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やきうち……風雲児が見るものは









雑賀は戦国の世において、傭兵集団の名を響かせると同時に

ある種の何でも屋、便利屋でもあった。




広い川や海路と貿易にはうってつけの立地は勢力を伸ばすの丁度良かっただろう。

水運、海運業が発展、集積地である堺との距離が近かったのも幸いして大きく成長した。

堺に荷を卸す関係で紀伊南部との結びつきも深く、海路繋がりで瀬戸内にも顔が効く。


そして、大昔に一人の刀鍛冶が大成し技術を広めた結果、

鎧や刀剣だけでなく鉄砲の複製や改良を行なうなど、金物関連の工業力も高い。


傭兵業はそれらの需要を発生させるデモンストレーション的な意味も込められており、

それぞれがシナジー効果を発揮し今日まで至っている。


具体的には、自前の建築工具を用いた工兵部隊。

注目を浴び始めている最新兵器、鉄砲を専門に扱える玄人衆など。

更に物資の運搬まで付いてくるのだ。


敵にして厄介、味方なら金さえ出せば水準以上に働いてくれる戦力。

道具と技能を商品に乱世を泳ぎきろうという何とも逞しい武装商人達。





なのだが……出る杭は打たれるものである。





京へ上った織田信長は、従来から権力構造の一本化を阻害してきた自由な戦力、

経済力や戦力を持ちすぎた傭兵や寺社勢力の擁する過分な僧兵を常々問題視していた。


まぁ、本人も過去に利用してきた経緯はあるが、切るべき時がきたと判断したのだろう。


信長包囲網から起こった比叡山延暦寺の焼き討ちも、

前年に石山本願寺へついた雑賀衆と僧兵から頂いた痛手が決断の要因か。



焼き討ちの結果から言えば、比叡山はかつての政治力を人員ごと削ぎ落とされて死に体。



本当にあの時は酷かった。


仏道から外れ腐敗していたり、敵を匿ったなど焼き討ちされるだけの理由はあったが

四千人を越える死傷者を出した大惨事。


こちらの調査員も早々に引き上げさせなければ危険で、

遠巻きに惨禍を眺めるだけだったと鶫鳴女が言っていた。


そして事が事だけに終わった後も大変である。

……が、各地で多大な反発を生んだが、それを信長は着実に沈静化させ続けた。

坊主は祈るだけ、とおそらく本人の意図通りかどうか、政教分離が始まろうとしている。




話が大分ずれてしまったが、現在、雑賀衆へ向かっている矛先も

数ある反発の一つに肩入れしているから、というもの。




抵抗の強かった根来寺が信長の次なるターゲット。


根来寺の持つ僧兵、いわゆる根来衆は総兵力一万を越え、

それを支える人口も多く、もはや宗教都市と呼べるレベルの一大勢力である。


雑賀は彼らと仲が良く、また鉄砲の運用に関してノウハウの交換などを行なうほど

縁が深かった所為か巻き込まれる形で対信長スタンスを取らされている。


杜人神刀以来、代替わりのする毎に奉納刀を届けてくれている鍛冶師嘉平の一族など

私への縁もまたある地なだけに出来るだけ無事でいて欲しいと思うが……こればっかりはなぁ。




ついでに、権力構造の微妙な位置に定住している森戸家に矛を向けられないか不安でもある。


今の所、織田領内で人員を不当に処分されたりはしておらず、

あちらから賄賂などの常識的な範囲の干渉しかきてはいない。

(無論、賄賂は断っているし中立的な記述をさせている)


しかし、邪魔であると感じれば寺社勢力同様に焼き払っておかしくない。

何せ純粋な兵力など保持していないのだから数百人から掛かれば森戸家は簡単に潰せる。

朝廷から討伐の勅命を下されても恐ろしくなければ、だが。


そういう意味で、しっかりと朝廷の力に頼らないといけないし、

朝廷の力が今これぐらいだぞ、と忠告して力を維持してもらわないと不味い。




室町幕府も倒れ、政情は不安のまま。




さりとて、森戸家は守ってみせる。


腕の中にあるものを守れずして、何が神か。









……っと?



紅葉を前にぐるぐる思案していた私が本堂に戻ると、思わぬ小さな闖入者。




「あ~、もりひとさま、こんにちわ~!」


「こんにちわ~!」


「えっと、えっと、わ~!」




可愛らしい三つ子が私の部屋で出迎えてくれた。

なんとも残念な光景と共に。


片付けていたはずの机に本棚から無造作に取り出したであろう巻物や絵図。

なんというか、色々と面倒くさい物も表に出てきていた。

良くそこを見つけたな、という物まで。


すぐに飽きたのかどれもこれも放置されているあたりに子供らしさを覚えたが

これはちょっと叱っておくべきだろう。


まずは事情聴取からだけれども。







詳しく聞くと、どうやら隠れ鬼をしていて紛れ込んだらしい。

元々、神社で子供を遊ばせてはいたが、ここまで侵入を許したのは始めてだったりする。


親から本堂奥には行かないように言いつけてあるし、

そも、棒を引っ掛けて簡単な施錠はしてあるのだが……今日はうっかり忘れていたのか?

こうなると私の過失であるが、どうにもそこが釈然としない。




子供達の代わりに目の前で何度も頭を下げる翠に、

施錠を忘れた自分が悪かったのだからと気にしすぎないよう言ってこの件は終わった。







部屋の整理片付けが終わって縁側に出ると、山犬が月見と洒落込んでいた。

一人より二人が良かろうと隣に座る。




子供達が元気なのは良いけれど中々まいったよ、溢したら

子は未来を創る種なのだからそれぐらいで丁度良い、と笑った。


山犬に懐いていた翠の子供達だから、

きっと山犬にとっては孫に似た感覚なのだろう。

あの子達を話題に出した時、山犬は少々上機嫌になる。


しかも今日は取り分け良いようだ。







二人、静かに秋月夜を楽しんだ。







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