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杜人騒乱……至る雉『根と穴の先の解』




雉鳴女は真鶸が報告から帰るのを見送った後、

黄鶲へ無茶を注意する手紙と、もう一通感謝の手紙をしたためた。


雉もまた季節を問わず侵入を繰り返していたので人の事をとやかくは言えなかったが

怪我までしてくれたのだ、叱るべき時は叱らなければ、といつもより気合と友情を込めて。


心配無用と言われても付き合いの長い友人が床に伏せるとなれば気にせずにいられようか。


それぞれが紙三枚ほどの文量に膨らんでようやく書き終えた。


そして、伊勢へ任務がある日雀へ手紙を頼もうかと思いながら、

彼女が手に入れた値千金の情報を基に思考を組み立てていく。







不思議な近似系が杜人神と御左口様……洩矢神の間に見つかった。

これは大きな鍵だ。


『根』と『穴』の関係からも何か解けそうな気がする。


杜人神は根との半同化という手段を選んでいるのだ。

もしも、だが『根』と『穴』の先にある物が同じであるのならば……


御左口様を象る力を杜人の地に降ろそうとしている?

同化を考えると御左口様に成り代わろうという線もある。


しかし、そうだとしたら益々目的が分からない。


強大過ぎる力を得る事になるだろうが、杜人神に拡張的野心は無い。

元々が土地に縛られているし、内々に篭りがちな気質だというのは近くでずっと見てきた。

最近は私達の為に外の土地へ興味を示していたが、力との関連が薄い。


やはり危険を冒して力を手に入れる必要性が生まれるほど、強大な『何か』に抗するため?


これも微妙にしっくりはこないのだ。

それならば大和の神々に任せておけばそれで事足りるはず。

天照大御神との繋がりは作ってあるのだし、自陣を削らないようそちらから当たって良い。

なのにそんな形跡が無いとなると杜人神を中心に起こる……のだろうか。


う、目的よりも先に御左口様と洩矢神を解明しきった方が早いかもしれない。

こちらは着実に正体に近づいているのだ、急がば回れ、堅実に攻めていくか。




雉鳴女の思考がグルグルと渦を巻きながら回転していく。

あれではない、これでもないと、ブツブツ呟きながら。


確かに何か掴めそうな所まで来ている。




それから一日が経ち、二日が経ち、三日が経った。




鶫や真鶸にも時間が合う時は集まってもらい、

それぞれで知恵を出しあいながら唸っているが微妙に届かない。


あと一つ鍵になるものが見つかれば。


先日伊勢より届いた黄鶲からの返信に励まされながら、

作業机の前で思考に没頭する。




「黄鶲の言うように御左口様は幻……だがミシャグジ型の神霊は繋がりを持って……。

 そういう意味でも根と穴が繋がっている可能性は高そうだけれど、……うん?


 そもそも、何をもってしてミシャグジ型は繋がっている?

 やっぱり御左口の名前……そこから集合知、になってしまうのでしょうか。

 ……いや、生まれ自体は自然物、畏れを集めた物、なのに御左口に集まるのは理由が要る。

 となると共通している条件が樹木から鼠、果ては石ころにまで存在してなくてはならない。


 う~ん、あぁ、駄目ね、

 もう一回紙に書き出して整理しないと混乱してきているわ」




白紙と関連しそうな原始神霊の資料を倉庫から取ってきた雉鳴女は、

この日も時間の限りなく、虚空と睨めっこを続けた。







早起きな鳥達の囀りに、雉鳴女は手元から障子の先を見やる。


白み始めた空が日付の変更を告げていた。


本日はこれまでか、と机に広げた書物を片付けていると

一冊の本からハラリと一枚の紙が滑り出てきた。




それは絵図。


杜人神が描いた森戸家門外不出の情報兵器『日本図』の写し。




こんな危ない物を適当な資料に挟んだ部下が居た事に肝を冷やした。


組織の長は大変である。


閲覧履歴から誰かを調べ、それなりに処罰しなくてはいけない。

こんな真似をして森戸家を潰す気なのかと説教せねば。


心情的にも時間的にもやりたくは無いがしょうがないのだ。




重く溜め息を吐いて拾い上げる。


……瞬間、畳もうとする手は凍りついたように動かず、目が離せなくなった。




雉鳴女の中にあった情報の欠片達が組み合わさっていく。




今、この時だけは迂闊な部下を褒めてあげたい。


未だ杜人神の最終目的には辿り着けずにいたが、

『御左口』の正体について、幻だったとかそういう次元ではない、

もっと核心的な部分の真相がパッと目の前に現われたのが分かった。




「まさか御左口、ミシャグジとは……。

 蛇を象徴とするのも、そういう事なのですか。

 だとすれば根と穴の先に居る者、在るのは……」










そして、朝。




この日、慶長5年、西暦で言えば1600年の事。


世間は東西に分かれ天下を巡る戦いが全国を揺らしていたが

いよいよ持って日本戦国史上最大の大戦が関ヶ原で巻き起ころうとしていた。




決戦の秋、来る。



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