第八話 空の上
少し乗っていると、空を飛ぶという異常な行為にも慣れてくるもので、不思議な気分になる。
大通りの上空まで行くと、行きかう人々を見渡すことができた。街全体がミニチュアのおもちゃのように見える。
普段なら見えない景色に、絵里香は感動すると同時にいつもと何か違うように思えた。
(何かがおかしい気がする)
絵里香は瞼を閉じて違和感の正体を探る。飛ぶとなった時に、避けられないものとは何か。思えば、こんな冬の日なのに寒くない。少しして「もしかして」と呟く。
「なにか、バリア的なものを張って風を防いでいますか?」
「飛んでいると風を強く受ける。それを防ぐために簡易バリアで体を守っている。ついでに、他の人間に飛んでいるところを見られないように、認識阻害の魔法をかけている」
オーカーが前に向けていた視線をチラリと下に落とす。
「良く分かったな」
「今の季節、風なんて当たったら相当寒いのに、全然そんなことなかったので」
「そうか」
「それにしても、そんな魔法も使えるんですね。流石、魔法使いです」
オーカーが不思議そうに復唱する。
「魔法使い……?」
「はい。だってその通りじゃないですか」
「確かにそうだが……」
オーカーが何処か腑に落ちない様子で肯定する。
「魔法使いといえば、ほうきで空を飛んでいるイメージですけど」
絵里香はオーカーが立ち乗りしている棒をちらりと見る。光に当たっている棒がきらりと光っている。
「今乗っているこれ、棒ですよね?」
「ほうきだが?」
「は?」
思わず、棒を二度見する。
「いや、これどう見ても棒じゃ……?」
「ほうきだ」
「ほうきってほら、もっとこう、木でできていて、穂があって……」
「結局、ほうきといったって、掃除には使わないから穂はいらない。それに、木だから耐久性もない。というわけで、飛ぶ機能はそのまま、一から特別な素材で作ったのがこのほうきだ」
「じゃあ結局、ほうきっていうのは名前だけじゃないですか……」
絵里香が呆れる。絵里香の中の理想像が少し崩れた音がした。
「まあ、やっぱり、私が知っている常識とは全然違うんですね」
「それはそうだろう。話した通り、俺はこの世界の住民じゃないからな」
オーカーがさらりと言い放った言葉に、思わず大声で返す。
「そう!それですよ!昨日聞きたかったやつ。この世界の住民じゃないって。昨晩も言ってましたよね。どういうことですか!」
「言葉の通りだ。別の世界から来た。こっちでいう異世界に当たるか」
「異世界……」
「俺は違う世界から来たから、この世界の常識は通用しない。こっちの世界には魔法があるが、ここにはない。なら、出来る文明も違うだろうし、常識だって違うだろう」
「……ごめんなさい。ちょっとキャパオーバーです」
絵里香は首を振って降参の意を表す。
「そうだろうな。詳しくは後で話す」
「とりあえず、魔法がある世界が存在するってことですか?」
「そう考えてくれたら良い」
「なるほど」
そう言いながら、絵里香の中で、様々な疑問が生まれる。
(魔法も未だ半信半疑なところがあるのに、異世界なんて流石にスケールが凄すぎてもう、よく分からなすぎだよ、もう)
絵里香が考えれば考えるほど謎が深まる。
後で説明してくれるというオーカーの言葉を信じて、絵里香は深く考えるのを放棄した。




