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おいのり……日本全国土地神の憂鬱






西も東も、慌しいものだ。

寺社仏閣への祈祷命令から様々な宗派がそれぞれにアピールを始めた。



『世の乱れは我等が教えに耳を貸さぬからであり、近い将来災厄が訪れるだろう』



といった風の終末思想的な宣伝をもっぱら耳にする。


飢饉や疫病が流行ったのもあり民衆はそれに釣られてしまい、

何処其処の寺へ駆け込んだり、お布施を弾んだりと流されている。

どこから耳に入るのか大陸からの戦争の気配もそれを助長していた。


別に悪いと思っているわけではない。

苦難にぶつかった時に己を支える何かがあれば勇気を振り絞れる事もある。


人の心は脆い。

だから仏教を人の支えとして広めるのを否定する気はないのだ。


ないのだが……。





宣伝文句によって民草の不安を煽るのは止めて欲しい。


治安が悪化するからだ。


ただでさえ作物不良や天候不順などで日本全体が不味い雰囲気。

街道に野盗が増え、都でも強盗が横行しそうな空気。

火に油を注ぐように不安を掻き立てられたら当然犯罪が増加するだろう。


すると、ますます民は不安を抱えてしまう。

これは人間だけの問題ではない。





不安の伝播は主に私のような土着系の神霊に問題を齎す。



土地を治める神霊、妖怪などの化生は残留させた意思によって加護を与える。

強い影響力を持つ存在が願う事でその土地の事象に干渉するのだ。



『良い実りを』と正方向へ祈れば生命に溢れた土地に。


『腐り落ちろ』と負方向へ呪えば凶事を招く土地となる。



これが私の行なっている基本的な祝福の掛け方。

意思は力を持っているのだ。



どことなく信仰にも似ている。

そして、それが問題だ。




多くの人間が不安を感じていると土地の祝福が負へ書き換えられかねない。




実際にその場所に立つ人物の意思が影響しないわけがないのだ。

一人一人が持つ影響力や意思は弱くとも、生活の拠点とする場所には

様々な感情や祈りが込められているのである。


具体的には作物が上手く芽吹くように、だとか。


私は応えてきた実績があり、農民も育ててきた経験があり、

生まれた自信は土地への愛着として加護を安定させていく。



ところが昨今の全国的な『不安』、負の想念は僅かでも確実に土地を蝕むのだ。

現在の全国的な異常はこれが原因かもしれない。



こまめに領地を巡って祝福を続けても住人達が綻びを生んでしまう。

発生した被害で彼らの意思が良くない方向に向いて悪循環が起こり、

土地を治める者への信仰が減少するのにも繋がっていくだろう。


杜人の地では何とか飢饉が起きるような事態は防げているものの来年は分からない。

早く世情が安定してもらわねば解決には至らない。




こうして日本を覆った負の意識はまるで御左口様のようだ。




長くこの状態が続くのであればかつてのように全国で祟り神が発生し

再びあの大禍刻(おおまがとき)が起こる危険も孕んでくるだろう。


それだけは避けたい。


外憂たる元寇が解決すれば朝廷も存在感を発揮し日本の陰気も晴れるだろう。







日が落ちる西の空に、子供達の無事を想う。













私は蒙古軍の武装は鳴女を通して憶えている範囲で伝えていた。



鉄や陶器に火薬を入れた手榴弾もどきである『鉄砲』は知らなければ脅威だと思ったからだ。

飛び散る破片と大きな音は戦意を挫いてしまうだろう。


「大陸で開発された火薬と呼ばれる物は炎の力が込められており

 雷のような音だして弾けると云う、このような武器として使ってくる可能性がある」


えらく抽象的な説明であるが、こんな風にざっと鳴女達に説明して

霊力を固めた玉を大音響で破裂させ予想効力などを実演してみせた。


おそらく鎧さえ着込んでいれば目の前で爆破されない限り致命傷は無いだろう事。

音による怯みや、臆病な動物である馬の無力化などが厄介だろう事。

実演に関しては雉鳴女、鶫鳴女の霊力でも可能なのでぜひとも行なう事。


被害予想やそれからくる対策などは九州の武士団にも情報を共有してもらうようにお願いしている。




他に、大陸では動物の骨を使った短弓が多いのにも触れる。


「日本の長弓の方が射程は長いものの、短弓は取り回しが良いため連射が考えられるのと、

 威力を補う為に集団で大量に射掛けてきたり(やじり)に毒を用いてくるだろう」


森戸家は独自の薬学も修めているため自然と後方支援で治療に回るケースも多くなる。


毒消しの類が効くか分からないので矢傷は毒が回らぬよう逆に切って血を抜くなども頭に入れさせる。

体調悪化で済む程度の毒であれば良いのだが……


嘔吐や失血を補う生理食塩水もどきや増血剤に関しては拠点に常備させるべきだ。




そして、言葉や風習の違いから名乗りや一騎討ちを受け付けないだろう事。


これに関しては武士達に言い付けておいてもどうせ破って矢を射掛けられるだろうが、

相手を理解してそこからの復帰が早ければ早いほど被害は少なくなるので

駄目元で周知させるようにお願いしておいた。





最後に、予想される霊的な攻撃力について。



中国や朝鮮半島の神話にまったく詳しくないので予想はできないが

おそらく日本と同じ土着信仰と先祖信仰が主だろうと思われる。


日本に送り込まれるのは朝鮮奴隷兵がメインだったはずなので彼らの祖霊が第一候補。

土着神は海を越えて異国まで来ると信仰減少で満足に力を震えないだろうから居ないはず。


ただし、敵祖霊に関しては朝鮮の征伐を受け怨霊と化し理性を失くしているかもしれない。

その場合は呪術師や泣き女等の巫女に合わせて呪われると厄介なので大宰府の陰陽師と連携する事。

陰陽師の人員については朝廷へ要請している。


気をつけるのは、それらを統率する大陸の神霊が必ず居るだろうこと。


これについては鳴女頼りで彼女等に判断してもらうしかない。










王樹様の跡へ私は山犬と共に足を運んだ。


日課の御参りにプラスして、

子供達の無事を王樹様に祈る。


守人となった彼らの無事を。



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