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竜の詩  作者: lyuvan
17/30

一週間の道のり 四日目 昼 狼牙語り


青空と太陽と白い雲、周りには背の低い日本家屋が目に入る。

村の雰囲気を感じるに人間の関係も良好そうだ。

こちらの日本だけあって、帯刀している者や髷を結っている者もいる。

住んでいる獣人は、猫や犬に鹿や狐等。しかし、この国にいる獣人は日本に生息している動物だけだと思われる。

けれども、毛無ししかいない世界出身の麟には新鮮な風景だろう。

そう思い、手を繋いでいる麟を見る。

「さて、こちらに来てから二人で村に出るのは初めてですね」

「うん」

「ふふ、折角ですから存分に楽しみましょうね」

感情を出すのが苦手な麟の表情は乏しい。

けれども、妾には村を楽しみにしているように思えた。

可愛いらしい娘だ。

頭を撫でてしまう。麟は目を細める、嬉しいようだ。

「……お母さん」

恥ずかしさを含む声で言う。

妾はそれが嬉しくて麟を抱きしめた。

「えぇ、妾はお母さんですよ」

あぁ、本当に可愛いらしい。何時まででも抱きしめていられそう。

けど、ここは往来ほどほどにしなければいけない。

抱擁から麟を解放し、手を繋いで歩く。

麟は名残惜しそうだったが……我慢してもらうしかない。

二人ぶらりと、村を歩く。

本屋を覗き、武器屋を冷やかし、茶店でお茶と団子をいただき、そして……。

公園に着いた。

遊具なんて物は無く、木に囲まれた大きな広場という印象を持つの公園。

それでも子供達は、追いかけっこや、かくれんぼ、かごめかごめに、竹とんぼや凧を飛ばしたり、楽しそうに遊んでいる。

そして、それを見ている両親も……。

「麟」

妾が呼ぶとこちらを向いた。

「素敵でしょ」

妾の言葉に、麟は楽しげに笑う親子を見て、頷いた。

「麟……お父さん欲しくありませんか?」

それに麟は、頷いた。

「竜牙さんなんてどうでしょう?」

これには、麟は少し首を傾げた。

「あら、彼と決めるにはまだ早いと思いますか?

