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【連載版】聖女様、夫は返していただきます【コミカライズ進行中】  作者: 蟹子


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13/22

13.垣間見える関係




「出立前に紹介しておこう。この男はファビアン・ラングロワ。元聖騎士だが王都を追われた所を引き取った。今日から一騎士として働かせる」


 セリウスが馬に鞍をかけて行軍を待っていた騎士達に告げると、紹介されたファビアンがにっこりと微笑む。


「どうも辺境騎士の先輩方!至らぬ点の多い僕ですが、どうかお手柔らかに!皆さんのお手を煩わせないよう精一杯頑張りますので〜!」


 輝くばかりの面立ちでにこーっ!と人懐っこい笑みを浮かべた彼に、騎士達がうっと瞼を細める。

寒く厳しい辺境は土地柄ゆえに、堀の深く強張ったような険しい顔立ちが多い。そんな中で彼の屈託のない少年のような笑顔は、文字通り眩し過ぎるのだ。


 加えて、割とがっしりしているセリウスすら多少細身に見える程には辺境の男達は背がぬうっと高く、体付きも実に逞しい。上等なマントに厚着というのにすらりと線の細いファビアンの立ち姿は、彼らにとって一際異質な都人に見えるのだった。


「おいお前、そんな細っこくて戦えるのか?初日で魔物に喰われてくれるなよ」


 重装を身に纏った“赤狼”が腰に手を当てて、はん、とファビアンに顎を上げて笑う。

ファビアンは自分よりほんの少し低い背の鎧姿に目を丸くして、しげしげと彼を見つめた。


「へえ、君が例の“暴れん坊の赤狼くん”?君だって僕と大して見た目が変わらないじゃないか!ていうか声可愛いね、歳いくつ?22の僕より若いんじゃない?」


 じろじろと兜の隙間から覗き込もうとする彼を、赤狼は拳でドンと突き飛ばした。


「おふぅっ」


「今年で19になるが、この若造よりお前は強いのかと聞いている。いいか?俺の足手纏いになるようならすぐさまお前を斬り捨ててやる。熊の餌になりたくなくば、少しは働きを見せてくれよなあ聖騎士殿!」


 胸に拳を喰らってよろける彼に向かって、あっはっはァ!と豪快に高笑いをかます赤狼。


 それらを眺めていた騎士達は相変わらず血の気の多い“蛮族の奥方”の態度に呆れつつ、新参者のファビアンの身を少しばかり不憫に思うのだった。




「よくやったものだな、赤狼殿。さすがは元・長と言ったところか」


 騎士達の前、黒馬を速足で歩かせるセリウスが隣の赤狼へと目を細める。


「ふん、萎縮されて挙動が狭まってはつまらんだけだ」


 馬上の赤狼は小さな金属音を立てて肩をすくめて見せるが、先ほどのやり取りのおかげで騎士達の意識の変化は明らかだ。


 “初日から厄介者に目を付けられた不憫な青年”。

そんなファビアンを慮ったのか、「寒くはないか」、「朝食はちゃんと摂れたのか」、「わからんことはこちらに訊け」などとひとつ後方で不器用に気遣っているのだから。


 セリウスはそんな彼らを尻目に、ただ前を向くばかりの狼面の兜へ、ふ、と笑みをこぼす。

この鎧の中の女は、なんだかんだと言って己や他人に強く当たりつつ立ち直れるよう目をかけるのだ。その強気な愛情深さに惹かれたと言っても過言ではない。


 するとその愛しい銀の面頬が、おかしそうに小さく揺れた。


「それに実際、見てみたいじゃないか?あの甘く整った顔の優男がどこまで剣を振れるのか。こちとら割と楽しみにしてるんだ」


 ちらり、とファビアンに視線を送って兜の中でくぐもった笑いを響かせる姿は楽しげで、すっかり頬を緩めていたセリウスは焦ったように眉を寄せる。


「...まさか、あいつに興味があるのか?」


 未だ愛を囁くのは己ばかりで、ステラから明確な好意の言葉など受け取ってはいないのだ。己を簡単に“欲しいもの”なんて言った彼女の事だ。ファビアンまで新たな“欲しいもの”として認識されていたら。


 そういう事ならば捨て置けない、とセリウスは翳って見えない妻の目元を覗くようにじっと見つめた。

だが、返ってきたのは衝撃的な台詞だった。


「ある。大いにある。見てろよ、絶対にあいつを一枚一枚丁寧に暴いてやる。実に待ち遠しいなあ!」


「な...っ」


 ふふふ、と嬉しそうな声を漏らされ、セリウスは思わず声を上げて固まってしまう。

妻の興味がファビアンに大きく向けられ、その上“一枚一枚丁寧に暴いてやる”、“それを見ていろ”だと!?


 ベッドの上で衣服をはだけ、顔を赤らめるファビアンと妖しく見下ろすステラの姿が映像の如く鮮明に浮かび、ぞおっと背筋が冷えて息を吸う。

セリウスはぐっと唇を噛んで、革手袋の中でじわっと浮いた汗を強く握り込んだ。


 失敗だった。

やはりあいつを受け入れたのは失敗だった!

あんなへらへらとした軟派者などに、俺の妻を渡してなるものか...!


