一週間の道のり 最終日 朝
大変、このシリアス、息してない。
森を抜けると、其処は神の村だった。
立ち並ぶ巨大な建物、その中央には赤い塔。
「何なのだ、これは! どうすればいいのだ!?」
「どうしたの」
麟の問いかけに正気に戻る。
「イヤ、ナゼカ、イワナイト、ナラヌ、キガシテナ」
頭の中に赤い竜と騎士の姿が浮かんだような気がした。
「キニスルナ」
「そう」
麟は納得して村を見ている。
俺もこの事は考えないようにしよう。
村の近くまで飛び、少し開けた所に降りる。
そこで変化して、竜人に戻る。
「さて、出雲は目の前なんだが……」
言葉を途切り身構える。
「どうしたの」
麟が問いかけてくる。
「何かが近づいてきている」
その応えに、麟も身構えた。
辺りを警戒する。
村の方から、物音が聞こえる。
その音は段々と近づいてきている。
来るか。
一体、何が来るのか。
集中していると。
「ワァ!!」
「ヒャ!!」
後ろから耳元で叫ばれ、思わず飛び上がる。
こんな事をする奴は一人しかいない。
「何をなさるのです!しよ……って、お前は誰だ?」
師匠と思ったら、違う人だった。
「ヘロォー、君が竜牙君?あっ、別に答えなくていいよぉ。麟ちゃんいるから間違いなさそうだし」
一息でそいつはこれだけの事を言い、辺りを見回す。
「あ~、やっぱウルフ君いないなぁ。
となると、バッドエンドフラグ建っちゃった? 」
一体こいつは何なのだろうか?
今も訳の分からない言葉を矢継ぎ早に言い続けている。
「いい加減にしろ、さっきから訳の分からん事をペラペラと喋りおって。 何様のつもりだ」
ジロリと睨むがこいつは気にも止めずに言い放つ。
「何様って、神様に決まってんじゃん」
お前、何言ってんの?と言わんばかりの視線で俺を見てくる。
「まぁ、良いや。ようこそ、出雲へ。
君の事はロキ氏から聞いてるよ」
乾いた拍手を打ちながら、こいつは言った。
「君は、天照大神に会いに来たんだよね。 一応、この村の中央にある塔の展望台に居るから行って来たら。
麟ちゃんは、僕に任せて良いよ」
さっさと行けと、手まで振りおる。
それを見て、堪忍袋の緒が切れた。
「貴様、本当に何様のつもり何だ!」
「えぇ~、逆ギレェ。無いわぁ、それ人に物聞く態度じゃ無いわぁ」
ひょうきんなこいつの態度に嫌気がさし、掴みかかろうとするが。
「ダメ」
麟が俺を羽交い締めにした。
「離すんだ麟、こいつは一発……いや、死ぬまで殴らなければならん!」
「ワァオ、何と言う時間の無駄遣い。
僕、死なないからその作業終わらないよ。
それと、好い加減にしないと時間無くなっちゃうよ」
「好い加減にするのは、貴様の方だろうが!」
怒鳴りつけてやると、ワザとらしく震えて「怖ァ~い」とぬかしやがる。
「殴る、絶対殴る」
麟の拘束から抜けようと足掻く。
そんな俺にこいつは言う。
「僕が狼牙君を戻す方法を知っていても」
俺は足掻くのを辞めた。
その場に動く者はいなくなり、一陣の風が吹き抜けた。
「ちょっとした事なんだ。
僕達が神様で彼は人間だった。
それだけで、彼は心の隅に孤独を感じていた。
どれ程、愛されても。
何か違う物を求めていた。
一度、僕達と同じ存在にする計画もあったんだけど。
彼自身がちょっとした奇跡と偶然で無しにした」
こいつは一息吐く。
「今回の騒動、その原因はこの月の石だ」
掌から月の石を作りだした。
「君の持っているそれは、ロキ叔父の作った贋作だ。
僕の物より、機能が変わっている。
原因は、僕の月の石にある機能。
僕の教義にある同性愛の禁止を行う装置……性転換の執行だ」
手を置いた頭を横に振る。
「始めはたんなる、イタズラ機能、お茶目装置のつもりだったんだ。
日の目なんて見る訳ないと思ってた。
なのに、まさかあのウルフ君が使うだなんて!
うぅ、一体君はウルフ君に何をしたんだ?
まさか、襲ったんじゃないだろうな?」
「俺に男色の気は無い」
えぇい、怪訝な顔で見るんじゃない。
「どうせ後で祭りだからな、覚悟しとけよ。
兎も角、狼牙を治す道具も一応あるのだが……」
そこで、言い淀む。
「じれったい、早く言え」
「お前、後で出雲タワーに串刺してやる。
それと、道具なんだが……コレ任意作動なんだ」
その一言で空気が凍りついた。
任意作動、つまり狼牙自身にそれを使うか使わないかを決める権限がある。
「いやぁ~、まさかここまで相性が良いとは……。
まぁ、一番月の石との相性も良かったしあり得なくは無いか。
ハッハッハッ、予想ガイです。何てな……本当にどうしよう」
頭を抱えてしゃがみ込んでいるそいつに言う。
「打つ手は?」
「君が祭りで生き残れないくらい無いよ」
「祭りの内容は」
「君を殺すRPG」
良く分からないが、限りなく低いことだけは確かなようだ。
「参加者は、建御名方神にインドラにエンキドゥ等の戦神や破壊神を始めとし、モリガンやカーリー、セクメト等の女傑系となっております。
コメントを読んでみましょう。
ヨクモ、イトシゴヲ!!
うっわ、全部これかよ。
ハイ、名簿」
分厚い紙の束を渡される。
随分な重さだ。
「……愛されてるじゃないか」
この重さは彼らの愛と同じなのだろう。
「君の処刑人ばかりだけどね」
「それを言うな」
一言欄には全て、禍々しい文字で同じ事が書いてある。
本当にこんな事になったのを許せないのだろう。
「何だか、娘を嫁に出す気分になったとさ」
にへらっと笑って言われる。
それだけで何だか、憎めない奴だ。
「そうか、なら挨拶に行かないとな」
二人に背を向ける。
そこに面白がるような声が聞こえた。
「何て言うんだい」
「もちろん、娘さんを俺にください。てな」
そう言って俺は歩きだす。
神の村、そこで俺はどんな目に会うのだろか。
竜牙が見えなくなったころ、麟が呟く。
「まだ、プロポーズしてない」
「ありゃ、外堀からになっちまったか」
台無しである。