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しんかく……森羅万象ミシャグジ様の畏れ




日本は数多の神霊、八百万の神々が息づく土地。


その数え切れぬ神の中でも、飛び抜けた存在がある。




もっとも有名な所で天照大神が上げられるだろう。


太陽の権現と分かりやすく信仰されているのも強みか。

私では相手にもならぬ気がする。




しかし、もっとも恐ろしいのは御左口(ミシャグジ)様で間違いない。


得体の知れない、不可解から生まれる畏れを信仰の源とし

誰も捉えきる事は叶わず、断ち切る事のできない原始の顕現。


自然への畏れに潜む、祟りの力。


それは岩も樹木も関係なく、蛇や鼬などの小動物に至るまで

人に神秘や畏れ抱かせた森羅万象全てに発生しうる『現象に近い』神なのだ。

むしろ自然がソレであると言っても良い。


そういう意味では王樹様ですら御左口信仰の端末の一部であったかもしれない。


一つ一つは微細かつ矮小な霊に過ぎない。

群体であり単体でもある、顕れるが姿はない、影に潜む神。

有象無象の極小な八百万の霊は『御左口』の名において信仰を得る。

それはすなわち御左口様そのものが信仰を受けるのと同義であり、

日本そのものが御左口様の領地と言えなくもないのだ。


人間霊上がりの私は存在を理解した瞬間から思わず様付けにしていた。




天照大神が陽の極限ならば、


御左口様は陰の極限であろう。




神武東征の折、御左口様はまったく動かなかった。


何故ならば御左口という現象を滅ぼすには人間と神霊、

畏れを抱き信仰を生み出す全てを滅ぼさねばならぬからだ。


本拠であろうとも眷属は末端でしかなく、潰されようと痛みは感じない。


些か五月蝿いと少々の祟りを引き起こしただけで、

いつものように粛々と影たる存在でいたのだ。

誰がどの土地をどのように治めようと、御左口には変わりはない。


それをもって朝廷は支配していると喧伝していたが、愚かな事だ。


猛虎の眼前に腕を差し出しているのと同じで、

たまたま見逃されているだけにすぎないのだから。




雉鳴女は、御左口様の元へ行くと言っていた。


御左口様に動かなくてはならない積極的な理由は無い。

仏教が広がろうが国津神が冷遇されようが、関係ないからだ。


しかし、万が一、もしも僅かな信仰の減少に対し祟るとするなら……

日本最古、日本最大、日本最強の凶つ神となり大厄災を引き起こすだろう。


果たして朝廷だけに留まるだろうか。


もし、私の国にも祟りが及ぶようであるならば、

私が御左口様を鎮める事も覚悟せねばなるまい。


雉鳴女に国津神を見捨てたと罵られようが軽蔑されようが阻止せねばならないのだ。




発生するリスクを避ける最善手……、

今すぐに山犬を放ち、彼女を殺し、後続の伝令も悉く殺してしまえば。

そうすれば御左口様は動かぬだろう、と。


私は私の中で自然に生まれ出でた冷たさを感じていた。




……だが、私はそれを実行できなかった。




あの日の震える声が思い出される。


彼女に対する罪悪感が、彼女を見逃したのだと、私は思った。


雉鳴女には死んでもらいたくはない。

その気持ちだけは確かだった。


私は、民を守るためにどうすればよいだろうか。







私は東の空を仰いだ。


私の心は『交渉の失敗』と『彼女の無事』という、複雑な願いで揺れていた。




※邪神みたいに描写して見えますが、そんな意図はないです。

自然の力に対する原始的な信仰がミシャグジ。

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