 途端にごうっと黒い憎悪を纏ったセリウスは、ぎろりとファビアンに視線を突き刺す。


「お前を殺してやるからな」


「なんでえ!?」


 いきなり前方から殺意を向けられたファビアンが素っ頓狂な悲鳴を上げる。

騎士達はそんな姿を見やって、不憫なやつだとますます情が湧くのだった。



————



 セリウスの左手に握られた重い両手剣がヴン、と低く空を揺るがせ、魔物の群れを薙ぐように斬る。

その背後で赤狼がひゅるん、びゅわっ!と踊るように剣を振い、次々と魔物の首を遊びのように宙へ飛ばした。


「32、33、34、35とこれで6!あー怠い!ちまちまちまちまと!一匹一匹数えて斬るのは怠すぎる!人が相手なら馬で一気に三人くらい簡単なのに!あれは実に爽快だぞ!だが作業だこれは、ただの作業だーーッ!!」


 赤い兜飾りを振りながら、両手に持った双剣を振り上げて赤狼が空へと怒鳴る。

セリウスは魔物を地に叩き付けながら、荒ぶる鎧にため息を吐いた。


「毎日よくも怒鳴ることに飽きないな。健康法か何かか」


 しかしそう言いつつも、彼女の気持ちはわからんでもない。


 魔力の淀みから生まれる魔物は馬をひどく怯えさせる為、馬上から纏めて屠ることは難しい。よって魔物討伐においては、平原までの雪野原の移動手段にしかなり得ないのだ。

 そしてそれは実際、手作業で一本一本雑草を抜くような途方もない作業のように感じているのは確かである。


「だからもう飽きてるんだッつってんだろ!発声練習で怒鳴るくらいならお前を殴った方が精神的に健康だ!何故ならこの魔物どもみたいに馬鹿みたいに突っ込んでは来ない分まだマシだからな!」


「つまり俺と二人で手合わせがしたいのか。そういう可愛らしい頼みなら素直に言えばいいものを」


「何を〜〜〜っ!?言ってくれるな小童ァ!今殺す!!」


 二人は次々飛びかかる魔物を斬り伏せながら、笑みを浮かべて互いに激しく剣を打ち合う。

少し後方で彼らのやり取りを見ていたファビアンが「へえーっ」と目を丸くした。


「セリウスって赤狼くんと仲良いんだねえ。あんなに楽しそうな姿初めて見たよ。でも小童ってなに?あいつ僕と同い年でしょ?」


 すらりと細身のレイピアで魔物の核を的確に突いて、シャッと血を拭くファビアンの動きは非常に優雅だ。


「童については我らもわからん。だがまあ、お二人は...」


 騎士の一人が言いかけると、側にいた二人が「言わずもがな」と頷いて見せた。事実、赤狼殿が奥方様であることは騎士達の暗黙の周知だが、流石に新人騎士には伝えられない。


「そんな親類がいる話、聖騎士時代には全く教えてくれなかったよ。あんなにいっぱい話しかけたのになあ」


 ワルツでも踊るように洗練された動きで魔物を屠っていくファビアンは、少し切なげな笑みを浮かべる。同時に赤狼が刃先で思い切りセリウスに雪をぶちまけ、もろに被ったセリウスが払った瞬間に顎下へピタリと刃の面を当てた。


「あっははァ!勝ちだ!今回は勝った!文字通り雪辱だなあ騎士殿!」


「卑怯な技を...、恥ずかしくないのか君は」


「あいにくお堅い騎士道は持ち合わせていないんでね!さあ前回のぶんを取り返したから52対52でまた引き分けだぞ!」


 黒髪と衣服についた雪を払い落としながら眉を寄せるセリウスに、赤狼がわざとらしく煽り倒す。

そして満足しきった赤狼は兜の上からでも伝わる笑顔で、ファビアンを振り向いた。


「次はお前だ!相手をしろ!」


「へえ、僕ぅ?」


 間抜けな声を上げて青い目を丸くする彼に、赤狼は「こい!」と大きく手のひらで招く。



「よーし、じゃあ本気見せちゃおっかな〜〜〜!」



 ファビアンはきゅっと頬を上げるとレイピアをシャッと腰に納刀して、雪にはしゃぐ犬のように赤狼に向かって駆けていく。

 魔物の死骸が散らばる雪の上、すらりと抜いたレイピアと双剣が高い金属音を立ててかち合った。


「おっ、わっ!?、あはっ!!なんだ、面白いなお前の剣は!」


「その鎧でよくヒョイヒョイ避けるねえ!でもレイピアってのは、鎧に特化した、剣だからさっ!」


 ファビアンの鋭い刃先がひゅん、ひゅわっ!と軽い音を立てて的確に鎧の隙間を狙う。

赤狼は器用にそれを避けつつ、地面を蹴って手をつくと、くるんと宙を舞った。

ガチャッと軋む音を立てて足をつける。


「っと、とと、うわあっ!?」


 が、重装の重みに耐えきれず、視界が上がったと思った瞬間雪の上に尻餅を付いていた。

重さで沈み込み、瞬時には立ち上がれない。

するとひゅるっと風を切る音を立て、兜の隙間に切先を当てられる。


「へっへ〜、僕の勝ち!まずは1対0だね、赤狼くん?」


 得意げにふぁさりと明るい金髪を払いのけて笑うファビアンに、赤狼はきょとんと見上げる。そして一つ間を置くと、弾けるように大笑いした。


「...っあははは!いいな!いいなお前!最高だ!この俺に手をつかせるなんて奴がセリウス以外にもまだいるのか!気に入った!」


「ふふふ!そこまで喜ばれちゃうと僕まで嬉しくなっちゃうねえ!はあ、こんなに汗をかいたのは久しぶりだ...」


 立ち上がって膝を払いながら笑う鎧の妻に、自らの手のひらを感慨深そうに眺めながら微笑むファビアン。


 じわりと腹の底を這う妙な感情に、セリウスは口を固く結んだ。




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