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すぐにその場を立ち去り自宅に戻ると、思いっきり泣いた。泣いて泣いて泣きつくして、そして次は腹が立った。私には悲劇のヒロインは向いてない。とりあえず別れることは決定事項だけど、その前に一言言ってやらないと、この怒りを消化できそうもないし。
直接顔を合わせるとまた不愉快な思いをしそうだから電話でいいや。と思って携帯を見れば、大量の着信とメールが。そういえば待ち合わせ時間だいぶ過ぎてる…。
「今どこ?」「何かあった?」「連絡して」
…先程待ち合わせ場所に行ったら罰ゲームで嘘の彼氏になって下さったあなたの本命彼女とのキスシーンを見たので帰りました。
あー、改めてまとめると更に腹立たしいな。せめて自分で言った三ヶ月くらいばれないようにしてくれよ…。
この二ヶ月で見慣れた名前を呼び出せば、ワンコールもしないうちに大音量で彼の声が飛び込んできた。
「涼さん!どこにいるの?!無事?!」
…うるさいなあ。そんなに大声出さなくたって聞こえるよ。
「とりあえず(肉体的には)無事だけど。でもそっちには行けない。ごめん。」
自分でも固いと思う声しか出ず、ああ本当に怒ってるんだなと他人のように感じる。
「行けないって…なんで?やっぱり体調悪い?」
だから私相手にそんな心配する必要ないでしょ。
「体調は良いよ。ただもうあなたとは会う必要がないから。」
私が告げた途端、明らかに向こうの空気が固まったのがわかった。
「それって別れるってこと?どうして。三ヶ月でいいから付き合ってって言ったよね?!俺のこと好きになれなかった?だったら好きになってもらえるまで頑張るから!あと一ヶ月一緒にいてよ!お願いします!」
数秒のブランクの後、早口で捲し立てる彼には残念ながら一ミリも心を動かされなかった。それどころか罰ゲーム相手に必死になる彼を可哀想とも思ってしまった。
まだ電話の向こうで私を説得しようとする彼を遮って、自分の思いをぶつけた。
「あのね…もう知ってるから。だから無理しなくていいよ。」
ひゅっと息を飲む声が聞こえた。そりゃあ心あたりありすぎるもんね。基本彼は優しいから、たぶん罪悪感もあったのかも…。だからこんな不毛な関係をいつまでも続けちゃいけないんだよ。
「…知ってるって何を?」
え、それ聞くの?ちょっとおねーさんびっくりだよ。ここはあっさり引き下がるとこでしょーが。
「何って…私と付き合ったのは罰ゲームってことだけど。」
本当はもっといろいろ知ってるけど、ここは向こうの反応を見ておかないと。
案の定、彼はものすごい勢いで反論してきた。
「それは!…罰ゲームで告白したのは本当だけど。でも、涼さんのこと気になってたのは嘘じゃないよ!むしろそれがあったから背中を押されたというか。だから俺が涼さんを好きなのは疑わないで。信じてよ!」
…って言われてもなあ。あんなシーン見せられた後じゃ説得力の欠片もないんだけど。なにこれ。私にどう対処しろって言うのさ。
どうすればうまく話が進むのか考えようとしたけど、未だに電話の向こうで「本当に好きだから」とか熱い思いをぶちまけている奴がそろそろうっとおしくなってきたので、止めの一撃を与えることにした。
「だから!そういうこと罰ゲームの相手に言わなくていいから。ていうか本命がいるんだからそっちと付き合えばいいじゃん。彼女とは両想いなんでしょ?…キスしてたんだから!」
そして電話を切ってやった。よし完了。
念の為着信拒否にして、漸く私の平穏な日々を取り戻した気がした。
ほんと勘弁してほしいよね。こんな恋愛慣れしてない女をからかうなんて。
…結局淋しさしか残らないじゃないか。