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おはなみ……桜は誰が為に








今年も山桜が咲いた。



近代のように覆い尽くすような花吹雪とはいかないが、

春の山を程よく彩って美しく、これはこれで風情があった。


私がどうしても見たいからと、

桜の木を贔屓して祝福してしまったのは日本人の(さが)だろう。

桜は樹木の中で強い種類ではなく、むしろ病気や湿気、虫など弱点が多々ある弱い木だ。

それがこのように見事な花を咲かせるから、心惹かれてしまうのか。


そして、農民は桜が咲く事で田畑に種を撒きはじめる。

『種蒔き桜』と呼んで一年の農作業が始まっていく。


彼等にとって桜は新たな命を運んでくる先触れなのだ。






桜と、上手い酒。


それだけ揃えば後は何をせずとも花見になろう。

今年はそれだけで終わらせる気はなかった。


人も、神も、妖も、


皆が春を祝う、神遊び。







特に桜が多く景観の良い高台に私は陣取った。


身分どころか種族の垣根も取り払って

ただ今年も春が来たのだと騒ぎ合うのも一興じゃあないか。


そう言って山犬、鳴女の一族、祖霊衆、官民、農民、漁民も席を共にし杯を掲げ、

陽気に誘われた地霊や妖怪達もそろそろとおっかなびっくり輪に入る。


(つぐみ)花鶏(あとり)真鶸(まひわ)など、鳴女の喉自慢が歌を披露し、

黄鶲(きびたき)が歌人俳人の真似をすれば、(かけす)がおどけて旅芸人の真似をする。


やんややんや、春を謡えと。











鳴女の一族は基本的に裏方だ。

自ら表に出る事はまずないだろう。


昨今の神霊に対する畏れや信仰の低下は確実に彼女達にも影響を与える。

そして、それは日陰者の彼女達には致命傷となりかねない。



歌鳥桜(かちょうさくら)祭りと称して表舞台を作ってあげたかったのだ。



信仰を得るのとは少し違う、『そこにいる』と認識してもらうだけの祭りだが

私が呼び、それに応えた者共という事で私との関係性を強くし

二次的な信仰の流れ先となって鳴女の助けになるのを狙っている。


ついでに鳴女達のように自らを出すに至れぬ小妖怪たちにも効果を期待していたり。


私達神霊以上に人が無くては存在が保てぬのが哀れだったのと

痛みを伴う教訓的な神秘(妖怪)は人間の倫理観を育てるのに必要だと思ったからだ。




……まぁ、それらは結局言い訳で、実際は失われていく者に対しての感傷なのだろう。




既にそうなった者が居たから、私は新たな神遊びを実施したにすぎない。


近頃は段々と自分本位な、

とても神と呼ばれるに相応しくない行動が増えてきたと自覚している。


民の為、民の為と言い訳しては、私の手から離れるのを怖がっているだけ。

面倒を見てやると言いながら己を他より高い位置に置いておきたいだけ。


これは自分勝手な考え方だと思う。











さくら、さくら。


美しい花と醜い私が良いコントラストだろう。


誰もが心を喜びに沸き立たせ、歌い、踊る。

仕事詰めでストレスもあったのか、鶫鳴女は一際目立っていた。

鳥の歌は可愛らしく、曲飛行は幾何学な軌跡が美しい。



……こういう風景をずっと見ていきたいな。



その為ならこの醜い我が儘も許されるだろう、なんて自己弁護をしながら私は桜を見上げた。













何処からか雉の歌が聞こえる。


あぁ、もしかして全ては君の為だったか。










※お花見は日本人には欠かせない。


※鳴女や小さい妖怪を保護する為に神遊びを開きました。

その実、雉鳴女の為。

会いに行くと言って作中で何年も既に経過してます。


※主人公が段々と神らしさを失っていくのを危惧してます。

元々そうでもなかったですが、神らしくあらねばならなかった昔と違い、

民が神を必要としなくなってきた事で元の人間色が強まってきたようです。

このことは一体何に影響するのか。

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