずもなく、こっそりと彼女と同じBLTサンドを買うことしかできない情けない状態だった。…断じてストーカーの第一歩ではない。
「お前の見てる子って知り合い?なんか毎回ねっとり見つめてるみたいだけど。」
くそ。厄介な奴に知られてしまった。こいつは俺の幼馴染で、昔からなぜか頭が上がらない。俺の方が少しだけ誕生日が早いはずなのに…「それはお前がヘタレだから。」…この腹黒ブラコンが!
しばらくして、彼女が俺の学校の隣にある図書館に通っていることがわかった。…決して後をつけたとかじゃない。校舎の周りをランニングしているとき、図書館にいる彼女が偶然見えただけだ。それからはランニング中にだらだらすることがなくなったのは否定しないけど。彼女がこっちを見てくれるなんて有り得ないのに。
しかもどういうわけか、バレー部全員に俺の恋心が知られていた…あいつか?!と思うも、「いやいや、お前自分の態度でバレバレだって気付かないの?いっつも昼休憩が近くなるとそわそわして、時間になったと思えばさっさと外行って。帰ってきたらピンクオーラ出してニタニタしてるし。誰だってわかるって!」と他の部員たちから指摘されてしまった…。穴があったら今ここで入ってしまいたい…!更に情けないことに、後輩からもエールを送られ、先輩の威厳など既に遠い宇宙の星屑となってしまった。
それからも彼女に接触できないまま夏休みも半分が過ぎ、3泊4日の夏合宿でそれは起こった。
厳しい練習に耐え、明日は漸く最終日という夜、誰かが持ってきたトランプで遊んでいると、駿(例の幼馴染)が言い出した。「5ゲームやって一番順位の低い奴、罰ゲームね。」と…。
自慢じゃないが、俺はカードゲームに弱い。たぶん顔に出るから。
…案の定ダントツのビリで、罰ゲームは俺に決まった。やっぱりな。
罰ゲームって何だろう、と内心びくびくしながら駿を見る。こいつのことだから、絶対えげつないことを言ってくるはずだ。「体育館掃除一人でやれ」とか「部室掃除1カ月連続」とか。なぜか掃除系しか思いつかないが、最近こいつが「そろそろ汚くなってきたな…」と呟いていたのを知っている俺としては、こんなことしか浮かんでこない。
身構える俺に、奴はそれはそれはイイ笑顔で言い放った。
「告白しろ」と…。
できるかああ!!と思わず叫んでしまった俺の頭を、スパーンと容赦なくぶっ叩き、笑顔なのにちっとも笑っていない目を近づけられて固まってしまう。
「いいか?お前がこうやってウジウジしている間にも、彼女に手を出す輩が現れないとも限らないんだぞ?それで後悔しないならいい。彼女が他の男と手を繋いでキスして触り合って、さらに一線越えたとしても…いいんだな?」
それを聞いてハッとした。俺以外の男が彼女に触れるなんて!手を繋ぐのも、キスするのも、膝枕してもらったり、「あーん」したり、あんなことやこんなことするのも、俺だけにして欲しい!
「分かった!俺、頑張る!絶対にあの人とラブラブになってみせる!」
握り拳と共に誓う俺の後ろで、「いつ告白するか」賭けていた面々が喜んだりがっかりしていたのを知ったのは、だいぶ後になってからだったけど。
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告白すると決めてからも、彼女を見つめるだけで精一杯だった俺が漸く勇気を出したのは、新学期が始まってしばらく経ってからだった。いつものようにパン屋にやって来た彼女に、初めて声を掛けた。いつも横顔ばかりだった彼女の顔を正面から見て、さらにその目に俺が映っているなんて…と危うく変態的な喜びに浸ってしまうところだったが、彼女の警戒したような視線に現実に引き戻される。
「あの…何のご用でしょうか?」
うわぁ、声も可愛い。…いけないいけない。大事な話の前に現実逃避なんて。
よし、覚悟を決めろ!男を見せろ坂井哲哉!
「ずっと前から気になってました!付き合ってください!」
私が書く男性キャラは、なぜかこうなってしまいます(笑)
笑って読み流してくださると助かります。
※彼女視点は完結、彼視点も完成の目途が立っておりますので、番外編としてこんな話を読みたい、というリクエスト募集中です。感想でもメッセージでもかまいません。ただし、リクエスト内容だけでなく、作品への感想を添えてお願いしますね~。