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【連載版】聖女様、夫は返していただきます【コミカライズ進行中】  作者: 蟹子


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10/11

10.辺境への訪問者



 穏やかな朝の辺境伯邸にて。

厚いカーテンの隙間から、登った朝日がすうと差し込む。雪はしんしんと降り積もり、朝日の白さをより際立たせる。


 それはベッドへと光の筋となって落ち、枕へ広がる長い黒髪を艶やかに照らした。


 墨色の睫毛をゆっくりと瞬かせたセリウスは、ぼやけた視界に色を捉える。それが愛しい赤だと気付いた彼は、金の瞳を細めると口元を綻ばせた。

 ふわりと跳ねた髪を撫で、そのまま頬へと優しく触れる。


 胸元で小さく寝息を立てるのは、普段の気の強さを忘れて緩み切った妻の寝顔。

セリウスはおもむろに、彼女の頬を親指と人差し指で挟み込んだ。


「んいい...」


 きゅう、と頬をつままれたステラが不快そうに眉を寄せる。セリウスはその間抜けな声にふっと笑うと、さらに柔い頬を横へと伸ばした。


「朝だぞ、ステラ」


 甘く囁きかける低い声。


「......、ひゃめろお...」


 寝ぼけたステラは目も開けられず、伸ばされた口でなんとか答えるのが精一杯。

セリウスはそんな彼女を愛おしそうに見つめて指を離すと、元の形にふるんと戻った頬へとキスを落とした。


「愛しい夫に朝の挨拶はくれないのか?」


 彼はステラの背中へ腕を差し入れ、ぐいっと身体を抱き起こす。


「......愛しい妻の睡眠を削っておいてよく言うな...」


 強制的に起こされたステラは不機嫌に悪態をつく。そしてようやく薄目を開くと、朝日の眩しさにまたぎゅっと瞼を閉じた。


「まぶしいおやすみ」


 それだけ言って膝に落ちた布団を被ろうとすると、すぐさまかぷりと耳を食まれる。


「っひゃあ!?」


 ステラはびくんと肩を上げ、ばっと瞳を見開く。

口を離したセリウスは、悪戯が成功した悪童のように微笑みかけた。


「おはよう、いい朝だな。辺境伯夫人」

「...朝から死にたいみたいだな、旦那様」


 慌てて息を整えたステラは、悪びれない夫に向かって牙を剥いて睨みつける。けれどもすっかり上気してしまった頬は、照れと焦りを隠せない。

 セリウスはますます嬉しそうに微笑むと、紅の無い唇へと口付けた。


「んん、」


 ステラは一瞬びくりとするものの、すぐに小さく声を漏らして、きゅ、とセリウスの夜着を握る。


 ついこの前までの彼女であれば、こちらの胸を思い切り殴り付けて来ただろう。しかし今や、甘さに慣れない指は小さく震えてはいるものの、彼を押し除けようとはしない。


 なんだかんだと文句を言いながら、日々拒まなくなっていく彼女が愛おしい。腕の中でゆっくりとこちらの熱を受け入れて、強張っていた力が抜けていくのを感じる。

 まだ時間はあるから、いっそこのまま...と彼女の腰を引き寄せたその時。


 コンコン、と二度のノックと共に


「失礼します。旦那様、お客様がいらっしゃいましたよ」


とジェンキンスの静かな声が扉越しに響いた。



————



「わあ〜っ!!セリウス久しぶり〜〜〜っ!!!あれから元気だった!?ていうか君んとこの領地ってばめちゃくちゃ寒いねえ!雪はすごいわ埋まりそうになるわ、僕もうすっかり凍えちゃったんだけど!ねえほら見てこの唇の青さ!最高の美男が台無しだよ!」


 玄関に降りると、一人の青年が被った肩の雪を払いながら笑顔で捲し立てる。


 輝く金髪に青い目。すらりとした長身はセリウスよりも頭半分は低いものの、騎士らしく鍛えられている。この国の王道たる色と美しさを誇る姿は、まるで絵物語の王子のよう。


 彼と向かい合ったセリウスはぐっと眉を不機嫌に寄せた。


「...ファビアン。何故ここに来た」


「うわっ、なんでそんな怖い顔するのさあ!僕らは同じ元聖騎士の仲でしょ〜!?一年間も絆を深め合ったあの日々を忘れちゃったのかい!?」


 ファビアンと呼ばれた彼は優美に弧を描く金髪をふわりと揺らし、青く透き通った目でセリウスへ訴えかける。

 肩を掴まれたセリウスはますます眉根の皺を強く寄せると「お前が常に横から話しかけていただけだろうが」と憮然として答えた。


「ほんっとツレないなあ君は!あんまり怒ってるとそのシワ取れなくなるよ?ねえ使用人さん、なんでこいつこんな不機嫌なの?朝弱いの?低血圧?」


 話しかけられたジェンキンスはにこりと微笑むが、主人の不機嫌の理由が“妻との朝を邪魔されたから”などと答えられるはずもない。

 扉を開けた時のあの舌打ちと、奥方様の慌てた赤い顔たるや。朝からお元気な事である。


 ますます苛立つセリウスになんとも言えない微笑みを浮かべつつ、彼は奥方がおられるだろう上階へとちらりと視線を移す。

 すると階段が小さく軋む音がして、手すりに長い指が滑るように現れた。


 狙い澄ましたように、ガウンを纏って紅を引いたステラが階下へと降り立つ。


「旦那様。そちらの方はどなた?」


 完璧な淑女の笑みをたたえて尋ねるステラにセリウスが振り向くと同時に、ファビアンもはっと階段へ顔を上げた。


 そしてステラを見据えた彼は、セリウスが口を開く前にぱあっと快活な笑みを浮かべた。


「奥方様!申し遅れました、僕はセリウスの元同僚、元聖騎士のファビアン・ラングロワと申します!どうぞお見知り置きを!」


 胸に手を当てたファビアンは爽やかな笑顔で、人懐っこく首を傾げて見せるのだった。 





聖騎士、登場!その理由とは...?

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― 新着の感想 ―
初見エピソードスタート、ありがとうございます。なのに、エピソード9の後書きで、不穏な言葉のあとの来訪者。 吉と出るか凶と出るかが分からず…怖ぇよ〜(涙&笑)。
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