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あまてる……脅威を前に






元寇とは二度に渡る蒙古軍の侵略。

初めて日本が経験する、外国からの仕掛けられた防衛戦争。



記憶によると苦戦の印象が強い。



言葉も通じず、戦争の儀礼行為も異なり、戦術基盤も違う。


日本は天然の防壁と言ってよい海に囲まれるが故に

蒙古軍の最大戦力である騎馬部隊を封殺できているが

それでも取り回しの容易い短弓や火薬を用いた兵器は脅威となる。


彼等が足がかりとした壱岐、対馬での略奪は凄惨を極めたという。






私には一つ気に掛かるものがある。



はたして大陸側の神霊が参戦してくるのかどうか。



日本側は兵力で負けようとも質では諸外国でも上の方だろう。

応永の外寇において李氏朝鮮の侵略を対馬単独で撃破できたのもそれを裏付けている。


武士は言わば職業軍人であり常に武術に磨きをかけているが、

今回の相手の兵は朝鮮で強制徴集した奴隷兵で士気も何も無い。


この事が正史において日本を最終的な勝利に導いている。


しかし、人間では抗しきれない災害級の神秘が着くとなれば……。

同じく同等の神によって対抗せねば勝利は難しいだろう。




幕府はこの神霊という不可思議の要素を軽視している。


きっとそれらに依らず打ち立てた政権であるからであろう。


神仏習合などで全体的に力は弱まっているが神の力を甘く見てはいけない。

私風情でも全力を振り絞れば領内で大嵐を吹き荒らす事も可能だったりする。


まぁ、私の場合は地域密着型の狭く深い繋がりから習合が避けられたなど、

影響の度合いは格段に小さいというのはあったのだけれど。


しかし、殆ど弱体を受けていないとはいえ、片田舎の一土着神でそれなのだ。


比べ、使い走りだけで征伐を成せた大和の主要神ともなれば、

弱体化して尚、私を上回っているに違いない。


朝廷側もそれを警戒しているのか、全国の寺社仏閣に祈祷を命令し

短期的ではあるが日本の霊的防衛力を上げるよう積極的に行動している。

そっちに気を取られているせいか飢饉や純粋な自然災害で

一般民衆が割を食っており、もう少し援助に動いて欲しいが……。







静観するとは決めたが、何も出来ないもどかしさに心は晴れない。


雉鳴女が悩む私を心配し気遣ってくれた。

とはいえども言葉ではなく行動でだが。


この問題以外の書類を私に回す前に自分達で処理してしまうという

如何にも彼女らしい気の遣い方で、余計な事を考えずにすみ、ありがたかった。









そんなある日、朝廷、というより天皇本人の筆で書状が届いた。


使者は森戸家でしばらく滞在するらしい。


政治に関わらない事を大前提に権力を天皇から貰ったのに天皇から反故にされると困る。

そういう風に現森戸家頭首が使者に対して断ろうとしたのだが、

この件に関しては森戸特権の政治使用に当たらない事が天皇の名で約束されているという。


何のために天皇の名でここまで来たのか。

先に書状をあらためた頭首が軽く動揺した。


退室させ、雉鳴女が読み上げる。





皇大御神(すめおおみかみ)(天照大御神)が夢枕に立ち、杜人綿津見神に助けを乞えと。

彼の神は民を守るを善しとする守護に関しては大和に並ぶ者の居らぬ神。

太陽の化身を持ってしても崩すこと叶わぬ城塞の如き守りの神であるから、

恥を忍びこの日ノ本を大陸より守り抜く神威を授かりに行くべし。

そう皇大御神に言われるまま助力を願いにきた。





要約するとこんな感じであったが、私に対して何処となく偉そうな文体だ。

守護神たる天照大御神が夢枕に立ったのならしょうがない、といった感情が透けて見える。

私のところに文をやったのも嫌々だと。



今代の天皇は上皇含めて仏道に酷く傾倒しているらしいが、

なんだか天照大御神も子孫にないがしろにされてないか?



仏教はもはや日本で主流の宗教と言えるまでになってきているとはいえ

天皇家を見守ってきた大和の神霊達の心労や肩身の狭さが偲ばれる。

仏教普及も彼女等が子孫の為にと身を切る思いだったろうに、少しばかり哀れに思えた。


読み上げた雉鳴女が珍しく怒気を発している。

静かな内に秘められたその苛烈さは、部屋に入った鶫鳴女がそそくさと退出するほどだ。



何となく何を考えているのかは分かる。


倭の血はいつから義を弁えなくなったのか、といったところか。


雉鳴女は許せないのだろう。

仏教普及で神霊が背負う事になるリスクを飲み込み許容した天照がどれほど苦しんだのか。

己はそれを受け入れる事ができずに裏切った身ではあるが、

きっと大和の神々でも意見は分かれ、そうとうの突き上げを受けたに違いない。


その義憤が心から溢れ、空気が痛いほど張り詰めている。




とりあえず、護国の依頼を断るわけにはいくまい。





天皇の勅命に逆らえば森戸家は権力に潰されるだろう。

上手く成功させて次回以降はこのような強制がないよう誓約させたい。


……が、困った事に私が静観を決めた最大の理由である『私自身が動けない』事がネックだ。

天照大御神、というか大和の神霊達はそれを知らなかったからこんな依頼が来たのだろうか?


正直なところ杜人一族総出で、山犬、鳴女、祖霊衆、地元妖怪のフルメンバーであるなら、

それこそ地形を変えてしまうような相手でも守る分なら戦えるとは思っている。


私が全面的な防御を担当し、山犬が撹乱と遊撃。

妖怪達が牽制しながら鳴女が諜報含めて後方支援で祖霊衆が細かいカバー。

今ならこれで八咫烏(ヤタカラス)も凌げるはず。


しかし、遠征となると無理な話だ。


全員が動けない。

私は無理、山犬も同様、鳴女は九州北部が限界、

祖霊はそも地元でしか動かないし、妖怪は遠地で行動条件を満たすのが厳しい。




となると出せるのは鳴女達だけになるけれども……鳴女達を捨て駒にできるはずがない。




大和の神も幾らか参戦しそうだが、九州に常に詰めているわけがないだろうから

たぶん求められているのは恒常的に向こうに待機できる霊的防御力。

最初の接敵を凌ぎ、援軍を待てるレベルの能力が必要となる。









静観のもどかしさから一転、とんでもない問題になってきた。

天照大御神直々の願いをなんとか果たしてやりたいが解決の術が無い。


そうして三日も頭を抱える私に思わぬ場所から手が上がる。













「私達がいきましょう」







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