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竜の詩  作者: lyuvan
18/30

一週間の道のり 五日目

日の光すら阻む森の中、走る二つの影

一つは逃げるように、もう一つはそれを追うように。

「まだついてくるか」

逃げる影、竜牙は言う。

「……」

追ってくるのは覆面をした黒い男。

すでに一時間は追われている。

普通の毛無しなら、竜人を十分も追うことは出来ない。

「とにかく、広いところに……」

これ以上追われるのは不味い、そう思い迎え撃つことを決めた矢先、竜牙の目に光が入る。

「しめた、ここなら」

森の中にできた開けた場所、背の低い草ばかりの草原で足を止めた。

月の石を手に取り、二つの青竜刀に変化させ構える。

右半身を前に出して腰を落とす。

それだけで、鱗に覆われた身体は城壁を思わせた。

しかし……肝心の敵が現れない。

引いたのか?

そう思い、少し気を抜いた瞬間。

足元から槍が生えてきた。

「なっ‼」

後ろに跳び間一髪で避ける。

背後なら鱗があるが腹部にはそれが無い。

これは、厄介だな。

追われている時には使われなかったことを考えると、目標の視認または、生やす地点を固定する必要があるのだろう。

森に入るべきか。

どちらにせよ、開けた場所は不利になる。

竜牙は、後ろを向き森に向かって走るが……。

「なぜ、進まない」

走れども走れども、森に近くことはできない。

この草原自体がトラップだったのか。

観察してみると、草原は円く広がっている。

円周の地面には、森側だけ閉じていない六芒星が描かれている。

「チッ、誘い込みの魔術か」

異教の神すら封じるこの魔術、出るには術者の許可か排除が必要だ。

しかし、術者が見当たらない今、逃げることはできない。

となると、竜の息による焼き討ちなら勝機があるかもしれない。

「やってみるか」

走りながら跳び上がる、今回は竜人なので、身体の変化は直ぐに終った。

何せ、首が伸びて身体がデカくなるだけなのだから。

空中変身をすませた竜牙は、羽撃き空高くに浮かんだ。

そして、辺り一面に可燃性の液を吹きかけて、「ショウドトカセ」 歯を合わせた。

カチッという音と共に口から火花が散る。それは液体に引火して爆発を起こした。

空気が揺れる音と共に、地面が吹き飛び土埃が舞う。

そして、土埃は竜牙すら隠した。

「コレナラバ、ヤツモ、タダデハ、スムマイ」

排除を確信できる規模の爆発だった。

だから、竜牙は油断した。

「ナ、ナニ⁉」

背後から翼幕を破り抜けていく槍、バランスを崩し地面へと落下していく竜牙に次々と槍が襲いかかる。

「ソンナ、ジメンカラシカ、ハエヌハズ」

あり得ない出来事に混乱する。

だから、地面が近いていても身動きを取ることを忘れた。

「グエッ⁉」

受け身一つ取れず地面に激突、そして、そこに槍が降り注ぐ。

「ア、グッ、ゲッ、ガッ」

落下することで威力を増した槍は鱗すら突き抜けて、竜牙を地面に縫い付けた。

ゴォォォォオオオオン

耐えきれず咆哮、幸い致命傷は無いが決して浅い傷では無い。

槍の雨が止む頃には、針山になってしまう。

月の石でドームを展開し、一時凌ぐ。

流石の槍も此処には届かないようだ。

安心した、竜牙は少し休むことにした。

……降り注ぐ槍をドームが弾く音、その音が急に止んだ。

諦めたのだろうか?

情けない期待に泣きたくなるが、命は惜しい、なにせ本懐を遂げてないのだから。

しかし、この期待は裏切られる。

グサッ。

「エッ」

何かが刺さる音がした。

見てみると、後ろ脚に『穂先が上を向いた槍』が刺さっている。

「アッ」

刺された、痛い、安全じゃない、危険、此処には、危険、安全ない、危険、逃げる、危険、動けない、危険、死ぬ、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険‼‼

「イ、ヤ、ダ」

密閉されたドームの中、竜牙は液体を狂ったように吐き出し……。

「キエチャエ」

カチッと歯を合わせた。

爆発。

その爆風は、竜牙に刺さっている槍を吹き飛ばし、地面から解放した。

しかし、負った傷は深い。

竜の巨体では不利になると判断し、竜人に戻る。

穴だらけの身体、それを隠す衣服も無く、血は垂れ流し。

当てずっぽうで生えてくる槍に怯えながら、ドームの端まで辿り着き、座り込む。

「く、そぉ、な、んて、情け、な、い」

愚痴すら満足に吐けない。

何か打開策はないだろうか?

考えてみる。

考えろ、考えるんだ。

「まぁ、持っていて下さいな。きっと何時か役に立ちますから」

「あっ」

そうだ、槍があった。

懐から、黒い円柱状の石を取り出す。

「使い方は、月の石と同じと言っていたな」

血を流し過ぎたのか、頭がはっきりとしない。

考えを口にださないと忘れてしまいそうだ。

「気を流し込むように、石に集中して……よし」

手の内からは、石が消え、その代わりに槍があった。

槍の穂先は黒い炎で、できていた。

だが、使い方は分からない。

「ダメじゃないか」

ハハッ、どうせならコイツが勝手にアイツを倒せばいいのに……。

投げやりにそう考えた。

途端、槍が手元を抜けだした。

「アッ、おい、どこにいくんだ」

槍は、ドームの中央に飛び、そこで回ると、ある一点を刺して止まった。

「……なんだ、まさか本当に行くのか?」

面白半分に、その方向の壁を失くしてみると。

槍は、ドームから勢いよくでていった。

「嘘だろ」

数分後、地面から生えてくる槍が止まった。

その数分後には、槍が手元に帰ってきた。

「ハハッ、呆気ないな」

拍子抜けな決着である。

ドームを崩し、月の石を回収して森に入る。

追手を撒くために別れた狼牙に礼を言わなければ。

「君のおかげで生き残れた」



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