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けいかく……鳥達は知らぬまま










考え事があるので緊急時以外は誰も近寄らせないよう神主、森戸当主に言付けて

私は人避けの壁を作り、杜人神社、本堂奥に篭った。











今、私はひっそりと鳴女や山犬にも隠れて、

一人あるプロジェクトを動かしていたりする。






それは『封神』計画。






御左口様の存在にヒントを得て考えた、

神霊『杜人綿津見神』の力を貸借する新しい方法。


新しいとはいえども、中身はミシャグジ式に仏教式を少々混合したような信仰貸借なのだが、

将来予想される私の消滅、それが生み出す諸々の問題への対応力を考えるとこれがベターだと思われる。


今のまま時を進めても、あと五百年くらいなら私への信仰は無事だろう。

しかし、それが千年、二千年ともなれば話は別だ。




人間が幻想神秘を必要としなくなる日が来る。


それも遠く無い日に。




人の力であった陰陽術や仏教ですら徐々に力を弱めていくだろう。

『教え』からくる集合知の力は知る者、信じる者が多く必要になるからだ。




私は昔に書いた手描きの世界地図を広げる。




海を渡り、山を踏破し、地図を埋めていった人間は

一つ、また一つと未知を既知へ塗り替えていく。


異なる文化文明との交流は知恵を集め、束ね、発展を繰り返し、

やがては海の底から星々の世界にまで彼等の手は伸びていく。




人間はそれでいい。


真理を探求する心こそ人間の素晴らしさなのだから。




ならば神は?


消えていく定めでも私は構わない。

『必要』とされる居場所が無いのならばそれで。


私の存在理由は『求められているのか』どうか、なのだから。




しかし、未練がある。




私が消えた後、子供達に何を残して上げられるのか?




そして……。




……そして、私と共に消える事になる鳴女に生きる自由を。








『再び必要とされた時に振るえる力を眠らせる』

『道連れとなる鳴女を私から切り離しつつ維持する』


この二つを両立させなければならないのは頭が痛くなる問題だったが、希望はある。


私が畏れ敬い祀った千年樹は、ミシャグジの中でも有数であった。

その王樹様が残してくださった物が無ければ、この計画は初めからなかっただろう。

運命、という言葉はあまり好きではないけれども、この巡り合わせはそう呼ぶ他無い。




『根』の拡張は順調だが、私と馴染ませるのに今の感じだとまだ百年ちょっと掛かるか。

御左口様……いや、ミシャグジという仕組みへ介入するのは中々骨が折れる作業だ。


ついでに、どこまで混ざって良いのか、まだまだ実験が必要そうである。

最低限の自我は残すようにしなければ管理できなくなるので一層注意せねば。




何にせよ、現在(いま)を蔑ろには出来ないので、

実行は来る戦乱の終結を待ってからとなりそうだが。









さて、と。


落ち着いた所で計画の進捗や出てきた問題点を資料化しておく。

思いついてから、もう二百年が経つ長期計画。


私一人の秘密計画だが、こうして資料を残すのは重要である。

何しろ出てきた問題全てを把握し、対策を施すには過去に起きた問題まで浚う必要があるからだ。


一度起きたエラーを繰り返さないように、資料作成は非常に重要。


記憶力には自信があるけれど、何百、何千とあった失敗や危険を全部憶えるのは正直な話、無理である。


墨が乾くのを待って床板の下へ隠す。








一仕事を終え、境内に出ると山犬が気持ち良さそうに寝ていた。


この可愛くも鋭い相棒は計画について何処か勘付いているようだから侮れない。

何も言ってこない所を見ると信頼されているのか、個人の自由と取られているのか。


まぁ、山犬に何か特別影響がある内容でもないから構わないのだが。


私は王樹様の森へ視線を向けた。






王樹様の跡に偶然にも生まれた巨大な信仰の塊。


神霊が何百年も祈っていれば必然だったのだろうけれども、

鳴女達はそれを私の切り札的な力としか認識していない。

……当初は私もそんな考えだったのは置いといて。


あれほど大きければそうとしか思えなくて当然だから計画を隠せて丁度良い。

重要なのはその下に在る『根』であり『回路』であり『経路』なのだ。


鳴女の協力を受けられればもっと楽に行けそうであるが、

どうにも鳴女衆に反対される未来しか見えないからなぁ。


特に雉鳴女を筆頭に。


雉鳴女は貸し借りを重んじる義理堅い性格で、

未だに鳴女を受け入れた事を恩に思ってくれている。


おかげで神社も建てさせてもらえないし、

この上で鳴女の将来の為の計画を話しても固辞されるのがオチだ。


一応、実行直前に全てを説明する予定だが……少し恐ろしいな。










晴れた空は遠くまで澄んで、夕焼けが彼方まで幻想に染め上げていた。








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