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【連載版】聖女様、夫は返していただきます【コミカライズ進行中】  作者: 蟹子


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15/21

15.人形は舞台に立ち続ける




「聖騎士としてあらゆる甘い言葉を駆使して、どんなワガママをぶつけられても笑顔で受け止めたよ。姫君が望むならいつだって“お応え”したし、ご遊戯上の役割も色々演じて見せた」


 艶っぽく微笑む彼は、垂れ目の目尻をわかりやすく下げた。その表情は実に優艶で、姫君との爛れ切った関係を濃厚に匂い立たせる。


「ふうん。ま、聖騎士らしくあること自体は望まれてたんだろ。本人が割り切ってりゃ別に悪い事じゃない」


 あえて赤狼がわざとらしく肩をすくめて見せると、ファビアンはゆっくりと首を振った。


「いいや、悪いよ。...僕を婿入りさせた幼馴染、ヴィオレッタを犠牲にした」


「お前の妻は幼馴染だったのか」


 意外とばかりに振り向いた赤狼に、ファビアンは笑みを消し去ると静かに頷いた。


「口を滑らせてね。隣領に幼馴染がいたと。僕を兄のように慕っていたのだと。賢くて学園でも主席で、研究熱心過ぎて見た目は飾らないけど、親からも周りからも認められてた。それなのに僕なんかを慕う彼女をずっと負い目に感じてた...、ってさ」


 自嘲するような口振りで零すファビアンは、一層声を低める。


「姫君はそこに目をつけた。僕に片想いする彼女を妻に当てがえば、毎日愛される自分と比較されて楽しいと思ったんだろうね」


「実際、僕は彼女に手を出さなかったし、愛さなかったし、酷い言葉をたくさん投げたよ。実力の認められた彼女に、見た目と肩書きで認められた惨めな僕。...疎ましかった。努力家の彼女を、傷つけて、傷つけて、聖女の前で毎日笑いながら酷く罵った...」


 彼は地に着いた手で雪を握り込む。


「本当はあの子の方が美しかった。ヴィオレッタは汚れた聖騎士の僕を責めなかった。支えようとしてくれた。領の運営も植生の研究にも一人で励みながら、僕を必死に理解しようとしてくれたんだ」


 それなのに、と彼は喉から声を絞り出す。

手のひらの中で固められた雪の塊が、鈍く音を立てて割れた。


「僕は聖騎士の立場を失って、なお自分が惨めだからと彼女を突き放した。僕を馬鹿にしてるだろう、見下してるくせに優しいフリをするな、君を絶対愛したりなんてしない...」


