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碧い残響のプリズム

作者: ヨーデイル
掲載日:2026/01/12

僕の目には世界が色づいて見える。

他人の悪意はドブ色に、嫉妬は粘つく紫に、愛想笑いは安っぽい蛍光色に。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()を持つ僕にとって、人混みは吐き気を催すペンキの海だ。


「……最悪だ」


放課後。クラスメイトたちの放つ極彩色の騒音に耐えきれず、僕は逃げ出した。 向かう先は、立ち入り禁止の旧校舎。 埃とカビの匂いだけが漂う、世界で唯一の無色透明な聖域。


そこで、僕は「彼女」と出会った。


音楽室の扉を開けた瞬間。 視界に突き刺さっていた棘のような色が、一瞬にして洗い流された。


「――あ」


窓辺に、少女が座っていた。 古いアップライトピアノの椅子に腰掛け、鍵盤には触れずに、ただ夏の空を見上げている。


逆光が、彼女の金色の髪を透かして、神々しい輪郭を描いていた。 僕が息を呑んだのは、彼女が美しかったからではない。 彼女から溢れ出る「色」があまりにも綺麗だったからだ。


それは、雨上がりの空のような、あるいは深海の底のような。 どこまでも澄み渡り、触れれば壊れてしまいそうな透明な碧。


僕の人生で初めて見る、混じり気のない純粋な光。 その光を浴びた瞬間、張り詰めていた僕の神経が、熱いお湯に浸かったように解けていくのを感じた。


「……ふふっ。やっと見つけてくれた」


少女が振り向く。 目が合った瞬間、心臓が早鐘を打った。 彼女の瞳が、僕の心の奥底まで見透かすように細められる。


「こ、ここで何を……」 「待ってたんだよ。君を」


彼女は椅子から軽やかに飛び降りると、躊躇うことなく僕に歩み寄り、その顔を覗き込んだ。 近い。 甘い日向の匂いが鼻をくすぐる。


「君、すごい顔色してる。……世界が、うるさいんでしょ?」


図星だった。 彼女の細い指先が、僕の瞼にそっと触れる。 ひんやりとして、でも芯が痺れるほど熱い感触。


「大丈夫。私のそばにいれば、全部消してあげる」


それは、悪魔の契約のようであり、女神の救済のようでもあった。 僕は知らず知らずのうちに、彼女の瞳に吸い込まれていた。


「君は……」 「私はエマ。星見エマ」


彼女は悪戯っぽく微笑むと、僕の手をぎゅっと握りしめた。


「今日から君は、私の『共犯者』ね。カイトくん」


その瞬間、僕の世界は塗り替えられた。 灰色だった景色が、彼女を中心に鮮やかに色づき始める。 これはきっと、恋なんて生易しいものじゃない。 僕の魂が、彼女という「運命」に捕食された瞬間だった。

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