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たわむれ……神遊びは如何にしてなるか




娯楽の少ないこの時代、

『神遊び』は民と神の繋がりを強める意味も含めて

領民全員がその日を楽しみに待っている。


民が太鼓を鳴らし喜びを踊り、私も美しい紅葉を風に舞わせて彩りを加える。

神と人が一体となるそれを『神遊び』あるいは『祭り』と呼ぶ。


以前から山では『杜人(モリヒト)さんの神遊び』と名付け、秋の収穫を祝い、

私も人と混じりながら食を供して来年の豊作を祈願している。


海辺に御社を建ててからは春先の漁開きと合わせて

安全祈願の『綿津見(ワタツミ)さんの神遊び』も追加された。

その年一番に取れた魚を皆で分かち、海への感謝を新たにするのだ。


これらのお祭りは民を慰撫するに絶大な効果を発揮しているが、

思わぬ問題が噴出する事となった。


どうにも昔から原因不明で山の民と海の民の仲があまりよろしくなかったのだが、

漁民の神遊びが開かれるようになって数年経つと、更に悪化し始めたのである。




どうやら海の民に神遊びが開かれず、疎外感を感じていたのが問題らしい。


杜人の神は山の者だけを優遇している、と思われていたのだ。

確かに農地開拓など私が直接的に手を貸せる部分が多い農業に比べ、

漁業に関しては技術開発といった見えにくい部分以外は漁師自身の腕次第な所が多いため親密に協力を取ってはいなかったと振り返り反省した。


そして海の民へ綿津見の神遊びが執り行われ始めたが、今度は山の民が面白くない。

特別だと思っていた自分の場所に人が増えるのを良くは思わなかった。


こうして対立が進み、下手すると喧嘩ではすまなくなるかもしれない事態まできた。

この事を山と海を治める各々の長達に詫び、己の不徳であったと頭を下げた。


杜人も綿津見も、どちらも私、同じモノである。

信仰が分かれた結果、神が2人になろうと構いはしなかったが、

そのために民が争いを始めるのならば諌めねばならない。




私はそれぞれが同じ根に則していると示すために

杜人綿津見神(もりひとのわたつみ)』と再び名を改めた。


そして、山の顔、海の顔が合わさるよう新たな神遊び、

合神(あわせがみ)の祭り』を開く事を決めた。




合神の祭りは、その地域の山の民と海の民が集まり、

互いに収穫物や生産物を持ち寄って豊かさを祝おうというものだ。


これは最後の収穫が終わり、本格的な冬が始まる直前に行う事とし

山は穀物や乾燥果実を醸した酒を、海は脂の乗った魚や旨味の濃い乾物を持ち寄り

それぞれがその土地で頂いた全てに感謝をして一日を共に過ごすのだ。


信仰地域が広く、一日では全てをカバーできないため、

東から西へ3日間、私が行脚することになる。


日課の王樹様への祈りの為、本殿に戻り続けるのを思うと

ハードスケジュールに怯みそうになるが、民の為なら骨を折るべきだろう。


この神事は他とは違う特別さを感じさせる為に4年毎に執り行うと定めた。







第一回の合神の祭り。


まだまだ完全に融和できたとは言えないが、かつてない規模の神遊びは

女子供も含め、参加者全員が一つとなって豊かさを喜び、仲間意識を高める事ができた。


期待していた通りの効果が出た事に私は安堵し、

難しい問題を解決できた達成感に包まれながら祭りを楽しんでいた。


夜明けには東から西へ、神が渡るのを見送る山も海も混ざり合った人の列が組まれ

私は山犬の背に跨って民の導くまま次の祭りへ、次の祭りへ、と運ばれていく……。




合神の祭りは非常に楽しめたものの、

私と山犬は祭りの後で疲労困憊とだらけていた。


毎年やると言っていたら後悔しただろうな、と山犬に思わず零すほど疲れたのだ。


夜半に気付かれぬよう本殿と往復するのは

如何に霊の身体とはいえ堪えるものだった。







第二回の合神の祭り。


祭りの為に作っていた!……と渾身の出来の酒や、この上ない絶品の干物など、

お互いが私への奉納品を競い始めていた。


争うというよりは高め合う好敵手の様相。


私に喜んで貰う為の切磋琢磨なので互いを褒めてやり、

この年の合神祭も非常に満足できた。


酒の席で去年を思い出し、移動が大変だったなと1人ごちたの聞かれていたのか、

地域間の移動は、山犬様も疲れるだろう、と共に神輿に担がれて移動する事になった。







第三回。


この日のために、4年かけて……な奉納品が多数。

食品加工の技術的な進歩が色んな場所に窺えるのでちょっと複雑な気持ちになった。

お祭りで発展するとは思っても見なかったから。


そして、移動に使った簡易的な神輿が山の民によって立派な神輿となっていた。

質素でありながら貧相とは思わせない静かな調和……。

渡来文化の影響からか、装飾などに大陸の空気を感じる。


大したものだと山の民を褒めたら、

海の民がちょっと可哀想になるくらい落ち込み、あまりに気の毒だったので、

次回は海の民が神輿を作るようにお願いしてみた。







第四回。


中央の富裕層が祭りの盛大さを聞きつけ見物に来ていた。

人や物の流れが大きくなるため余所者の商人も足を運んでいる。


奉納合戦は苛烈の一途を辿っていた。

その品質に、朝廷への貢物として頂けないかと他国から使者がくるほどだ。


海の民の神輿は荒々しさを感じさせる男らしい神輿だった。

建築技術を学ぶために山の民に弟子入りした者が作り上げたらしい。

山の民が作った調和を感じさせる神輿と好対称で、以後は交互に使う事とした。







日本人には、やっぱり祭りが必要だな。


目に映る全ての民が笑顔で飲み食いをする姿に、私も笑顔になっていた。

この暖かな気持ちを胸に、今年も私達は冬を迎える。



※お祭りが好きです。あの独特の空気が大好きです。

 地元の寂れた神社も祭りの日だけは神社そのものが楽しげに見えます。

 神と人と、本来は対等になりえないものが対等に関係できる日ですから……。

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