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うらぎり……仏の理と去りゆく雉




渡来人から様々が文化が流れてくると同時に、

大陸伝来の宗教が西国の民衆の間で広がりつつある。


すなわち、仏教。







新たな『概念』の流入は元より日本の各地を治めてきた百鬼神霊の悉くを激怒させ、

その余波は九州より遠く離れた私にまで影響を及ぼしている。


妖怪化生は善も悪も内包し、畏れを持って力と成す。

曖昧や混沌とは我々神霊の類の本質に近くもある。


善のみを良きとする信仰で力を得た人間の反抗は、

陽だけを求め、陰の存在を許そうとしなかった。

霊的存在が駆逐されかねない事態となっている。


それに拍車を掛けているのは今代の大王であるらしい。


大陸の王から関心を買う為に日本での信仰を後押ししたいそうだ。




久方ぶりに杜人神社に現れた雉鳴女から中央の状勢をこうして耳にしたとて、

私は行動を起こす気にはなれなかった。


歴史を知っている身からすれば、仏教は日本の統一に一役買うし、

神仏習合は沢山の文化的遺物を失わせたものの多様性や寛容に富んだ宗教観の育成に繋がるのだ。


結果として、民の為になるのではないか……?


その考えが私を絡め取ってしまっている。


政治を行う朝廷の官吏の中でも仏教派と神道派で割れており、

仏教派は大陸の進んだ技術と文化で豊かな国を創る為の足掛りとすべきだとし、

神道派はここまで治められたのは国津神のおかげであり彼等を蔑ろにすべきでない、

……と対立を深めている。


鳴女の一族は大和朝廷に付く神霊の中で古参に当たるものの、

伝令や雑事を主に行う能力は秀でているが霊力が弱く、

権力者の間を飛び回る姿から相手方の間諜ではないかと疑われ、風当たりも酷いらしい。


今回、私を訪ねたのは数多ある土着神の中でも

八咫烏を操る(ヤマト)の軍勢と互角以上に戦い、屈服させることが叶わなかった神に

神道派勢力の復権へ協力をお願いしにきたわけである。




……彼女には大変世話になった。


なんとか恩に報いてやりたいが、どうしても協力できぬ理由が幾つかあった。




一つは戦力として。


王樹様から受け継いだ力と積み上げた信仰を持ってしても

いまだに倭大戦時の王樹様からすれば半分程度の戦闘力しかない。

天照大神といった主要神は大王側、つまり仏教許容派であろうから

使いである八咫烏にすら勝てぬ私では勝ち目が無い。


そして、次の理由が致命的だ。




二つ目に、王樹様の力による行動領域の制限。


受け継いだのは単なる霊力だけではなく性質に近い部分も継承しているのだ。

ゆえに農作物に祝福を与えたり、水利を操るなどが可能となっているが、

大地に根を張る大樹の性質により、信仰を得られる地域に縛られてもいる。

守る事に特化しているため中央まで出向いて攻勢に出られない。




最後に、民に降りかかる被害。


勝敗の如何に関わらず、民に負担を強いる事となる。

私は私が神たらんとする為に神として振舞っているわけではない。

その気持ちを忘れた私はただの害悪と成り果ててしまうだろう。

民を守る責任が私にはある。やぶれかぶれにもなれない身だ。







全ての理由を話し、私は雉鳴女に、


積極的な協力はできない、と伝えた。




彼女はしばし瞳を閉じ、

それから震える咽喉で口を開く。


凛と澄んで良く通る声は、この時ばかりはか弱い少女のそれだった。




「……貴方が、『私心』を持たぬ神であると忘れていた無礼、お許しください」



努めて涙を零さぬよう、気を張り詰めているのが表情から窺える。


私は、『通るかもしれない』だけの歴史を免罪符に、彼女の期待を裏切った。


自惚れでなければ、私と彼女は互いに信頼し、互いに尊敬し、

良きパートナーとして気の置けない、良好な関係を結んでいたのに。




私は彼女の心を裏切ったのだ。


罪悪感が心に染みをつくってゆく……。





「そのような顔をなさらずともよいのです」



「卑怯にも情に訴えた私は、貴方の高潔さを利用しようとした」



「私は、私が許せません」




失礼します、と硬い声で会釈し背を向けた彼女を引き止めたくて

とっさに声を上げていた。


これからどうするのですか、と。




「東国の御左口(ミシャグジ)様に協力を要請しに行きます」




私は山犬と共に彼女を見送った。


初めて会った時とは異なる余所余所しさを感じさせる彼女の背に、

何かあれば一族を匿うくらいはしてやれる、と告げるにとどまった。



彼女はこちらを振り返らなかったが、足が止まった。


……記憶にある中で最も永い一秒。




彼女は再び歩き出す。










私は去ってゆく雉鳴女に二度と会えなくなるような、

そんな悪い予感がしていた。




※仏教は菩薩だとかが直接表に出てくるのではありません。


 その偶像に対する信仰が僧侶へ与えられ、力を行使する形。

 仏達の本体というか本拠地はインドとかですから。

 広まった教えに対する集団の意思が信仰と同じ力として代行者の僧侶に譲渡されるわけです。集合知の力。


※雉鳴女ですが、どうしてこうなったのか。

彼女は主人公ならきっと力になってくれると思い、やってきました。

民の声を聞き、滅多に願いを断らず協力する優しさから

仲が良い自分がお願いすれば聞き入れてくれるはず……と心の片隅で思ってしまっていた。

常日頃、己の領民が豊かになるようにと私を殺すように行動してきた主人公との考えのズレに気付いた彼女は、知らず主人公を侮辱し裏切ろうとしていた事を気に病み、生真面目な性格ゆえに自分が憎い状態になっております。


※心理描写が下手なので、こんな感じになっている……としてください。

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