待ち人 狼牙
時は、竜牙が屋形船を去った頃に戻る。
酒を呑み切り、別の船へと去っていった。龍を讃えながら宴会を続けていると……。
「うーん……あれ、龍牙さんは何方に……?」
狼牙が起きた。
目が覚めると、龍牙さんが近くにいなかった。
周りには、見知っている人ばかり居るが……彼が居無いだけで何だか寂しくなる。
ついこの間まで、妾はこの人達の下に帰りたかったのに……。
思えば一年前の出来事から、この人達を本当の家族とは思え無くなったのかもしれない。
価値観が違う。
妾は人間で、この人達は神だ。
妾には肉体があって、老いがある。
神には肉体がなくて、老いもない。
だから、この人達は妾を天使にしようとした。
一年前、滅びる世界に送りそこで妾が死んで、霊魂になった所で、神の世界に定住させようとした。
しかし、妾は死にたく無かった。
生き返る、死ぬことは無い。
この人達にとってはそれで良いのだろう。
しかし、妾には受け入れ難いことだった。
裏切られた。
私はその思いを思考の隅に押しやって彼らとの関係を保つことが出来たが。
妾には出来そうも無い。
妾には、帰るべき場所が無いのだ。
だから、妾は求めるのだ。
妾の為の居場所を、妾を妾として認めてくれる居場所を。
その為にも、彼が必要だ。
刷り込みに近い物かもしれないが、妾は彼なら、妾を受け入れてくれると思った。
妾だけを、妾だけを見てくれる。
そんな彼が必要だ。
「あぁ、早く来て……」
ここは寒い。