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「やっぱり諦められません!好きです!チャンスを下さい!!」
えーっと。まず現状説明を。
あの話し合い(?)の翌日、相田君からメールが来た。
「お互い腹を割って話した方が良さそうなので、土曜日14時に駅で待っていてくださいね。」
断定ですか。こっちの予定は聞かないんですか。まあ暇だし(行かなかったときの相田君が怖いし)行くけど。
そして土曜日。いつもの駅で待っていると制服姿の相田君が現れた!どうやら今日も授業があったようだ。そしてその横には彼がいた。…どうしよう、久しぶりすぎて直視できない。
「お待たせしました。…では行きましょうか。」
そう言って相田君が私の手を…って手?!ああああまりにも自然な流れで振り払うタイミング逃した!誰か救いの手を…と思って周りを見ても、味方になりそうなのは彼しかいない。そう彼しか。
そっと彼の方を盗み見ると、半分魂が抜けたような表情で「手…手…俺だって繋いだことないのに……」と呟きながらふらふらと歩いている。
…おい!しっかりしろ!!
そんなこんなでやって来ました坂井家。まさか初めてのお宅訪問がこんなのになるなんてね。ちなみにお隣は相田家だそうです。
彼の部屋に(相田君に我が物顔で)通され、彼と向かい合う。
さて…何を弁解してくれるのかな?と思ったところで冒頭のセリフ。うーん、やっぱりこれじゃ話が進まない。
「あのさ、…とりあえず久しぶり。正直なんで今更あなたと話し合うのかわからないけど…ていうかやり直すとかそういう話は置いといて、いろいろと私に説明することがあるんでしょう?」
「はいっ!…まず、俺には涼さん以外の本命なんていません!涼さんだけです!」
「へぇーそうなんだー。じゃあ彼女の片思いってことかな?」
「うっ…確かに好きだとは言われましたけど…でもちゃんと断ったんです!」
だからそれがおかしいんだって。断ったのにキスするとか何なの?弄んでるの?その辺は自分でも自覚があるみたいで、さっきから居心地悪そうにしている。
「後輩の子から告白されて、でも彼女がいるからって断って。そしたら…キスしてくれたら諦めるって言われて…。誤解しないで!誰でもいいわけじゃないから!」
…危ない危ない。もう少しで拳がヒットするところだった。
「俺、涼さんのこと本当に好きで。好きすぎて一緒にいてもまだ夢じゃないかとか思ってて。俺だって健康な男子だから、手繋いだりとかキスしたり、それ以上ももちろんしたいし。でも緊張しすぎてなかなか実行できなくて。だから「彼女さんとの練習だと思って」って言われてつい魔が差したというか…ごめんなさい!」
落ち着こう。この際目の前で土下座している人は無視して、話の流れをつかもう。
私のことが大好き→でも緊張してうまくいかない→後輩からの告白→据え膳頂きます…ってことか?!しかも若干後輩が強かなのは気のせいだろうか。絶対諦めるつもりないでしょ。
「実は…あれからも結構話しかけられたり、アピールされてるというか…」
ですよね!キスしたことを隠してもばらしても、ぎくしゃくしそうなのは想定範囲内で仕掛けてきたんだろうなー。
「でも俺が好きなのは涼さんだけだから。あのキスの時だって、やっぱり違うって、すごく後悔したんだ。しかもそれを涼さんに見られて…自業自得だよね。」
どうしよう。泣き始めちゃったよ。
「涼さん俺のこと好きになれなかった?もう会うのも嫌?…でも俺諦められないんだ。勝手なのは分かってるけど、チャンスが欲しい。今度こそ間違えないから。絶対に涼さんだけを大事にするから。だからお願い。もう一度付き合ってください。」
ここまでのセリフ、書くとこれだけだけど、実際は嗚咽混じりですごいことになってた。顔もぐちゃぐちゃだし、私の腕にしがみついてるし(無意識っぽいけど)、正直別れた男がこんなんとか引くんだろうけど…なんでだろう。ほんとなんでだろう!
「可愛い」とか思っちゃうのは。
今も泣きながら私の顔を覗き込む彼を見てキュンキュンしてる。そっと頭を撫でるとほわっと笑ってくれるのがくすぐったい。
どうしようもなくヘタレな彼だけど、どうやら私はそんな彼に恋をしたみたいだ。
しばらくなでなでしていると、彼が恐る恐る尋ねてきた。
「あの…これはやり直してくれるってことでいいの?」
「うん。本当は私も哲君のこと好きになってたんだ。でもあんなことがあって別れて。何人か告白してきた人もいるけど、誰とも付き合えなくて。…だから責任取ってね?」
私だってたまには可愛くなる時があるんだから!と精一杯の甘い声でお願いすると、それはもう嬉しさ満開の彼の笑顔があった。
そして今度こそ空気を読んだ彼がゆっくりと近づいて…そのあとのことは内緒!
これで完結となります。
が、このあと彼視点を執筆予定です。そちらもお楽しみに。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。