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げんこう……そして誰もいなくなるか







……嵐は去った。


今では、その後始末に何もかもが追われている。






結果から言えば、九州防衛成功。

日本は始めて経験する海外勢力の侵攻を無事に防ぎきった。


しかし、二度に渡る蒙古襲来は深い傷痕を残していく。


特に壱岐・対馬は壊滅と言ってよい損害を受けた。

避難を促し島外に連れ出せたのは島民の3分の1しかおらず

事前準備を行なったにしても悔やまれる結果……。


九州の都市部は殆ど損壊なく防衛できたが、

守りきれずに被害を受けた沿岸部の小さな集落もある。


何もかも救えると思うのは傲慢だが。








鳴女達の報告書の頁をソッと捲る。



遠い九州の地で森戸家は誰よりも頑張ったのだろう。

限られた霊的武力を持って多勢を凌いだ、それだけで賞賛されて然るべき。

相手方の神霊は大方の予想通りのラインナップだったものの、

それでも大陸上がりは重ねてきた戦場が違うのだろう。


人間の戦争は武装予測と情報の共有で鎌倉武士は押し返せた。

けれども神霊の戦争は苦戦を強いられる事となる。


蒙古側の神霊統率者は二回とも山犬級の上位神霊だったそうだ。

おそらくモンゴルの祖霊から成長した存在のようだと聞いている。



経験から言わせて貰うと、祖霊というものは強くなりにくい。


元々の種族である人間の脆弱さからか、途中でどうしても伸び悩む。

私の場合は王樹様の力を引き継いだ為に壁を越える事ができたのだが

そうでなければよっぽど徳のあった人物で広範囲に信仰されていないと無理だ。

それが私の中の常識だった。


しかし、子孫が数多の国々を呑み込んでゆくその気勢に引っ張られて

歪な形で成長を遂げたものではないか、と鶫鳴女の報告にある。


正史において世界征服に最も近づいた国家『元』はあらゆるものを呑み込み続けたという。


私には征服の行程で未来へとひた走っていく子孫に、

過去の遺物である自分達を忘れられまいとした霊の姿を文字の中に見出していた。

人の力が膨れ上がった先に、彼らは己を捻じ曲げても子孫に尽くそうとしたのか。


壱岐・対馬での蛮行は許されるものではない。

ただの拠点作りに留まらない凶行であり唾棄すべき行為だったが

怨みや憎しみを糧に更なる強化を図ろうとも考えたのだろう。


在り方に、妙な共感を覚えた。





その悲壮な魂は、たしかに強かった。


報告をもう一度読み直す。






『第一期 蒙古襲来』

・森戸 戦死者 14

・鳴女 戦死者 2



『第二期 蒙古襲来』

・森戸 戦死者 3

・鳴女 戦死者 0






侵攻時期を読めなかった事、危機意識の低さで万全の防備には遠かった事。

一戦目は神社や仏閣の援軍が遅く、人の身で敵の神霊を押し留めるにはこれが限界だった。

逃げ遅れた民衆を誘導していた後方組が地元民を守って死んでいったという。


二戦目になれば前回の脅威を省みて対策や準備も十全に整えられた。

設置された防塁は幕府の率先した協力もあり敵兵の進路制限に大いに役立つ事になり、

宗教の各派閥も協力して対抗したので被害をかなり抑えられた。

しかし、兵の負けを神霊が取り返すべく、闘争は前回を上回るものだったらしい。

人智及ばぬ大和と大陸の神秘が激突する戦場を形容するに「凄まじい」の一言以外は無い、だと。





鳴女も精鋭2名が共に世を去っている。

そして、森戸の犠牲も。




私の代わりに血を流した子供達。


それは彼らの意思や覚悟を踏みにじる、してはならない考えではある。

だけれども、悔やまずにはいられないのだ。



この段階で旅立った20名の内17名が死んだ。






……この段階で。









そう、人の業は深く、愚かだ。


次の頁に記載された文字が私を苛む。

お前は我が子を殺したのだ、と。




森戸家が九州に入植してまず最初に行なったのは各所への参拝であった。




いつ、いかな場所であろうとも歴史は生まれる。

そして歴史を刻んできた先人達がいるのである。


遥かな昔から古き者を祀ってきたのだ。

九州にも既に霊のテリトリーが形成されているだろう事は知っている。

そこに他所から別の神の使徒が我が物顔で陣取るのは失礼にあたるだろう。



私は土着の神々から路傍に潜む小さな妖怪に至るまで敬意を示すよう連絡していた。



しばらくの間で良いから土地を借して欲しいと様々な神霊妖怪化生に頭を下げさせる。

決して追い出しに、戦いに来たわけではなく、勝手ながら守りに来たのだ、と。

鳴女の休息用に物置小屋程度の社を建てさせてもらえるだけで良かった。


礼儀を弁え、控えめな要求が気に入られたのか

九州の神霊はこれを認めて友好関係を築けたのだ。



近隣の村や町とも上手くやっていた。


全員が計算や建築、医療などの特殊技能を身に着けているのが便利だったのか

ある種の何でも屋として隣の村からも困り事を相談されるまでになった。



そう、上手くやりすぎた。



徐々に蓄積されていく信頼と実績。

付け加えて蒙古軍から民を守った功績。


嫉妬した地元豪族と宗教家の暴走によって、悲劇は成ったのだ。





開かれた頁には……。






『第二期後 森戸 被暗殺』

・森戸 死者 3






旅立った彼らの死が記述されている。





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