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かみさま……偉大なる生命







どうやら『モリト』とは私の事らしい。


生前はなんだかんだで村の代表として(オサ)を務めていたので

長としか呼ばれてなかったし、息子に長の地位を譲ってからは

大長(オオオサ)とか大爺(オオジジ)など呼ばれていた。



今度の植え付け作業が終わったら息子は長を下の世代に渡す事が決まったそうで

そうなれば今度は息子が大長、大爺と呼ばれることになる。


今まではそれで良かったけれども私の存在はそれらと根本から違うので

名前を決めようじゃないかと昨晩決めたそうな。

私はその時区画をどう分けようかを考えるために外をぶらついていたから気が付かなかった、と。


ふむ、『モリ』が守るの意味の言葉なので、守る人の意で『モリト』なのか。

漢字があるか分からないが当てるとしたら『守人』になるのだろう。


名前に負けないように皆を守れる存在になりたいものだ。







さて、力を手に入れてから仕事が増えるばっかりで身体が足りない。


恒常的な村の警護、試行錯誤が続いている漁の技術指導、

時間を掛ければ伐採可能になったので森から建材確保もやっておきたい。


山にちょっとした林道を作るのも重要である。

人の匂いが常にするとなれば動物達も道を空けてくれる。

これは山菜やキノコなどの山の恵みを頂きにいく時の危険を減らせる。


隣の村までの道の整備だって山犬の襲撃が怖くない私単体なら

時間は掛かるけれども成し遂げる事ができるのだ。

これは村の発展に対して必要だろう。


水不足や氾濫を考えた河川の整備だって今までは不可能だったが

時間さえ与えてくれるのなら有る程度はこなせなくもない。

農業の規模を広げるにはここの着手は必要か……。


中々に悩ましいものである。


警備に関しては自分より格の高い霊が襲い掛かってこないかぎり大丈夫だろう。




……そう、霊である。


何を馬鹿な、と私も始めは思っていたが……


この世には居るのだ。

私と同じような霊は存在するのだ。


何より私が存在すること自体が証明になっていることに、

私は間抜けにも遭遇するまで気が付かなかった。




あれは村人の補助をしようと山狩りについていった時のことだ。


狩りの腕がからっきし駄目だった私は山狩りに参加したことはない。

だから初めて山の奥深くまで足を踏み入れたのだ。


八百万の神々とでも言おうか、感覚にピンッと引っかかる。

勘に頼り歩を進めていくとそれは姿を現した。




前方に聳える広葉樹。




直径で4mはあろうかという立派な樹木から感じる圧倒的な存在感。

天を衝く逞しい幹からは空を覆わんと数多の枝が美しい緑で装飾されていた。



そして、10年、100年、1000年と、気が遠くなるほどに時間を重ねた生物が放つ霊気。



それは草木の範疇から逸脱したこの山そのものだと私は思った。


あれは、あの大樹は、間違いなく『王』だった。



恐る恐る近づいた私を感知するや、

垂れ流しであった気配が収束して私を包みこみ、放さない



急な出来事に肉体を捨ててから初めて怯え、恐怖した。



しかし、大樹は襲おうというのでも、逃がそうとするでもない。

王からすれば『見たことのない顔だな、お前は誰だ?』と尋ねるだけの行為。

私は自分が特別だと図に乗っていたのを自覚し恥じた。


大樹の前にはただの羽虫でしかなかったのだ。


幸いにも大樹はその見た目の雄大さに違わぬ寛大な心の持ち主のようで、

私が新たに山に入るのを祝福してくれただけだった。



神と呼ぶべき存在がいるならば、あれほど神秘と生命に溢れた存在以外にありえない。



もし、大樹が自分以外の霊を排斥しようという気性の持ち主なら、

軽く枝葉を揺らす程度の労力で私の魂は握り潰されていただろう。


私はただ、偉大なモノに出逢い、在る事を許された事実にひれ伏した。







あのような規格外な霊格を持つものはそうそう居ないであろうが、

逆説的に私程度の幽霊なぞ掃いて捨てるほど居るのかもしれない。


原始とは、あらゆる存在が産声を上げ、生きる力に満ちた時代なのだから。


場合によってはあの大樹へ庇護を求めるのも考えなくてはならないかもしれない。

最低でも友好的であれば、何かあった時に逃げ込めるか……?


私は村の警護をこなしながら、今日も思索に耽っていく。



※主人公とは別の霊が登場。正確には霊格を伴った生物ですが。

 おそらく古代日本ではこういう偉大なるモノを崇め、神としていったのでしょう。


※最初辺りの名付けに関する語学考察は適当です。

 『モリ』が守るの古語だとかは適当なので流してください。

 初期話で言語が成り立ってないと言ってるくせに1、2話で父とか逆巻くとか喋ってますがそういうニュアンス的な訳だったことに。ゆるゆる言語学。

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