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本が好き。本さえあれば何時間でも過ごせる。許されるのなら本だけ読んで生きていたい。
そんな私のお気に入りの場所は当然本屋と図書館。晴れて大学へ入学して最初の夏休みを有意義に過ごすため、今日もせっせと図書館の開館から閉館まで閲覧室の一席を陣取って、至福の時を堪能していたんだけど…。
「ずっと前から気になってました!付き合ってください!」
いつものようにお昼時になり、図書館の近くのパン屋へ食糧調達に行った帰り道、その出来事は起こった。目の前には近くの高校の制服を着た男の子。上気した頬と握った両手が彼の本気度を表しているようだった。
…面識ないはずなんだけど。ずっと前から?
そんな私の疑問が顔に出ていたのか、彼が緊張の色を隠せないまま説明しだした。
曰く、彼はやはり近くの高校の2年生で、バレー部に所属していること。夏休みになって毎日のように練習があり、その昼休憩におやつ代わりにパン屋に買い出しに行くこと。その店に同じく毎日通う私に気付いて(しかも毎回BLTサンドを買っているのも知られていた)、段々と気になる存在になったこと。
纏めるとこんな感じ。それにしても毎日パン屋で会っていたのか…知らなかった。こっちは本の内容が気になって仕方ないし、気付いたとしても高校生の団体という認識しかなかったもんだから。
それにしても私のどこが良かったんだろう。本のことは何時間でも読んだり反芻したり妄想したりできるけど、その分自分を磨くってことをしてない。親には「大学生になったんだから、もうちょっとお洒落したら?」なんて言われるくらい。人前に出るのに最低限の顔と服装だと思う。このくらいの年の男の子が年上に憧れるっていうのは分からないでもないけど、その対象が私っていうのは正直うーんと言わざるをえない。
勇気を出してくれたのに申し訳ないが断ろう、という結論に達しそうになった時、彼からある提案が。
「俺のこと今日初めて知ったのは分かってます!だからまず三カ月だけでいいのでお願いします!」
そして頭と膝がくっつくんじゃないかと思うくらい深々と頭を下げた彼に、ついに根負けしました…。というわけで、三か月のお試しとはいえ、私に初めての恋人ができた。
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「涼さん!」
今日も満面の笑顔を惜しげもなく晒しながら、私の元へ走ってくる哲君。私‐三谷涼子‐と彼‐坂井哲哉‐が「お付き合い」を始めてはや一カ月。すぐに私の活字中毒っぷりに愛想を尽かされ終わると思っていた彼との関係は、案外うまくいっていた。というか彼の距離の取り方が私に合っているというのか。
彼氏彼女になったら毎日メールやら電話やらしたり、放課後デートしたりと、面倒だなーなんて思っていたのが恥ずかしい。どうやら彼は私の本好きをしっかり分かっていてくれたようで、デートは図書館の休館日である月曜日が恒例となっていた。
それにしても哲君は可愛い。私よりも遥かに大きい彼だけど、いつもにこにこしているし、話していてもとても楽しい。読書の時間を削ってもいいと思えるくらい。…確実に絆されてるよね。
月曜日は部活動がない彼と駅で待ち合わせてのんびりと歩く。彼が話すのは学校での出来事や、家で飼っている犬の話。対して私はその日読んだ本の感想とか。色気のない話題で申し訳ないけど、それしか出ない…。それでも楽しそうに聞いてくれるから、これはこれでいいのかな?
この一ヶ月自分でもいろいろ考えてみた。まず私の方が二歳年上というのはもう変えられないことだから仕方がない。だったらせめて外見だけでもなんとかならないかなーと。
…お洒落の難しさを知っただけだった。
一応大学生向けな雑誌を買ってはみたんだけど、ほとんど活用できなかった…。あれだね、なぜモデルは毛穴がないんだ。私なんて一生懸命メイクしたって大して変わらないし、唯一顔色が多少良く見える程度?新しい服を買いに行って、雑誌に載っていたようなのを試着しても微妙。自分の中途半端な身長が恨めしい…。結果、今までより多少女の子らしい服(色が明るかったり小花柄だったり、前に比べればまともと言える)を着るようにはなったけど、綺麗なお姉さんには程遠かった。
他の連載が行き詰まったので新しく始めてしまいました。
そんなに長くしない予定。