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せんごく……始まった戦乱と歴史に忍ぶ者





応仁から文明まで続いた長い乱は収まりを見せたが、

それは数々の軋みと疲労、憎しみや野望を生み出していった。


山城、加賀などでは土着武士や一向宗信徒が守護大名を追い出し

自治を始めるなど下剋上の世が訪れているのだ。




時はまさに戦国、と言ったところ。




まぁ、周囲に血風が吹き荒れようと行動方針が変わる事はない。

森戸家は変に名が売れているが、無茶をしない程度に役目をこなすだけである。



歴史を傍観する者として朝廷に深く繋がっていながら、同時に離れてもいる奇妙さ。



そこを成り上がりの機と狙ってか、

概ね何処の土地に行っても大名や武将に厚遇されている。

この辺りが殉職者が未だ出ていない理由だろうか。


しかし、賄賂などが絶えないので長期間同じ場所に同じ人員が滞在できず、

隠れるように諸国を回らせたりと過酷な仕事を課してしまっているのが目下の悩みでもある……。

下手に天皇に敵対的な勢力と結びついてしまえば、我々は粛清されるのだ。


戦国時代は任務を果たすにあたって今までよりも色んな意味で危険度が高い。


その辺りがあるので表に喧伝出来ないが

杜辺の者も財政、人脈の両面で協力してくれていたりする。


杜辺家一同が商売で築いた伝手が東西に上手く伸び、

所々に小規模ながら隠れ家兼、歴史編纂の拠点を持てていなければこうも良くはいかなかった。


念の為、後で急にこの事を持ち出されて粛清されては敵わないので、

朝廷というか大和神霊の代表者である天照大御神には杜辺家の協力について内密に報告してある。


彼女としては天皇家への害意が無いのを知っているので見逃す、そうだ。

あちこちに飛び火し始めた騒乱が収まるまでは歴史記録の補助に

経済力を増し、存在感を見せてきた杜辺を(あくまで目立たない程度に)利用してよい、と。


そこには、この間の一方的な杜人侵攻未遂を帳消しにする意味合いも含んでいる。


調査や確認も含めた編纂が完全に終了した歴史書は凡そ十年周期、

編纂中のものは約五年刻みで経過報告として写しが朝廷に届けられる。


人物や事件を書いただけでなく地方の行政風景や風俗に関しても記されたそれは

独自に記録体制や情報網を持つ朝廷側から見ても重要な情報ソース。


杜辺程度の融通を利かせるだけで借りを消せるなら断る理由も無いわけだ。

こちらは一見、貸しを消化した形になるが、消した貸しとは割りに合ってはいない。

その超過分で逆に大和神霊の信用を買ったと考えるとむしろプラス。


森戸と朝廷、もとい私と天照大御神の間の密約。

性格から考えてこれが違えられる事はないだろうし、互いに幸せになる良い約束となった。



そんなこんなで、現在までに大きな問題は発生していない。










今日も報告書に目を通しながら、日本を読み取っていく。




荘園制度が崩壊の様相を呈しているのに合わせて、各地の村落にも変化が見えてきた。

昔から自衛できる範囲の武器や男手を持つ村は珍しくなかったが、こんな世である。

村が丸々傭兵集団となっていたりと、武将だけでなく地侍レベルでも勢力争いは盛んなようだ。


武装商人達や宗教団体も影響力を発揮している。


特に、物資運搬など戦略の要となる水路を生活の場とする貿易商の発言力は大きい。

自治都市が今以上に発生してもおかしくないな。




……ふと、伺見(うかみ)という単語に目が止まった。


情報収集を主に行なう、要するに間諜の事で

遥か未来では忍者などと名が付いたが、今はまだ統一されておらず

素破(すっぱ)や草とも呼称される者達。


最近では鳥見(とりみ)とも呼ばれ始めている。


鳥見自体は貴族が遊びで狩猟に出る際に獲物が何処に多いのかを見極め誘導する、

山や森の生態系を知り尽くした特殊技能職を指す単語なのだが……。


ウチの諜報活動を担う鳴女衆から間諜の意が含まれるようになった気がしてならない。


森戸家に限らず、杜人一族は伝書に鳥類を使う事も多いからなぁ。


主に鳥の神霊で構成された鳴女様々と言ったところか。

この辺りは杜人一族の大きなアドバンテージとなっている。



ちなみに、鳥を使っての通信は中央でも研究や試行がされているが

現在、実用化まではまだまだ遠いようで、失敗に終わっているらしい。


けれども、研究が打ち切られる事はないそうだ。

私達が情報の重要性云々を天照に説いたからかは知らないが、

都の北西部に位置する山中で根気強く実験を続けていると報告を受け取っている。


いつ頃から伝書鳩が実用化されたのか知らないが、

ひょっとすると史実よりも早く登場するのかもしれない。












全てに目を通し終わったので気分転換に境内へ出てみると、

地元の農民や遠方の武士まで集まって、神主と祭りの打ち合わせをしていた。



そういえば今年は四年目か。



合神祭はかなり広範囲を回る祭りなので、領主同士の仲が悪い土地を横断したりもする。


しかし、祭り中は抗争を禁止し休戦となっているのは暗黙の了解だ。

各陣営から代表者を出し、そこを確認しにきたのだろう。



都の商人も訪れるので資産や人脈を増やすチャンスであり中止するには勿体無い。

ついでに各所と交流するのに合わせて歩き巫女などの間者を忍び込ませ易い。



……とまぁ、それぞれが腹の内に抱える物は黒かったりするのだが、開催は素直に嬉しい。













あれやこれやと難しい事を考えないで、平和に神遊びと洒落込みたいものだ。




溜め息は初秋の空に吸い込まれていった。






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