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いなさく……青銅の闘争に似た香り




……来た。


ついに、待ち望んでいたものが来た!


待ちに待った、稲作、『米』の栽培開始である。




元日本人としてこれに代わるモノは醤油や味噌くらいなものだろう。

それほどに私の心は喜びに打ち震えていた。


稲は生育が難しく、稗や粟よりも弱い植物であるが

収穫量についてはそれを容易に上回るだけのものを備えている。

さらに、未だ整備が仕切れておらず水利の荒い川や沼に面した土地を

水田として作物栽培に回せるようになるのは、大きいと言えない国土を有効活用できる良い施策だ。


とある事情で周辺に戦争の気配が漂っていることに合わせ、

移民や流民が流れてきているのを捌く事業発生は実にタイミングが良かった。


この機会に河川整備も行おう。


国はますます栄え、豊かになるだろう。







初めての稲作に着手して3ヶ月が経った。


区画整備も含め、栽培は難航しているものの、おそらく上手くいくだろう。


念を入れて、王樹様から力を込めていただいたのだ。

王樹様も同じ植物仲間に祝福を与えるのを嬉しく思われたのか、快く引き受けてくださった。


生命の循環から進化した王樹様の能力は生命力強化や植物成長などが主なものであるそうだ。

あの千年樹の力を持つ稲ならば、今年の収穫は勿論のこと、次代の成長も約束されたものだろう。




……本当に王樹様の力は計り知れない。


以前、日照りによる干ばつで村が危なかった時に相談に行ったら、

翌日には少ないながらも雨が降ってきた、というエピソードもある。


それ以来、欠かさずの参拝が日課に組み込まれた。


地鎮の大神に祟られたら滅びしかないのだ。







さて、最近になると山に守られていた領土を越えた外の村や国とも

友好や同盟を結ぶまでモリトの国は影響力を拡大し続けている。


惜しむらくはこの土地が日本のどの場所なのかが分からない点だった。


ちなみに私が初めから日本だろうと考えた理由は、


集落が日本人的な黒髪黒目の黄色人種だけで構成されていた事。

ハッキリとした四季があり植生が見たことがあるものばかりだった事。

台風などの定期的な災害や、体感地震が年に1、2回ほど頻発している事。

夏の大三角やオリオン座など僅かにある星座知識で北半球が確定していた事。


などである。


弥生式の国が生まれた今の段階で稲作が伝わった事からおそらく日本で確定なのだろう。




何故、位置を知らねばならないのか。




同時期に発生しているかの邪馬台国、これから日本の中央で生まれるであろう大和王朝などの、

敵対的行動を取ってくる可能性が高い巨大勢力との距離をなんとしてでも知らければ不味いからだ。


日本史のミステリーなど今となってはどうでも良かった。

歴史が変わろうとも、私は私の国を守りたいと思っている。


何しろ邪馬台国は巫女が治めていたと記述が残っている以上、

王樹様クラスかはともかく、何らかの神霊を確実に従えていると考えられる。


大和王朝に至っては日本神話最大神の天照大御神(アマテラスオオミカミ)の末裔。

直系の血筋かどうかや、神が本当にいるのかの真偽はさておいても、

後にそう祀られるに足る強大な力を有する存在が居たからこそ各種文献に名が残っているのだ。




村をモリトの国に組み込んでいく段階で数体の祖霊を配下に置くことができているものの、

それは各種征伐を行っているであろう向こう側にもありえてしかるべきだ。




……戦の気配は年々高まってきている。


私は西の村から持ち込まれた青銅の剣を見つめた。


稲作の伝播と時期を同じくして、青銅器も日本に伝わったのだ。

金属器の発展は、これまでより高い殺傷性や耐久性をもつ武器の作製に繋がる。


大陸から渡来人の流入が早かった北九州付近では既に青銅器の生産に扱ぎ付けているか……。


青銅器が鉄器に取って変わられるのは驚くほど早かったはずだ。

こちらが青銅製の武器を作る頃には鉄製の武具を作られているだろう。


打ち合いで勝てない武器との戦いを民に強いる事になるやもしれない。


より強い武器の存在が闘争の匂いを強く感じさせた。






距離、時間、と私だけではどうしようも無い問題が降りかかる。


できる事といえば相変わらず警備、整備、指導。

少しでも国を富ませ、豊かな生活への道筋をつけてやる事くらいだ。


きたるかつて無い戦乱の予感に、私はその先の幸せな未来を祈っていた。




※渡来文化の最前線であるならば現代知識と合わせて技術チートができたでしょうが

 現在地不明のモリトの国はそこまでいけません。


※各地に残る戦神(いくさがみ)の伝承は古代日本の各種征伐が元になった話が多いとか。

 大神の系譜たる大和の影。


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