かんぬし……穏やかなる日々
移民、移霊(?)も終息し、目的無く国を散歩できるまでになったが、
中央は相変わらずの政争政争のループで大変らしい。
政争によって建てられる事になった寺を眺めながら
自分がそこまで偉くなくて良かったと思う。
今の私の立場を考えると、地方公務員に近いだろうか。
もっとも、私は大和の神ではないので第三者的な面もある。
この寺はきっと私の監視と抑えとしてだろう。
……しかし、建材や職人が足りてなかったのはどうかと思う。
力を誇示する気は無いが、大和と敵対意思を見せたこともある上、
引き分けまで持っていった実績を持つ相手を抑えるのに、
拠点も満足に作らないとは、馬鹿にされてるのか、中央が馬鹿なのか。
政争やってる暇があるならしっかり地盤を固めろと思う。
派遣されている官僚や法師達の絶望した顔が可哀想だったので
思わず寺の建立を手伝ってしまった。
霊の迫害を防ぐためにも神道と仏教で仲良くしたいし。
やはり現場の人間は道理が判る者が多い。
彼等としても、神霊が溢れるこの地方都市は恐ろしいのだろう。
仏心の加護があったとしても数に引くらしい。
私から集めたつもりは無いが、御左口異変から私を頼って人(霊)が増えた。
お互いが尊重し合うことが幸せな未来に必要だ。
私の祝福を受けた寺は異なる信仰が混ざり合っていて、
ここから生まれる風は、陰陽問わず気を鎮める効果がある。
護国鎮護とはこういうものだろう。
争いの起こらぬ気風を作る事。
人も妖も、共に善き方へ歩こうという祈り。
これは神道と仏教の融合でしか成しえないだろう。
私は、私が提供した釣鐘が取り付けられる作業を眺めていた。
時刻の概念を定着させるにちょうどよいと、気合を入れた一品だ。
「杜人様、ここに居られましたか」
振り返ると壮年の男性。
彼は杜人神社の神主である。
最近は神霊を相手に話をするよりも対人間の交渉が増えてきた。
私や山犬が常人の前に立つと霊力と畏れで話も碌に出来やしない。
気を使って力を抑えると今度は私が疲れてしょうがない。
すると、鶫鳴女が神威を代表する神主を立ててはいかがか、と提案してくれた。
私はモリトの血筋の中で、最も私との交感力の高い人間を選んだ。
それが彼だ。
人間の居なかった我が神社も、すっかり神社らしくなったものだ。
ちなみに分社である綿津見の御社は彼の娘達を巫女として保守管理を任せている。
「鶫鳴女様が農地開拓について御話しがあるとの事です。
他にも中央で動きがあったらしく本殿でお待ちしております」
中央に居場所を失っているにも関わらず、鶫鳴女は詳細な情報を集めてくる。
昔の伝手がどうとか言ってはいるが危険な事をしていないか少し心配だ。
その上、内政の手腕まで発揮し始めている。
休みを与えても、何故か仕事をこなしているのでワーカーホリックを疑う。
本当に色々な意味で心配になる娘だ。
果てさて、今日はどんな報告が待っているのやら……。
私は神主と共に彼女の待つ本殿へと帰っていった。
※神社が出来ているのに神主が居なかった。
主人公自身が祀る側の人(霊)だったので今まで気付いていなかったのです。
※モリトの血筋はちょっとした加護があります。
作物の育ちが良いとか、運が良いとか、水当たりを起こさないなど。
かなりの信仰を集めている主人公の力が流れ込んでるからです。
ミシャグジと同じで、共同体である意識が集合的信仰の受け取りに繋がってます。