表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の詩  作者: lyuvan
29/30

酒宴


湖の水面に降り立つと、酒の匂いがした。

余りの濃厚さに、酒に弱い奴ならそれだけで酔いそうだ。

背中に居る二人は大丈夫だろうか?

気になり、声をかける。

「二人とも、大丈夫か?」

「私は大丈夫。だけど、お母さんはダメみたい」

空中に水鏡を作り確認すると、狼牙は目を回していた。

多分、鼻が良いせいだろう。

狼牙のことを考えれば、酒の匂いから逃れるべきなんだろうが……。

「オーイ、三人共、早く来い」

既に屋形船が己達を包囲している。

上空にも何故か船が浮かんでいるため、逃げられない。

「行くしかないのか……」

「そうみたい」

とりあえず、麟が居た屋形船に行くことにした。

屋形船に水面を歩いて接近し、背中から屋形船へ、水を斜面状にして凍らせる。

そこに麟が狼牙を滑らせた後、麟もすべり降りる。

それを確認してから、己も人型になり、屋形船に降りた。

屋形船に降りた己達を、麟を連れて来てくれた村人が迎えてくれた。

「やっと来たか、宴は始まってるぞ。

好きなだけ、食べて、呑んで、吐いて、出していけ」

村人はそう言って、己達を宴をしている座敷に押し込んだ。

座敷には、酒の匂いがこれでもかと言う程充満しており、酒にかなり強く無くてはマトモに立って居られない。

事実、麟は千鳥足になり、狼牙に至っては痙攣し始めた。

それなのに……。

「なんで、誰も倒れてないんだ」

村人は誰一人として倒れておらず。

ドンチャン騒ぎをしながら飲み続けている。

そこら中にコロガル瓶から一本手に取り、嗅いでみる。

瓶の中は実に美味そうな匂いと強い酒の匂いで、嗅ぐと頭の中にパチパチと火花が散る錯覚をした。

「こんな物を呑んでいるのかぁ」

何だか少し、呑みたくなる。

少しだけ、少しだけなら……。

そう思い、ふらりと宴会の喧騒に近づき長机に置かれた杯を一つ取り。

そこらにある瓶を一つ取り。

注いだ。

杯に酒がトクトクと、音を立てて入って行く。

飛び跳ねた水滴が鼻に着き、酒の匂いを己に伝える。

甘くそれでいて爽やかな匂いは、まるで熟れた果実のようだ。

そして、満杯になった杯を見て思う。

この酒は間違いなく美味い!

杯の中身を零さないように、慎重に口運び傾ける。

酒は舌に当たった途端にパチリッと弾け、その匂いと味を口内に広げた。

「!!」

一瞬にして広がるソレは、己を驚かせるには充分だった。

頭の中に火花が散り、雲の上にでもいるような酩酊を与えられる。

これなら、幾らでも呑める。

そう思ったのは、既に二杯目を煽り三杯目を注いでいる時だった。

つまり、ちっとも少しじゃなかった訳だ。

己の酒宴は長引くに長引いた。

瓶を空けると他の瓶へと呑み続けた。

時には、婿殿、と注がれて呑み。

時には、勝負、と挑まれ呑み。

時には、愚痴、と絡まれて呑み。

屋形船から遂に酒が無くなると、別の屋形船に乗り込んで、ちゃかり呑み。

それも尽きたから、今度は湖の水に森の果物と酒の精を加えて呑み干した。

とうとう、呑む物が尽きてしまった……。

感慨に目を閉じる。そしてやっと思い出した。

「しまった……二人のことを忘れてた」

頭に手をやり、空を仰ぎ見る。

空には、所々に穴の空いた黒い幕が張られていた。

「いや、これは夜だ」

認めたくない現実である。

この後のことが非常に不安だが、全て酒が美味いのがいけないのだ。

そんなことを考えていると、視界の隅に地面に突き刺さる槍が目に入った。

「これも何かの縁だ。お前も付き合え」

とりあえず回収した。

さて、と振り返り後ろを見る。

目に入るのは空中に浮く屋形船。

その一つには二人も居る。

そう……。

「あの禍々しい空気を発している船に……」

発信原は狼牙に違いない。

いや、あの空気を醸し出すことが出来る存在はアイツ一人で居て欲しい。

ため息を一つ吐き、その船に向かう。

間違いなく、説教はされるだろう。

「あぁ、全く、厭な話だ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