あらそい……其は守人の国
人が増えれば争いも増える。
……分かっていた事だった。
どうしても避けられぬ血と屍を生み出すもの。
競争と闘争は、人の性だ。
私の村も幾つもの村を呑み込んだ。
呑み込んでくれと頼まれた。
私の村は小さすぎて闘えないから、と。
ちょうどそういった過渡期に来ているのだろう。
各々がそれぞれのやり方で豊かになるための方法として、
自由に使える土地、自由に使える奴隷を得る略奪によって国を作る時期に。
閉塞しはじめた世界を広げるために、皆が皆、幸せになるために、
もっと巨大な領域を持って大規模な農業振興を行おうと、土地を奪い合う。
人同士の闘争の時代が始まったのだ。
そして……。
もう、私の生前を知る者が誰一人として居なくなった頃。
私の村は『モリトの国』と呼ばれるようになった。
偉大なる祖先の霊、モリトが守る国だと。
近隣の大小の国々よりも技術に長け、漁業など高度な産業も高効率化してきた。
農業も他種多様な作物の栽培を行っており、食糧が安定して供給できる。
簡単ながら医術もあり、死亡率も僅かながら低いし、モリトの加護で治安も良い。
そんな場所を誰が欲しないでいられるだろうか。
山と海に挟まれたU字型の地形は天然の砦となり、外敵の侵入を阻んでいる。
無論、山を通れる道も多いが、森は危険が溢れており攻めるに難い。
それでも、此処に希望を求め、略奪者は現われる。
私はこの村、いや、この国を守るために彼等を殺した。
殺して、魂を奪い、強くなり、
また殺して、魂を奪い、強くなる。
次第に慣れてしまった自分が少しだけ悲しかった。
村人が、モリト様、モリト様、と称えてくる。
その名が、そのまま国の名となった。
結果として、私という反則によって、この国は僅かな兵士だけを武力としたまま
余力を農業や漁業といった分野に注力し発展することができたのだ。
冷たい考えだったが、
私のちっぽけな両手にはこの国を維持するだけでいっぱいだった。
自分の庇護下にある人間だけを幸せにするだけでいっぱいなのだ。
私の国は恵まれている。
土地も、人も。
モラルも比較的高く、物々交換のレートなどで少々揉める程度で、
国内に置いて略奪が横行するなどしていない。
戦という混乱を抱えた時代だが、それでも飢えも少なく、豊かな生活を遅れている。
さらに国内の統制もそれなりに上手くいっている。
私の村出身の、何らかの技能を修得した者達は特権階級として、
何人かの人を配下に持つようになっているが、それほど驕る事もなく、技術の伝達に努めている。
いずれ腐敗し、虐待などの温床になってしまうだろうが今の国内は安定している。
各長の寄り合い、長老会においては既に穀物などの賄賂が横行しはじめているが、
私利私欲であっても最終的に国が富むように動いているので今は見逃している。
財の溜め込みが可能になってくると段々と露骨になっていくのだろう。
そのあたりの舵取りを上手くやりつつ最大多数の幸福を創っていきたい。
既に私の村は面影を無くし、広がりを見せたため別の姿へと変貌してしまったが、
やはり作り上げたモノや、この土地への愛着は変わらない。
これからも見守っていくのだと私は決意を新たにした。
……山犬が私の側へ駆け寄る。
私は強くなった。
こうして山犬を従えるまでになっている。
この山犬はかつて私と対峙したモノの魂魄だ。
誇り高き獣の魂は、王樹に与えられる安寧の眠りにつく事なく、
死して尚、孤高に森を疾駆していた。
霊格が完全に彼を上回るまでに何度となく闘ったものだ。
今ではこうして共に国を守る相棒である。
使える手、使える目が増えた事は、相変わらず忙しい毎日にありがたい。
ん、なになに、この荒れた海に舟を漕ぎ出す馬鹿がいるのか。
私は伝えてくれた山犬に礼を言ってから飛び立つ。
こうした馬鹿がでるくらいの平和を、ずっと保ちたいものだと祈りながら。
現場につくと私は波に翻弄される男を竜巻で波打ち際まで吹き飛ばし、
舟を突風で陸まで上げた。
こういった操作も手馴れたものだ。
追加で忠告の意味も込めて1分程竜巻を海上で荒れ狂わせてみる。
海に生きる者で、海を恐れない者は、いずれ海で死ぬ。
怖さを知らない海の男は海の男足り得ないのだ。
そう告げて私は去った。
言った後で我ながら偉そうだなとちょっぴり照れたが、
海に出る勇気を持つ人材は貴重なのである。
無駄に死なないでいただきたい。
※主人公とご都合主義な天然要塞的地形の組み合わせでモリトの国は
規模の割りに中身が発展しています。とはいえど少々です。
ちょっと沖に出れる程度の小舟を使った漁業が行えるレベル。