「追い出されて、当然なんだ」


 彼は言い切ると、ぱっぱっ、と雪を両手で払った。


 赤狼はそんな姿をじっくりと兜の内で見定める。

表向きは軽薄で、内は承認に飢え、役割の為に生きた青年。幼馴染を語る彼の口調は誠実だが酷く寂しげで、こちらの感情を引き摺り込むほど痛ましい。


 ファビアンは手のひらに残る雪を丁寧に払って、指先を見つめる。

そしてにこ、と微笑んで赤狼を振り向いた。


「君はまだ若いんだから、僕みたいになっちゃダメだよ。赤狼くんにもいるんでしょ?好きな人がさ」


「は!?い、いないが」


 思案を巡らせていた赤狼は、いきなりの彼の言葉に慌てた声を上げる。

するとファビアンはさらに唇を上げて迫った。


「焦ってるねえ、わかるよ?恥ずかしいよね!で、どんな女の子?僕みたいな可愛いタイプ?それともおっとり癒し系?うーんそれとも、クールで無口な美人かな?」


「う、いや、その」


 途端に歯切れの悪くなる赤狼に、ファビアンはパッと目を輝かせる。


「おっ、クールビューティー系かあ!いいねえ、僕もそういうタイプだーいすき!」


「うう、」


 すっかり黙り込んで俯く赤狼に、ファビアンは鎧の肩へ手を伸ばしてがっしりと組んだ。


「で、どっちから告白したの?もう好きって言ったの?言われたの?僕がこれだけ話したんだから答えてくれるよねえ?」


 じとり、と兜の内を覗き込まれ、赤狼は慌てて見えないようにと身をすくめた。そして目を逸らしたまま、ぼそりとつぶやく。


「...俺じゃない。あっちが勝手に言い寄ってきてるだけだ」


「ふうん?」


 ファビアンの視線は続きを促している。

赤狼はその圧に耐えきれず、誤魔化すように付け足した。


「急にべたべた口説いてくるようになって、まあ、その、しょうがないから付き合ってやってる」


「え〜その子ったら積極的〜!でも率直な君が付き合うってことはまんざらじゃないんでしょ?どこが好きなの〜?」


「えっ!?いや、どこが好きとか、そういうのは、その」


 どんどん鎧の中で茹で上がっていく赤狼は、それを悟られないようにと途切れ途切れに言い淀む。

ファビアンはそんな姿が楽しくてたまらず、鎧の上から肩を柔くゆすった。


「たとえばそうだなあ、声は?その人の声はどんな感じ?高いの?低いの?話し方はどんな感じ?」


「まあ、...低い、かな。話し方は...静かな方だと、思う」


 ぼそぼそと言いづらそうに答えた赤狼に、ファビアンはそっと囁く。


「そこは好き?」


「っ...!!」


 ぼっ、と肌が燃え上がるのを感じて赤狼は声を詰まらせる。ファビアンは満足そうに頷くと、畳み掛けるように耳元で囁いた。


「好きなところは、好きって相手に言わないと。ちゃーんと伝えてあげたほうがいいと思うなあ。相手を大切にしないと、いつか傷ついて離れていっちゃうよ?」


「僕みたいにならないで」


 最後に一言告げると、ファビアンは赤狼の背をコン、と叩く。


 さっと立ち上がって雪を手早く払い落とすと、彼はさくさくと雪を踏んでセリウスの方へと歩んでいってしまった。




————




 どさ、と最後の魔物の死骸を荷馬車に積み上げたセリウスは、軽く両手をパンパンと払う。


 薬や防具、美術品として有用な魔物の素材はこの領地において重要な資源である。実りの少ない雪国では一体たりとも無駄にはできない。

 淀みから産まれる魔物は様々だが、今回は特に鳥に似た魔物が多かった。鮮やかな羽根は高く売れるから、騎士達の実入りも増えるだろう。

 彼は腰に手を当てると、ふ、と息をついて振り返った。


 するとそこには満面の笑みのファビアン。

そして少し離れた先には、鎧の隙間から湯気を漏らして座り込む赤狼の姿。

 それらを視界に納めた途端、嫌な予感が駆け巡った。


「あいつに何をした」


 セリウスがぐ、と眉を寄せてファビアンに詰め寄ると、彼はにこっと彼に唇の端を上げる。


「別に?奥方様って色っぽくて素敵だよね〜って話で盛り上がっちゃっただけだよ?」


「なんだと」


 ファビアンは知らないとはいえ、赤狼、つまりステラ本人にそんな話を振ったのか。

セリウスが目を見開く間も、ファビアンは話し続ける。


「奥方様ってとってもお優しいし、すらっと背も高くてスタイルは抜群だし、なによりすごい美人だし!あの目の色、ほんと宝石みたいで綺麗だよねえ?話し方も知的で、声まで艶っぽいのは反則だよね!はあ、一度でいいからあんな声で囁かれてみたいなあって...」


 ファビアンはまことしやかに熱っぽく語り、うっとりと両手を握り合わせる。


 セリウスは愕然として、今まさに真っ赤に茹で上がっているだろう己の妻へと視線を移した。

聖女を虜にする程の美男から目の前で褒め殺され、明確に色を匂わされたとあっては平常心ではいられまい。


 ステラはそもそも、恋愛的な接触にはめっぽう弱いのだ。そんな彼女がこんなことをされれば、ファビアンにすっかり骨抜きにされてしまったのではないか!?


「しかもジェンキンスに聞いたら奥方様って、君に好きって言わないらしいじゃない?これって僕にもチャンスがあるって事じゃないかなあ、ねえセリウス」


 覗き込むように微笑まれ、セリウスはぐっと言葉に詰まる。実際、言われてなどいない。なんならいつも言葉の上では拒まれているくらいである。

ただ、結局は己に身を委ねてくれるから安心していただけで。


「本当に奥方様って君のことを好きなのかなあ?もしかして君だけがぞっこんなんじゃない?君が確かめないなら、僕が先に確かめちゃってもいいよね?」


 挑発的に笑うファビアンに、セリウスの背筋が冷えていく。ガチャ、と音がして視線をやれば、立ち上がってこちらを見ていた赤狼と目が合った。

が、途端にばっ!!と勢い良く逸らされてしまう。


「な...、」


 あまりの衝撃に思わず剣を取り落としそうになるセリウスの左手を、ファビアンはぐっと上から握り直させる。


「ちゃんと確かめないとね、セリウス?」


 囁くファビアンを慌てて振り向けば、彼はすっと離れて「あはは!冗談!」と笑った。

そんなファビアンは馬を解く騎士達の元にさっさと駆け寄ると

「ねえ僕も今日は飲みにいくよ!どこがオススメ?」

と会話に加わり、途端に彼らは盛り上がってしまう。



 セリウスはぎこちなく歩く赤狼の後ろ姿を見つめたまま、ぎゅ、と革手袋の擦れる音を立てた。


 



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― 新着の感想 ―
ファビアンの過去の所業 流石に鬼畜すぎねぇか… 15話読んで最初の感想がこれでした 言葉悪くてスミマセン
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