旅立ちの日 夜
「とりあえず、自己紹介しませんか?」
狼牙がそう言ったのは、村を出て野営をしている時だった。
「必要か?」
「どれ位の付き合いになるかも分かりませんし、お互い何ができるのか知っておいた方が良いですから」
寝ている麟を撫でながらそう言う。
「そうだな、幾らかは知っていた方が良いか」
「えぇ、それでは改めまして。大神 狼牙 と言います。
ロキさんの元弟子です。
年は、十六で同い年になりますね」
と和やかに笑いかけてくる。
「出身は、山にある村でして涼しいところなんです」
「そうか、ところでその子は」
「あぁ、麟はロキさんが連れていた孤児で私の家で引き取ったんです。
人見知りなのですが、私には懐いてまして着いてきてしまいまして……。
旅は危険なので出雲にある叔母の家に預ける事にしてます」
少し寂しさを滲ませる表情をして言う。
「ロキさんは、離れない方が良いと言われましたがコレばっかりは聞けません」
「そうだな、師匠も無茶を言う」
「えぇ、本当に」
二人ため息を吐く。
「ところで、出来る事は何があるんだ」
「あぁ、忘れてました。
私は、毛無しへの変身魔法と念動力を少しだけ。
武器は、双剣とジャマダハルです。
そちらは?」
「俺は、同じく毛無しへの変身魔法と火が吹ける位だ。
得物は、大鎌だな。
話すことはもう無いか?」
狼牙に聞く。
「えぇ、今のところ」
「そうか、なら寝ていろ。
見張りは俺がやる」
「それでは、お言葉に甘えて」
簡易の天幕に麟を抱えて入って行く狼牙を見送る。
月夜に一人、焚き火の音を聴きながら佇む。
出雲には、およそ一週間で着けるだろう。
仇討ちの旅、その旅立ちの日はこうして終わった。
次は、裏話です。