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まさかど……武士と神威






日本という土地は、残念ながら有限だ。

けれど、そこから得られた税によって貴族は生活する。


朝廷が安定し、貴族達が増え始めた頃からそれは問題になると分かっていた。

増えすぎた上級貴族へ俸給を支払うのに必要な税を搾り取れる田畑が無いのだ。


それから税の免除をぶら下げ開墾、墾田が国家プロジェクトとして進められていったのだが、

初めは自らが開拓し耕した土地であっても律令制の名の下にいずれは収公され

結局は国の物となってしまう事でやる気を削がれた農民や豪族たちは

開墾に意味を見出せなくなってしまった。


そうして出てきたのが私も名前を覚えていた『墾田永年私財法』である。

簡単に言えば自分で開墾した土地の私有を期限なく認めます、という法律だ。


これによって中央貴族や地方豪族などが土地を手にし、

それぞれの基盤となる本拠地を築いていくことになった。


荘園が出来るまでの簡単な流れはこんなところか。




そして荘園を外敵から守り維持するために地頭などが武装したのが武士の起こり。




この歴史でも、始原の武士平将門(たいらのまさかど)は立ち上がった。

国司より印鑰を奪い自らを『新皇』と称し東国に新たな国を立ち上げたという。


知る者からするとさもあらん話だ。


彼は東国生まれと中央で蔑まれたが一生懸命に仕事に励んだ。

誰もが彼を有能であると理解しながら彼の出世を阻んでゆく。

利を取り合う政争、更には平氏一族の派閥争いに巻き込まれ、

この国を治める全てに対し失望し、絶望する。


どれほどの葛藤や苦悩がそこにあったかは本人でない私には解らない。

しかし『朝敵』と呼ばれ何もかもを敵に回しても彼は立ち上がったのだ。



……そして、敗れた。



鶫鳴女によると、強い念から怨霊と成り果て東へ飛び立っていったそうだ。


平将門の乱は、これで終わったわけではない。

新たな波紋が日本を覆っていく。






第二の将門と成り上がる為に各地で武力の囲い込みが行なわれ政治が乱れに乱れた。

中には中央に忠しているはずの国司も巻き込んで行なわれる無法もある。


力の無い領民はその歪みの皺寄せに搾取されるだけ。

それは私の土地でも例外はなかった。


何かが切れたのだろう。




私は、もう何百年も忘れていた『怒り』という感情から祟った。




将門は確かに『朝敵』となった。

けれども彼は領民に慕われていたのだ。

何故なら、彼は自らの民のため、立ったのだから!


武力を蓄えるのは別に構いはしない。

しかし、民を蔑ろに私服を肥やそうとする行為は許せぬ。

為政者が野望を果たすなら政を果たした上で行なえ。




……私は自分でも思わぬほど、平将門に共感していたようだ。


国司の館と地頭衆の集まる荘に嵐を起こし、警告してようやく頭が冷えた。

農業に影響の出ぬよう収穫後の時期に暴れた私の無意識に感謝したい。


自分でやっておいてだがお詫びに田園修復や土地の祝福と仕事に精を出しながら思う。

久しぶりに暴れたな、と。


これまでも野盗や中小の祟り神相手に力を行使する事はあったが、

戦いに於いて山犬が優秀すぎるので最近は力を振るう機会がなかったからだ。

力加減が上手くいかず被害を見ると正直やりすぎてしまった感もある。



当然、山犬と鳴女一族、配下神霊一同から怒られ……るかと思えばそうでもなかった。



修復作業について、あれこれと言われるだけで暴れた事に関しては何も言わない。

不思議に思っていると一通の手紙が風に乗って私の元に届いた。

それは単なる手紙というには少々枚数が多かったが……。



「理不尽に対した荒ぶる神威に民は感謝しています。

 これでより貴方を必要とし信仰を捧げてくれるはずです」



前置きにこうあり、そこから修飾と婉曲表現が多いので要約すると


永きに渡り民を守るには力を維持し続ける必要がある。

性格的に神力を振るう事を躊躇うだろうが時には見せ付けるべきだ。


鞘に納められ続けた刃はいずれ畏れを失う、そう書かれていた。


直接的に自分の力を見せない私の、信仰低下を憂いてくれている。


もっとも、それ以降の文章はひたすらに暴れた後の処理や、

感情に身を任せてしまった浅慮、力を持つ者の責任について

事細かに数枚何十行に渡っての説教が延々と懐かしい書体で綴られていた。



鶫鳴女があまり私を怒らなかったのはこれがあったからか。

変わらない厳しさを嬉しく思う。



















『こうして諫め咎める者が私には必要です。見る事も叶わぬ貴方のような』



和歌を詠んで便箋にしたため、墨の乾きを待って紙飛行機を折った。

そっと外へ放ると風でフワリと天に舞い上がり飛んでいく。


良く晴れた、真冬の空を切り裂いて。




※前の話で武士とか触れてるのに発生について書いていなかったので

荘園の発生まで遡ったのと将門公。産土神化して東の霊的要になるお方。


※主人公のと雉鳴女の文通がはじまりました。

 内容は9割小言に1割の褒め。

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