きよもり……とある現実主義者の現実
時代は動く。
意思を持った人間が動かしてゆく。
中央での権力闘争に一つの区切りが付いた。
かつての藤原氏の勢いは無く、今や台頭してきた平氏が上である。
平清盛が武士として初めて、太政大臣まで上り詰めたのだ。
私は『平清盛』という人物にあまり良いイメージを持ってはいなかった。
朝廷内での権力闘争に勝利して多数の実権を握り
その繁栄ぶりから「平氏でなくば人ではない」などの言葉が生まれたと、
振り返れぬほど昔に歴史の教科書で習ったからである。
私は鶫鳴女にお願いして初めからその動向を注視する事にしていた。
彼を起点として、平氏と源氏の確執はここから始まっていくのだ。
幾度もの乱を重ねていくのが分かっている。
しかし、『いつ』『どこで』『なに』があるかまでは残念ながら覚えてはいない。
もし私の土地で事が起こるのならば、その時を逃さないように注意しなければ。
その思いで私は彼を調べていたのだが……。
調べれば調べるほどに私は私の偏見が恥ずかしくなった。
権力を握る為に色々とやっているのは確かで、野望もあるようだったが
決して配下の者を蔑ろになどせず、気の利く賢君の素養も持っていた。
報告書を見てみると贔屓目などしない鳴女達が口々に褒めるほどだ。
「己の部下は当然として更に下々に至るまでその人格を尊ぶ」
「相手の失敗を頭ごなしに罵倒せず、理由や原因にきちんと耳を傾ける事ができる」
「従者に無理を強いる事はなく、重要で無い者の体調をも気遣う優しさを見せた」
人格面だけでなく政務の結果もきちんと出しており
公共事業による景気高揚策や日宋貿易で財政強化なども概ね成功している。
聞けば聞くほどに優秀な政治家である事が分かるだけだった。
気になるのは政治に干渉してくる仏教勢力との仲が悪い事くらいであるが、
これもまた清盛個人が政教分離に近い現実的思考を持っていることの証明か。
政治を行なう者として宗教が暴走する危険性も理解しているのだろう。
影響が各地方、地域、村単位で完結している神道へ対してはむしろ支援している。
神道サイドが力を持つ事で仏教と政治的拮抗を生むのを狙ってのもの。
羨んでしまうほど出来る男である。
平氏一門自体は成り上がった事に対する自負心から些か傲慢が鼻につくが
昨今の仏教関連は問題が多いのもあって清盛個人は応援したい。
不可侵な部分にまでメスを入れる気概を持つ彼ならば
私の抱える問題にまで手を伸ばしてくれそうだ。
……そう思っていたのだが。
やはり易々と思い通りに事は運べないのが世の摂理か。
娘を高倉天皇に入内させるなど権力体制の磐石化を急ぐあまり強引な手法が増えた。
各方面からの不満や批判を押さえつける為に徐々に荒い方法を取らざるを得なくなる。
それは負の連鎖を生み、ついに爆発。
後白河上皇との対立構造が明確となり泥沼の政治抗争が行なわれた。
上皇とひとまずの勝利を迎えるも平氏の専横を討つとして各地から挙兵。
これらの反乱を後手に回りながらも抑えていくが火種を消すに至らず、
反平氏を謳う興福寺など南都の仏教勢力からの支援が大きいとして攻撃を決意した。
リアリストたる清盛ならば『仏敵』となるデメリットは分かっていただろう。
都周辺の反乱を治めきったが、次の戦いはそこから芽吹く。
……東国にて源氏、ついに挙兵す。
※藤原から平氏へ、平氏から源氏へ歴史の転換期。
多くの戦絵巻、戦記物が記される源平合戦、平氏追討の始まり。
※仏教の描写が悪いですが、作者は仏教に対して
含む所が無い事をここに記しておきます。
小説なのであくまでフィクションです。
(追記)8/19
法皇→上皇に修正。