一週間の道のり 五日目 夜
夜空には星が煌き、夜道を月が照らす。
けれども、森の中にその光が入ることは無く、深い闇が広がるばかり。
そんな闇の中を歩く赤い影、暗い赤色の鱗を持つ竜人、竜牙だ。
日中の戦いによる傷はある程度癒えたのか、ふらつくこともない。
ボロボロになった衣服の代わりに今は、月の石で作った衣服を着ている。
もちろん、ただの衣服ではない。
鎧の強靭さと羽の軽さを想像して作られている。
始めからこうしておけば良かった。と思わずにはいられない出来であった。
「……二人は無事だろうか」
追手は片付けたが、もしかしたらまだ敵はいるかもしれない。
だとしたら、夜が一番危ない。
暗がりを警戒しながらも、歩きつづける。
土を踏む音がいつもより大きく感じる。
草木のざわめきに振り向きながらも、前に、前に。
幾らの時間が過ぎただろうか、月の見えない空は語らない。
どれ程の距離を歩いただろうか、暗闇に隠れた道のりは語らない。
自分が存外臆病だと知り、縋るものを欲した。
あぁ、早く行かないと……。
歩を進める。
その時、暗がりから何かが飛来した。
衣服に当たり、鉄を弾く音が鳴る。
服越しの感触からそれが突起物であることも……。
「誰だ!」
それに対する答えは、更なる攻撃。
風を切る音から離れるように跳んで避ける。
通り過ぎる音が聞こえたが、その正体はわからない。
しかし、攻撃は止まない。
一撃ずつが二撃に、二撃が三撃に、まるで試すように増えていく。
次第に避けるのが難しくなり、何時しか剣を両手に弾いていた。
一瞬、ドームを作ることも考えたが先の戦いを思い出しやめた。
槍ならいけるだろうか?
地面に刀を突きたて壁に変えることで攻撃を凌ぐ、その間に懐から槍を取り出し、
「行け!」
投げた。
槍は敵のいるであろう方角に進み、森の中へ……。
暗い森を炎の槍が照らす。
そして、敵の姿を目視した。
「見つけたぞ!」
目以外を黒服に包んだ毛無し。それが敵の正体だった。
敵は、おそらく投げつけるための苦無で槍を弾き、肉薄してきた。
「なっ!」
一瞬で距離を詰められた。
敵は苦無を凪ぐ、狙いは首だ。
竜牙は上半身を反らしてそれを避け、地面を蹴り後転。
敵の顎先を蹴り上げる。
仕留めたか?
着地をして前をみる。
敵は……。
「いない、どこにいった」
一瞬で消えた。
周りを見回すも、また暗い森ばかり。
手元に戻った槍を放るが、落ちるだけ。
退いたか?
槍を懐に戻し。月の石を握る。
気を少し緩めると、目の前に黒い火が飛び込んできた。
「なっ」
竜である竜牙に火は効かないだが、これは避けなくてはいけないと感じた。
「ウオォォォ!」
横に転がり避ける。
しかし、火は方向を変えてこちらに来る。
「追尾だとォ!」
同じ能力を持つのは俺の槍、となるとこれは槍なのかもしれない。
モノは試しと青竜刀を作り切りつけると、金属音が鳴り、火を弾いた。
「やはり、槍か」
槍は地面に落ちる。
途端、後ろから拍手が聞こえてくる。
振り向くと敵がいた。
「よくぞ、よくぞ、生き残れました。
けれども、これは序の口、宵の口、まだまだ続けたいところ、で、す、が、本日はここまで。 では、また明日」
「待てっ!」
しかし、敵を逃がしてしまった。
だが、声の質からおそらく女ということは分かった。
肉弾戦に持ち込めば勝てるかもしれない。
「いや、勝つしかない」
不退転の決意を胸に、暗い森を歩む。
敵の言うことを信頼することはできない。
おそらく、夜通しになるだろう。
出雲まであと少し、旅はまだ始まったばかりだ。