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まどろむ……神霊真理芯解ミシャグジの夢







秋も深まり、紅葉が美しい。




天高く馬肥ゆる秋……か。


自分で言っておいて何だが、響きと裏腹に血生臭い言葉だったりする。

大昔、いや、未来で使っていた時は気にしなかったが、実際、戦国ともなると生々しく感じる。

収穫を終え、農閑期に入る時期は人員も駆り立てやすい。

農民にとっては堪ったものではないが。


そういえば、各領内の財務官僚も秋、冬を終えた後は大変だろう。

土地が空いたり増えたり、耕作者が居なくなったりで年貢等の予測額が上下するだろうし。

つじつま合わせで隣家から追徴課税を取るといった悲惨な事例も報告されているから恐ろしい。


戸籍や課税帳簿を導入していない戦国大名はまだまだ多い。

数学的知識を持った人間が居ないと正確な検地が難しいので仕方ないと言えばそうなのだが、

理不尽な被害についての報告を見ると、どうにもやりきれない話である。


何にせよ早く戦乱が治まると良いなと、

縁側からまだ日の高い空を仰ぎながら今日を振り返った。







今日は山犬も雉もいなかったので、日課の参拝は周りを気にせず済んで楽だった。

特に滞っていた実験を幾つか消化できたのが大きい。


しかしまぁ、東国諏訪、洩矢神(もりやのかみ)もこれを御しているとなると大概な常識外れである。

私も洩矢神には御左口様で一杯喰わされたが、然もあらん。


……きっと私よりもスマートな方法を取っているのだろう。

毎回の如くボロボロになるようでは様になるまい。

外見を取り繕えても、まったく、中身は酷いものだ。


洩矢神が御左口様の『存在(まぼろし)』を創り上げた御技の一端でも手に出来れば

これほどまでに苦労しなくても済んだろうけれど、現実は中々ままならないもの。


ミシャグジというシステムの利用に気が付いた時から

それとなく東国の調査を名目にあちらの情報を集めたけれど、

結局、介入方法は自前で開発した力業になったからなぁ。


もっとも、流石に秘儀秘奥の類だろうから鳴女でも易々と手に入らないに決まっているが。


私が気付いていて、しかも調べている事自体、洩矢神に知られたら危険なのだ。

攻め込まれてもしょうがない代物だったりするから無い物は無いと割り切るしかない。 

直接訊いても返ってくるのは祟り神付き鉄環の雨がオチだし。


この日本において神霊を生み出す根源的な枠組み。

『ミシャグジ』を理解している事こそ洩矢神の特権なのだから。




帰り際、神が神に祈るのも何だと思ったが、

忙しいらしい雉鳴女が上手くいくように手を合わせてみた。


というのも、鳴女の中で問題が発生している『らしい』のだ。


雉鳴女からはここ百年試行しながら継続的に続いている組織改革。

配下祖霊組の組み込みや指示階層の刷新に関する騒動だと説明されているのだが、

長引いているようなのでと協力を申し出てみるも、


「杜人様は手を出さないでください。

 これは鳴女の血と肉になる大事な経験です」


こんな風に断られた。


鳴女は昔は一族だけだからこその結束と統率を持って組織されていた。

外部人員(とはいえど信仰区域の祖霊や妖怪だけだが)によって規模が膨らんだ事で

規律などに問題が発生するのは当然とも言える。


……が、百年経ってからどうこう問題が出るのは、どうなんだろう。

運用開始時にも似たような感じにはなったが最近までは安定してきたと言っていたような。

その辺りがちょっと腑に落ちず、妙に気に掛かる。




ひょっとすると……『鳴女の存続に関わる様な大事件』なのではなかろうか。




そういう心配を、私はこの所ずっとしている。

手伝わせてくれないものだから余計にだ。


雉鳴女の能力を信頼していないのではないし、むしろ高く買っている。


鳴女の運営や維持に関しては、私は極力触れない様にしてきた。

概要程度の組織図は把握しているが、細部となると今更触れようが無い。


長く歴史と伝統を繋いできた組織であったのと、雉鳴女個人への信頼からだ。

完璧とも言える組織運営を雉鳴女は行なってきた実績もあった。


その彼女、そして彼女が鍛え上げた鳴女衆が梃子摺るような『何か』とは?


彼女の頑迷なまでの優しさや義理堅さから迷惑を掛けまいとしているのではないだろうか。


もっと私を頼ってくれて良いし、甘えて欲しいのだが、

何分、彼女は心が非常に強い女性なので少しだけ寂しく思う。


現在進行形でしばらく顔を見ていないのもあって尚更、だ。


山犬に偵察を頼んだが、雉鳴女がやるべき事だから放っておけ、と相手にされない。

詳しく知っていそうなので問い詰めたのだが『心配すらいらん』そうだ。

それは些か酷くないか山犬よ、せめて心配するくらいはさせてくれ。










うだうだと思考を回転させていたら、

とっくに日は沈んで辺りは真っ暗になっていた。




どうやら、考えながら眠っていたらしい。

いつの間にか仰向けとなっていた私は、天頂の月を正面に捉えている。


土の匂いが心地よ……、……土?


……縁側からも落下していた。

これで起きなかったのか。


どうにも近頃、ボーっとしすぎである。


祭りが近くて浮かれていたのもかもしれない。




よし、と気合を入れなおして起き上がる。


信長が明智光秀に討たれたり、雑賀衆が武力を自主解体したり。

目まぐるしく時代は動き続けているのだ。


考えなければならない事はそれこそ山ほどある。







杜人に連なる者の為に。


皆の為に。







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