23.王都へ
「セリウス、今から王都に行くぞ!」
次の日の朝。
朝食を終えたステラがばん!と執務室の扉を開く。
さて仕事を、とばかりに書類を広げていたセリウスは、ステラの外出用のドレス姿に目を丸くした。
細く絞められたコルセットとワインレッドの艶やかなバッスルスカート。同じ色のスマートなジャケットからブラウスのレースを覗かせ、結い上げた髪には小さな薔薇のキャプリーヌ帽を乗せている。
その姿はまさに、貴婦人の街歩きらしい華やかさ。
普段のシンプルなドレスからの変わり様に、セリウスは小さく息を飲んだ。
「...なんだいきなり」
見惚れてしまった自分を誤魔化す様に咳払いをすれば、ステラは歩み寄った机に手をつく。
「ルカーシュ、あいつには絵の才がある!だから画材を買いに行きたい。絵を描かせてやるべきだ」
セリウスはそれを聞くと訝しげな顔をした。
「絵だと?そんなものをさせる為にあいつはここに預けられたのではあるまい。遊ばせてどうする」
「駑馬に鞭打って潰すより、長所を見極めてこそ主人の手腕だろ。...あとな、妻自らめかし込んで遠乗りに誘ってやってるんだぞ」
「断っていいのかしら、旦那様?」
ステラは机に身を乗り出してわざとらしく彼を見上げる。
まさか俺の為に、しかもわざわざめかし込んで誘っているとステラが自ら口にするとは。
セリウスは挑発的なエメラルドの瞳にぐっと唸って口元を押さえた。
「いや、行こう。すぐ行こう」
さっと立ち上がってジェンキンスに馬車を手配させる彼は、口の端が上がるのを隠せない。
いそいそと外出用の上着を羽織るセリウスに、ステラはふっと笑って「襟曲がってんぞ」と軽く直した。
————
広がるスカートを持ち上げ、馬車に乗り込む。
すると後から乗り込んできたセリウスがステラの隣へと腰を下ろし、ぐっと彼女を引き寄せた。
「んな!?」
前まで向かいに座っていたくせに、と慌ててばっと隣を見れば、軽く口付けを落とされてしまう。
「!」
ステラは驚きと同時にかあ〜〜〜っと顔を紅潮させて、膝の上で手を握りしめた。
「な、なんでこっちに...」
「夫婦の時間を堪能して何が悪い。せっかくの移動を楽しまなくては」
セリウスはそんなことを言いながら、彼女のこめかみに頬を擦り寄せる。
最近の彼ときたら、何かにつけてべたべたとくっついてくるのだ。屋敷の中ならまだ逃げられたが、狭い馬車では逃げようがない。
「まさか移動中ずっとこうなのか...?」
「これ以上をお望みならいくらでも」
「誰がするかっ!!!」
焦って怒鳴るが、セリウスはさらに彼女を抱き込んでキスの雨を降らせるばかり。
「はあ、俺の妻は本当に可愛らしい...。父上に感謝せねばならんな...」
「お前それ、相当物騒なこと言ってんのわかってんのか」
「君を討ち取って俺の元へ遣わして下さったのだろう。実に息子思いなことだ」
「本気でぶっ殺すぞ」
青筋を立てるステラにも彼は全く臆さず、まるで猫でも可愛がるようによしよしと撫でて首元で息を吸う。
聖女を策に落としたあの帰りから態度が甘くなっていたが、ファビアンへの誤解が解消されてからはますます彼の甘さは増していた。
「そう言いながら俺に身を預けているのだからたまらないな。さあ、もっと怒ってもかまわんぞ」
セリウスの金の瞳は余裕を纏って彼女を見下ろす。
「〜〜〜〜〜〜...っ」
もはや憎まれ口や反抗すらも愛でられてしまい、ステラはなす術がないのであった。
・・・
ようやく王都についた頃。
限界値超えの甘さを密室で浴びせられ、ステラは真っ赤に染まって腕の中で力尽きていた。
きゅう...、と脱力した彼女にセリウスは耳元で「着いたぞ」と囁く。
「残念だが続きは帰りだ」
とするりと頬を撫でられて、慌てて彼女は目を見開いた。
「っば、何を馬鹿言ってんだお前は!?」
「帰りなら多少着崩れてもいいだろう?」
「そう言う問題じゃない!!」
ステラは怒鳴りながら、焦ってばたばたとポーチから紅を取り出して唇へ塗り直す。
こちとらこれから街を歩くというのに、何を考えてるんだこいつは!
キッと睨みつければ、セリウスはにまりと笑みを返した。
重い回が続いたのでちょっと甘さで小休止。
次回、また話が動きます。




