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  杜人閑話……藤井教授講義『杜人神刀・天下六剣』




「え~、君達は『天下六剣』あるいは『天下六名刀』を知っているかな」



「歴史小説や、あとは、漫画などで聞いた事があるかもしれません。

 数ある日本刀の中でも様々な云われ、伝説を持った名刀達の事です」



「ん~、あれの名前なんだったかな、戦国武将でバッサバッサと敵を切り倒すゲーム。

 ゲーム自体の歴史考証とかは無いようなものでしたが、その使用武器に名前があったので

 そういうサブカルチャーに親しんでいる人は私より詳しく調べてる人がいそうですね」



大典太光世(おおでんたみつよ)童子切安綱(どうしきりやすつな)鬼丸国綱(おにまるくにつな)三日月宗近(みかづきむねちか)数珠丸恒次(じゅずまるつねつぐ)

 そして私が講義するのですから薄々分かっている人もいるでしょう、神降(かみふり)嘉平(かひら)

 刻まれている正しい銘で言えば、杜人神刀嘉平(もりひとしんとうかひら)の六振りが天下六剣と呼ばれています」



「……で、どうして先週の内容を無視してこんな話しをしているのか疑問に思っているでしょう」


 

「なんとですねっ、昨日の夜に日本文化財科学会からお電話を頂いて

 土曜日に神降嘉平の現物を拝見させてもらえる事になったんですよ!

 いやぁ~、持つべき物はコネを持った友達ですね、所属してて良かった~」



「ですから、この喜びを伝えたくて今日は予定していた講義をスキップし

 杜人神刀に関する由来や逸話を君達に勉強してもらう運びになりました」



「サッとどういったものであるのか触れておきましょう。

 『神降嘉平』製作年はおよそ9世紀前半、日本刀と呼べる物が成立した時期ですね。

 この時代の刀剣類は錆びや破損していたりと殆ど現存していないのですが、

 何故か錆びや歪みが無く、1000年以上経過している鉄器にしては異常に劣化がありません。

 ですので、美しい刃の芸術性だけでなく歴史的な価値からも文句無しの国宝認定を受けています」



「製作した刀工は初代雑賀嘉平(さいかのかひら)と言われています。

 初代とあるように、彼は複数人の弟子を取り自分を継ぐに相応しい者に名を継がせました。

 『何とか嘉平』と銘打たれた刀が色々ありますが、それらは彼の一派が鍛ち上げた刀です」



「多くの門派が一子相伝であったりするのに比べ、多くの弟子を篩いに掛けて厳選し

 高い鉄鋼加工技術を保ち続けていたのが当時としては特徴的ですね。

 鉄砲の複製や高品質化は彼等が居なければここまで上手くいかなかったとも言われており

 傭兵集団として有名な後の雑賀衆発生にも大きく寄与して行く事となります。」



「え~、そんな一大勢力の祖となった彼、実は極々平凡な農民だったそうです。

 その頃は大陸への守りとして九州に兵役に行く義務、労役が課されていました。

 そう、『防人(さきもり)』です。 ちょっと前にやりましたが憶えてるでしょうか」



「行くも帰るも昔は大変で、危険に溢れていました。

 ですから、帰れずにそのまま九州に居着いてしまう人も大勢いたわけです」



「そんな中、嘉平は刀剣の美しさに魅せられ刀鍛冶に弟子入りします」



「北九州は大陸からの技術流入とあわせて当時最先端の工業地帯でした。

 鉄の入手が他の土地に比べ容易だったのも味方していたでしょう。

 人夫不足から故郷へ帰れなくなった防人の雇用にも積極的だったかもしれません」



「弟子入りした嘉平は九州で30年掛けて刀剣製作のノウハウを取得。

 そして、生まれ故郷である雑賀の地へ帰還を決意します」



「何故、危険を犯してまで彼は故郷を目指したのか。

 鶫草子の記述によれば、嘉平は代々杜人綿津見神を信仰しており

 自らの刀を奉納したいが為に30年の修行を積んだ、熱心な信奉者だったそうです」



「故郷に戻った嘉平は全てを投げうって鍛冶場を作り、一心不乱に何十と刀を造り続け、

 ようやく神に捧げるに足る一振りが完成……というところで『神降嘉平』最初の逸話、

 杜人神語鶫草子収録『杜人神刀』の見所、杜人綿津見神の降臨となるのですが……

 あ~、順番間違えましたね……次の講義は『杜人神刀』をやりましょう。 うん、やりますよ」



「まぁ、要約して教えますと、神様直々にお褒めの言葉を貰い、

 刀に銘どころか署名まで刻んでもらって嘉平はますます信仰を厚くする、と」



「こうして奉納刀『杜人神刀』が完成したわけです」



「杜人神社に納められたこの御神刀は様々な逸話を生み出します。

 本来の銘より有名になってしまった『神降(かみふり)』を元にして」




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