妾は、彼ならきっと、妾のこと、そして貴女のことも理解してくれると思ったのですが」

「……わからない」

麟の言葉、それを妾は残念だと感じた。

「彼も独りなんですよ」

それに麟は、首を横に振る。

「今は彼自身が望んでる」

そうだ。今は、彼がそれを望んでいる。復讐が済むまで幸せになれないと。幸せになってはいけないと決めつけている。

「では、早く終わらせましょう」

「うん」

そのためにも……。

「貴方は、生け捕りますよ」

広場にいる毛無しの男に告げる。

「……気づいたか」

「宿からずっとつけられていれば嫌でも気づきます」

刀を携え和服を着た男がつけている事には気づいていた。

問題なのは……。

「貴方が、宣教師を始末した方ですね」

迅速に生け捕れるか。

「当たりさ」

男が懐に入り込み切りつけてくる。

後ろに跳んでそれを避ける。

刀は、目の前を二度凪いだ。

これは、

「居合ですか」

「そのとおり」

既に刀は鞘に収まっている。

二度の凪ぎ、それは切りつけと戻しによるもの。

高速で繰り出されるそれは、斬られたことにも気づけないかもしれない。

「ですが、それだけなら楽勝です」

居合なら、その範囲にはいらなければいい。

そして、こちらには魔法がある。

「……試すかね」

男は焦る事無く構える。

身体から余分な力を抜きしかし、集中は絶やさない理想的な状態。

かなりの使い手である。

たが、妾より格下だ。

妾は、広場の草を操り男を縛ることにした。

地中の根を男の足元に移動させ、縛り上げた。

「無駄だな」

その言葉と同時に、男を縛り上げていた根が拘束を解き地中に戻っていった。

「なるほど、魔法は効かないみたいですね」

「驚かないのだな」

「別に、自分の弱点に対策を立てただけでしょう」

驚く意味などありはしない。

男が研鑽を積む者なだけなのだから。

「ほぅ、ではどうする」

戦いを楽しんでいるのだろう、その声は期待に富んでいた。

「別に、ただ捕まえるだけです」

地面を足で強く踏みつける。

途端、地面が盛り上がり男をドーム状に囲んだ。

「密閉空間ですから、気絶するまで閉じ込めさせていただきます」

まあ、聞こえないでしょうけど。

「面白いな、しかし足りん」

中から男の声が聞こえ、ドームが崩れる。

「拙者を閉ざすにはな」

そこには、刀ではなく槍を持った男がいた。

「貴方の得物は、その刀では?」

男の腰には刀がある。

しかし、槍はどこから……。

「流石にわからぬか」

口角を上げて男が笑う。

「それが魔法を無効にしてること以外はですが、それだけわかれば十分。

詳しくは、捕まえてから聞きますよ」

敵の得物は刀と槍。

そして、槍には魔法を無効にする能力がある。

だが、刀はただの刀に過ぎない。

戦術は決まった。

男に向かって走る。

男は、槍を放り刀に手をかける。

圏内だ。

首を刈る白刃、妾はそれを念動魔法で止めた。

「なん……だと」

驚く男その顔を……、

「死なないでくださいな」

殴り抜ける。

顔が潰れる音を立てて吹き飛ぶ。

地面を三、四回転がって止まる。

男は、動かなくなった。

「こうなるから、魔法で片付けたかったんですけどね」

毛無しにしては速い、しかし獣人にとっては視認できる速さでしかない。

「スペック低いと大変ですね」

とりあえず、男には月の石で作った手錠をかけて放置。

それよりも槍が気になる。

「あの槍、もしかしたら月の石と似ているかもしれませんから」

落ちたと思われる場所に行くと、槍の姿は無く代わりに黒い円柱状の石があった。

それを握り、身体と繋がる様にイメージすると……。

「やっぱり」

男の槍とは違い、先端から火が出ている槍が現れた。

「おそらく、その人物に合った性質に変化するのでしょうか?」

身体から離すと槍は黒い石に戻った。

試しに麟に持たせてみると、雷の槍と化した。

「どうやら、正解みたいですね」

槍を返して貰い、懐にしまう。

「さて、後は侍から話を聞くだけ」

気絶している男の腹を蹴飛ばす。

男は起きない。

「麟、起こしてやりなさい」

それを聞いた麟は、無言で男に駆け寄り。電気を流した。

途端に、男の身体は痙攣により跳ね上がる。

見ると、痛みで顔を顰めている。

「起きたようですね。なら、知っていることを全て吐きなさい」

「誰が、答える、ガフッ」

殴る。

「これから、三秒毎に貴方を殴ります。 もちろん、喋るまで」

「屈する、もの、ガフッ」

殴る。

「今に、神罰が、ガフッ」

殴る。

「……、……、……」

殴る。しかし反応が無い。

気絶したようだ。

「麟」

それだけで、麟は男に電気を流す。

「ヒュゥ、ハァハァ、ガフッ」

殴る。

「わかった、喋るから、やめてくれ」

殴る寸前で止めた。

「俺は、亜人との諍いで島流しに合ったんだ。それで、大陸の教会に助けられて、教えに感化されたんだ。

何か役に立ちたいと思った矢先、倭に宣教するって聞いた。それで、俺はそれに着いて来たんだ」

「それで」

「それで、そん時頼まれたんだ」

「何を」

「教祖様直々に……」

「裏切り者の抹殺をね」

声が聞こえた、それと同時に男から槍が生えた。

その場から後ろに跳び周りを見渡すが麟と串刺しになった男しかいない。

「姿を現しなさい」

最早、公園には誰もいない。

日は、すでに落ちかけている。

このまま夜が来れば、不味いことになる。

「麟、逃げますよ」

麟の手をとり宿屋へと走る。

途中、竜牙さんにお土産を買っていないことを思い出したが、それは、槍を上げることにした。

そして、座敷の中で埋まっていた竜牙を見つけた。


「というわけで、明日からは、何かから狙われることになりそうです」

肩を竦めて言ってみる。

「そんな、ちょっとした事みたいに言うな。結構な大事だから」

竜牙さんは呆れたようだ。

しかし、妾にはそんな事よりもっと重要な事がある。

「竜牙さん」

「なんだ」

妾の真剣な声に彼は居ずまいを正す。

「教団が無くなれば、妾たちに付き合ってくださるのですよね?」

「付き合うとは……ああ、家族ごっこのことか」

家族ごっこ……。

その言葉に少し悲しくなった。

所詮、遊びなのだろうか。

「構わない、あれは俺も少しばかり嬉しいかったからな」

「えっ」

今、彼はなんと言ったのでしょう。

嬉しかった。

妾は思わず驚きの声を上げてしまった。

「なんだ、違うのか」

「そ、そんなことありません。それです、家族ごっこです」

ああ、彼も嬉しく思ってくれていた。

今は、それだけでも構わない。

「妾と麟の気が済むまで付き合ってもらいますからね」

妾は自身の頬を緩ませて言った。

「承知した。明日は早い、それに敵もいる。もう眠ろう」

「はい」

座敷に三枚の布団を敷く、麟を間に挟んで川の字を作り。

今は嘘だけど。

「おやすみなさい、麟、竜牙さん」

きっと何時か

「おやすみ」

本当になる

「おやすみ」

幸せな夢を……。


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