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  杜人閑話……藤井教授講義『鴉と天狗』






「……というわけで、今のような畳敷きが一般化したのは

 君達が思っているよりも大分後の事なんだよ。

 布団だって今みたいな暖かいものというのは少なくてね、貴族も大変だったのさ」



「え~っと、ふむ、時間が余った」



「今日の講義はここまでしか用意してなかったんだよなぁ。

 興味がある人はこっちでいつもの趣味の時間と行きたいんだがどうだろう。

 そうじゃない人は後ろの方で内職なり何なりやってくれても構わないよ」



「んっ、結構来てくれたねぇ、嬉しいよ。

 別に単位とか関係ないからそんな熱心にならなくても大丈夫なのに。

 ……って吉田君は戻るのか、正直だな、まぁいいのだけれど」



「さてさて、君達はアルビノというのをご存知だろうか?」



「昨日テレビを見てた人は知ってるんじゃないでしょうかね。

 大阪府の水族館に真っ白なペンギンが生まれたとニュースになってました」



「先天性白皮症だったかな、これが医学的な名称でだね。

 遺伝なんかでメラニン色素を上手く作れなくて肌や髪の毛が真っ白になったりする」



「おっと、いくら女子が白い肌に憧れるといっても、アルビノは危険が大きいんだよ。

 肌の細胞を紫外線から守れなくなって皮膚癌の発生率がとても高くなる。

 ついでに言うと視覚障害も起こしやすい厄介な体質なんだ」



「赤目って言ってね、黒目のところにも色素がないから血の色を映した色になるんだけど

 これが非常に光に弱くなってしまうんだよ、本当に大変らしい」



「三年前にも、岩手で白い鴉が発見されたニュースがあったけど

 あれもアルビノの鴉だね……っと、あったあった、私のPCに壁紙があるから。

 どうだいコレ、上手く撮れてるだろう、思わず休みをとって行ったからね」



「……なんとも神秘的だよねぇ」



「実はこの子、撮影の三ヵ月後に死んでるんだ。

 美しいけれど、野生を生きていくのに不利な形質だからね」



「程よくしんみりした所で、私の趣味に戻るわけなんだけども。

 アルビノっていうのは見ての通り通常では有り得ない容姿になるから

 大昔から世界中で神聖視されたり、逆に忌まわしいとされたり、様々な信仰を集めた」



「白蛇なんかは聞いた事はあるでしょう。

 出会ったら幸運に恵まれる、ってのが日本では一般的かな」



「そして、近畿地方から中部、北陸地方に掛けて白い鴉の伝承がある」



「そういえばだが、君達が鴉に持ってるイメージは多分、狡賢いとかそんなのじゃないかな」



「鴉が賢い動物だというのは昔から思われていたようで

 海外でも神話には意外とポピュラーな鳥だったりするんだよ。

 学習能力の高さや、渡りを行なう種がいるのが主な理由なんだろうけどね」



「……おぉ、また微妙に逸れてた。

 で、白い鴉に戻すんだけど、そこでは厄祓いとして今も一部で信仰されていて、

 白い鴉は厄や穢れを集めて黒い鴉になっていく、と言われている」



「鴉の羽が黒いのは厄を身代わりしたからで、

 嘘つきで狡賢いのは人間の業を溜め込んだから」



「ちなみに、鴉が集まった下に動物の屍骸があるのは

 そういう穢れの元に何より早く駆けつけて穢れを引き受けてるからだそうな。

 なんというか、役割的には雛人形みたいなものだろうかね」



「そういう呪いや穢れといった部分が修験道や密教に馴染んだのか、

 山伏や修験者が修行を積んだりした、山岳信仰の強かった地域では山開きの時に

 紙で造った人形(ひとかた)ならぬ烏形(からすがた)を奉納や地鎮に用いる所もあるんだよ」



「あと、試練を与える山の神とも言われたり、なんてのも」



「メジャー所な山の妖怪で天狗ってのがいる。

 場所によって彼等は山の神様としても扱われていてね」



「彼等は修行者を堕落させる悪者なんだけれども、

 力を認めさせれば自身の知恵を授けたりしてくれるなんて顔も持っている」



「天狗は実は中世日本において姿が安定しない、

 よく分からないモノの形容詞でしかなかったんだ。

 今は山伏の格好が定番だけど、犬や猿だったり、あるいは鴉だったりもした」



「これが、鴉が嘘や集積した厄を振りまくのを試練の一つと取るのと繋がり、

 それを乗り越えた報酬として動物の賢者、鴉の知恵を頂くなんて考えられた。

 修行で真理と神秘を求めた修験者達の思想は、天狗の形成に寄与していると思っているよ」



「よく言われる鴉天狗、という天狗。

 これは山伏、修験者や山賊が起源とも言われてるけど、

 その『鴉ってのが何処からきたのか』はこの辺りじゃないかと私は個人的に考えてます」



「あぁ、そういえば、天狗の中に女郎天狗って女の天狗が居てね。

 美人で惚れっぽいんだが、気に入った人間に難題を与えずにはいられない。

 好きな相手ほど大変な試練を与えてしまうという思春期の恋愛話みたいな妖怪」



「で、試練を達成すると『褒美に私をやろう』と

 嫁入りしにくるユニークで気難し過ぎる乙女な妖怪なんだけど……」



「……っと、ふむ、時間もそろそろ終わりですね。

 最早、鴉の話ではなく天狗の話になっていましたが、

 女郎天狗は日本昔話でも有名な話だから見たい人はDVDを貸しますよ」



「では、次の講義で会いましょう」





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