表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/99

しんとう……その刃のうつくし



唐突だが、日本では鉄鉱石の入手が困難である。

大陸のように鉄鉱石が豊富なわけではなく、鉄器は高級品の証だ。


制限された資源によって、日本の製鉄技術は独特の進化を遂げていく。


それが、砂鉄から純度の高い鉄を還元する『たたら式』製鉄だ。


更に、より良い物を作れないかと切磋琢磨し鉄器を作る内にある到達点に至る。

『折れず』『曲がらず』『良く切れる』最高峰の刃物。


日本刀の登場だ。











昔から九州や山陰地方で刀剣類の開発が行なわれていたのは知っていた。


残念ながら私のお膝元では鉄鉱石どころか砂鉄すら碌に手に出来ず

鍛冶工房は申し訳程度の規模のものが領地内に二箇所しか存在しないのだ。


鉄製農具による農業振興策は始まる前から頓挫してしまうほどにどうしようもない。

……この構想、当時は雉鳴女、今は鶫鳴女に呆れられている。

鉄がここまで高級品過ぎるとは思わなかった。……少々脱線してしまったか。


今までに見た事のある刀剣は両刃であったり、片刃とは言えど直刀だったりと

自分のイメージにある『日本刀』とはちょっと違うものしかなかった。

あくまでも刀より剣の範囲にあるものが多かったと思う。






しかし、今、目の前で陽光煌かす白刃。

触れれば即ち斬れる、これこそ日本刀。


鍔も柄も何も無い。

純粋に刃金だけが台座に鎮座している。







私は河川の鉱物汚染が進行していないか定期的な製鉄工房の視察を行なっていた。

最近は人間にあまり干渉しすぎないよう、影から鳴女達が見守るだけであるが。


今日は何故か鶫鳴女から私に赴いて欲しいとお願いされたのだ。

断る理由もなく、山犬に乗って来てみれば、立派な刀が目の前にある。

今朝方に鍛ち上がったばかりの刀であるそうだ。



老鍛冶師は刃越しに平伏し、恐れ多くもと前置きをして語りだした。



防人とし九州へ派遣された際に刃の美しさに魅せられたと。

それから異国の地で鍛冶を学び、ようやく祖国に帰ってきた。

先祖代々杜人綿津見神を信仰しており、私の為の刀を打った……らしい。



青年が一人遥か九州の地で修行し、老人となるまで研鑽を積み、鍛ち上げた奉納刀。



私は言葉を失ってただ刃を見つめた。


私には刃物の良し悪しなど解らない。

けれども気圧される程に真っ白な想念を刀身から感じる。

雑念の混じり気もなく、純粋に良き物を作り上げようとする心が生み出した物。


ただ、見事、としか言えない。




漏れた言葉に老鍛冶師は涙を流して喜んだ。


信仰している神が目の前に顕れた上に

自らの捧げ物に最上とも言える評価を貰ったのだ。


驚きと喜びに打ち震え、ありがたい、ありがたいと繰り返している。




ここまで熱心に信仰してもらっているのなら何か応えて上げたい。


名を聞くと雑賀(さいか)嘉平(かひら)と言うらしい。

私は奉納刀の(なかご)(柄で覆う部分)に『雑賀嘉平之作 杜人神刀』と刻んだ。

そして裏面に慣れぬ漢文で、その作り見事なり、と書いた後に

『杜人綿津見神』と私直々に褒めたぞと署名もはっきり刻んであげた。


……老人の大喜びする様は、もう死んでしまうのではないかとこちらが慌てるほどだった。














後日、刀はシンプルな鞘に納められて杜人神社に奉納された。


錆びたり劣化したりするのがもったいなく感じたので、

実験的であったが、私の霊力を割いて刀身を保護してみることにした。


そしてこれ程までに優れた技術が失われるのは大いなる損失なので、

しっかりと技術を継承させてゆく事をお願いする。


弟子を取って技術を守れと。











これが後の鉄砲複製に多大なる影響を及ぼすなど、私は知る由も無かった。





※日本刀って鳥肌が立つほど綺麗ですよね。震えます。

日本人なら刀剣博物館は一度訪れてみるべきだと思います。

御神刀という響きは厨二病精神が反応する格好良さ。


※雑賀……鉄砲……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