杜人閑話……雉の行方『罪と罰』
国津神に代わる国家鎮護の方法。
それは、私たち弱い神霊が存在価値を失う事。
それでも千切れそうな心を押さえながら私は職務に励んだ。
……大丈夫、私は、鳴女の一族は、まだ『必要』とされている。
そう自分に言い聞かせるようにして、不安を振り切るように仕事をこなした。
けれども、神道派と仏教派の対立が激しくなるにつれ、
私たちは冷遇され、あろう事か裏切り者と疑われる始末。
……私っ、私は、私はずっとあなた方に仕えてきたのに!
『必要』としてくれて、私に『居場所』を創ってくれた王に報いてきたのに!
これが、この仕打ちが、数百年の忠誠への、答えなんですかっ!
私は神道派へ付く事となる。
そして、各地の国津神、土着神へ協力を要請するために鳴女の一族の戦いが始まった。
元々、鳴女の一族は『居場所』を欲した弱き神霊の集い。
私たちは立った。
『必要』としてください、とただそれだけの願いの為に。
私は、真っ先にある神の元へ訪れた。
民と共に悩み、困っている者がいれば助け、義を知り裏切る事はない。
あの優しき賢神杜人綿津見神の元を。
彼ならば、きっと私の気持ちを分かってくれる!
初代王と同じような優しさで、私を、私を、きっと助けてくれるっ……!
……彼の困った様な顔に、私は血の気が引くのを感じた。
その時の私はこの上なく浅はかで、醜悪で、見るに耐えぬ愚かさを呈していた。
己の都合に彼の『優しさ』を利用し、侮辱していたのだ。
私は、なんと馬鹿な事をしてしまったのだろう。
もっとも卑劣な方法で、彼の信用も、信頼も、何もかもを裏切った。
そしてそれは、過去に決別したはずの『汚い私』そのものだった。
結局、私は何も変われてはいなかった。
繕った『清さ』でただ表層を覆っただけの愚劣で醜い存在のまま。
もう、彼の顔を見る事は叶わない。
顔向けできぬ、とはまさにこの心境を言うのだと知った。
別れの際の彼が言った、鳴女の一族を受け入れるくらいはできる、という言葉は、
その気遣いは、その優しさは、その温もりは、私の心を強く突き刺した。
それからはただ、薄汚いただの一羽だったあの頃と同じく、ただ必死だった。
必死であることで、何も考えぬようにして神道派における己の役割を果たした。
そして、御左口様の大禍刻が全てを侵す。
こんなはずではなかった。
こんなことをやろうとしたわけじゃない。
こんな、こんなはずでは……。
神道派はこの失態で悉くが失脚し、敗北した。
そして、被害が杜人綿津見神の領地にも及んでいると報告を受けた時、
私は二度と彼に受け入れられる事は無いと悟った。
御左口様と交渉したのは私であり、この災いを呼び起こしたのもまた、私なのだ。
それでも、私は、鳴女を率いたものとして、
恥知らずを承知で彼の優しさに甘える。
一族の身の振り場所として、彼の言葉を頼って一族を落ち延びさせたのだ。
……醜い、なんと醜い心根の持ち主だ雉鳴女よ。
夜毎に私を罵る声が聞こえる。
これは私の罪の意識が生み出した己への罰だろう。
自ら死を選ぶ事なく、許されたがっている、醜い私への。
贖罪と称して鶫鳴女を通し彼の仕事を陰ながら手伝う。
決して知られぬよう、見つからぬよう、今まで得た全ての能力を用いて隠匿する。
この行為の実に浅ましきこと。
結局は、ただ『繋がっていたい』という欲望。
そうと知ってなお欲するのを止められぬ己。
世界で最も嫌われ者の私を、私は他の誰よりも嫌いだ。